第8・4節 未来人・淀殿とその周辺
聚楽第へ淀君を迎えに行った私は、すぐ淀君の部屋へ通された。
私:「ご無沙汰いたしております。淀様。」
淀:「利休様、失礼ですが、もう一度、私の名を呼んでください。」
私:「淀様?」
淀:「利休殿はこちらに、皆、一度下がって大政所様を呼んできてください。」
しばらくして大政所が現れた。
淀:「利休様、もう一度、私の名を呼んでくださいますか。」
私:「すみません。淀様という言い方は間違っていたのですね。」
大政所:「普段から、関白様の前でも茶々(ちゃちゃ)様と呼ばれています。利休様、失礼は承知でお聞きします。あなたはどこのどなたですか?」
正直に言わないと、殺される。
そう思わされる雰囲気が、大政所にはあった。
私:「失礼いたしました。私は平成時代から来た曽我宗和というものです。サラリーマンをしておりました。どこまで信じていただけるかわかりませんが、この時代にいる山田次郎氏に助けられ、茶道などを学んでいます。千利休と言っていますが、右も左もわからないただの凡人です。未来に帰る為、来年、自殺する必要があります。」
淀:「未来に帰れるのですか?」
私:「はい。山田次郎氏の作った機械ですので、彼に聞けば未来への帰り方がわかります。ただ、彼の兄・山田一郎氏に命を狙われているので、今どこで何をしているかは伏せさせてください。」
大政所:「茶々、これは一大事ですよ。私達も未来へ帰れるのですから。」
淀:「仲様!おめでとうございます。失礼いたしました利休様。私達も実は未来人です。山田次郎氏の件は、瀬田掃部の動きから何となく察していました。」
私:「えーと、すみません。状況がよく呑み込めないのですが。」
私は、淀君こと茶々様と、大政所こと仲様の素性を聞いた。
まとめるとこうなる。
仲様曰く、茶々は、未来では慎重派の30代女性市議会議員で、元日本史の先生。
明るい性格で、誰からも好かれる。
一度信頼すると口癖で「生涯ついていきます。」と言ってしまう。
裏千家の茶名はまだ取れていないが、裏千家茶道正引次の資格を持つ。
茶々曰く、仲様は、セキュリティー管理会社の40代人事部長。
人を見抜く目は天才的だが、独善的な部分があり、同僚からは嫌われている。
妻が裏千家の茶名を持つ。
愛妻家で、ときどき着物の着付けを手伝う。
子供はいないという。
二人とも、未来への帰り方は知らない。
茶々:「私たちの素性は理解していただけたと思います。それから、瀬田掃部についてですが、秀吉様と二人で未来人・山田次郎氏から何かを聞き出して、殺そうとしているのを立ち聞きしたことがあります。まだ、山田次郎氏が誰かは分かっていない様子でした。私たちが未来人だということもバレていません。」
大政所:「茶々、いつも言っていますが、バレるという単語は素性が割れる危険がありますよ。」
茶々:「失礼いたしました、仲様。利休様もお気をつけくださいね。」
私:「はい。気をつけます。つまり山田一郎派に瀬田殿と関白様がいるということですね。これは手ごわいかもしれないですね。それと茶々様、小田原征伐に出ている山田次郎氏には、箱根湯本で会えるかもしれません。確約はできませんが。」
茶々:「利休様、よろしければ山田次郎氏から得た情報を教えていただけませんか。」
私は、二人に以下の点を話した。
未来へ帰るためにはキーワードと自殺が必要なこと。
弟・山田次郎が機械を作り、兄・山田一郎が誤動作させたこと。
山田一郎は機械を掌握し、歴史を改変させ、世界を我が物にしようとしていること。
山田一郎は次々に未来人と分かった人物を殺していること。
大政所:「なるほど、おおよそ状況はわかりました。では茶々、利休様についていって、山田次郎氏と接触してください。くれぐれも未来人と悟られないようにしてください。利休殿も良いですね。」
私:「はい。気をつけます。」
淀:「気をつけます。」
大政所:「では、いってらっしゃい。吉報を待っております。」
茶々の旅支度を待って、一緒に聚楽第を後にした。
どこで誰が聞いているかわからないため、私と茶々は、未来のことを可能な限り伏せることにした。
数日後、箱根湯本に着いた。
しかし、関白秀吉が未来人の可能性があるのか。
強敵だな。
まずは、細川にこの辺のことを話さないと。
更に数日が経ち、細川が戦場から箱根湯本に戻ってきた。
瀬田掃部も一緒である。
私は細川に目配せし、利休の部屋に来てもらった。
私:「瀬田掃部と関白秀吉は、山田一郎の関係者です。気をつけてください。」
細川:「何か分かったのですね。ただ瀬田掃部が向こう側となると、ここでは危険です。場所を変えましょう。」
私たちは、誰もいない暗い部屋へ入り、小声で話をはじめた。
私:「大政所の仲様と、茶々様も未来人です。二人とも未来へ帰りたがっています。私は、細川殿や古田殿の素性を言っていません。なので、茶々様には私の方から帰り方を伝える手も使えます。」
細川:「慎重にしていただきありがとうございます。では、利休殿から伝えていただきましょう。未来へ帰るためには、本人にいくつか聞いてほしい点があります。こちらへ来た年月、こちらへ来た時にいた場所と行動、そして、本人の住所・氏名・年齢です。ですが利休殿、どのようにして未来人と分かったにせよ、未来人を見つけて、内容を話すというのは危険な行動です。今後は気を付けてくださいね。」
私:「はい、注意します。」
細川:「しかし、淀の方様や大政所様となると、私が直接お会いすることはないですね。」
私:「淀の方?」
細川:「茶々様の事です。淀君とか淀殿というのは江戸時代になって一般化する蔑称です。利休殿、もしかして呼び方を間違えましたね。」
私:「お察しの通りです。すぐ咎められました。」
細川:「瀬田殿でなくて良かったですね。しかし、関白様が山田一郎の関係者とは。私も気をつけなくては。では今日はお開きにしましょう。淀の方様から情報を聞いても、すぐには逢わないでおきましょう。そうですね、武将たちが箱根を出立する頃、私から利休殿に接触しましょう。」
私:「わかりました。ではそれまでに確認しておきます。」
細川:「よろしくお願いいたします。」
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