第7・2節 正午の茶事 ~懐石の手順~
昼過ぎ、私は予定していたお茶会の為、細川邸に向かった。
家の前では細川玉子が出迎えた。
玉子:「ようこそお越しくださいました利休殿。古田殿や夫と相談した結果、本日は、私・玉子が亭主を務めさせていただきます。お二人は既に待合に行かれています。どうぞお入りください。」
待合へ行くと、古田と細川が立ち話をしていた。
細川:「そうすると、古田殿とは完全に別行動になりますね。」
古田:「そうなります。小田原では細川殿に一任することになりますが、利休殿にあまり接近しすぎると、逆に怪しまれます。利休七哲の一人として、うまく立ち回れないものでしょうか。」
細川:「そうですね。おや、利休殿、ようこそお越しくださいました。」
私:「私に関して、難しそうな話をされていたようですが、お聞きしても良いでしょうか?」
古田:「では、茶会の席で話しましょう。まずは、利休殿には正客になっていただきます。次客は細川殿、詰は私が務めます。では利休殿、待合に円座を置いてください。」
私:「了解です。」
三人が待合に座って間もなく細川玉子が現れた。
無言でお辞儀をし、玉子が水屋の方へ戻ったのを確認してから私はこう言った。
私:「で、では、参りましょう。」
細川:「利休殿、正客なのですから堂々としてください。それと、玉のもてなしを楽しんでいただけると助かります。内緒ですが、この日の為に、かなり練習したようなので。」
私:「それはありがたいことです。」
古田:「利休殿、蹲踞へ進みましょう。玉子殿をあまりお待たせしても失礼ですので。」
私:「そうですね。では、参りましょうか。」
蹲踞で手と口を清め、躙り口から茶室に入って、軸を拝見、席に着いた。茶室には風炉が置いてあった。炭には火がついていたが、釜はまだ煮えていないようだった。
少しして、細川玉子が茶室に入ってきた。
玉子:「利休殿、ようこそお越しくださいました。朝から関白様のお呼び出しもあり、大変だったことと思います。」
私:「はい。正直、緊張しました。」
玉子:「利休殿は素直ですね。今日の料理はお吟様も手伝ったものです。どうぞ後で、本人に良い感想を言ってあげてください。きっと喜びますので。」
私:「そうさせていただきます。」
玉子:「では、御ゆるりとお楽しみください。」
私は無言で礼をした。細川玉子は、次客の細川、詰の古田とも挨拶し、懐石が始まった。私の前に懐石膳を置いたのはお吟だった。
私:「ありがとう、お吟。美味しくいただきますね。」
お吟:「ありがとうございます、お父様。」
懐石膳を配り終わり、細川玉子とお吟が水屋に下がった。
私:「それではいただきましょう。」
三人一緒に飯椀と汁椀の蓋の動作を行い、汁椀に手を付けた。
古田:「これは美味しい。」
私:「本当に。なんだかホッとする味です。」
細川:「利休殿、ホッとするという単語は、この時代の言葉ではないですよ。ですが、確かに懐かしい味です。玉の味付けとも若干違います。おそらくお吟殿が味付けしたのでしょうね。」
細川玉子が盃と燗鍋を持ってきた。私は盃台から一番下の盃を取り、残りの盃を盃台に戻して私と細川の間に置いた。
私:「お先に。」
私は向付に箸をつけようとした。
古田:「利休殿、向付に手を付けるのが早すぎます。三人共、盃を向付の右横に置いてから、全員一緒に向付に箸を付けます。」
私:「すみません。」
細川:「いえ、1週間でこれだけできれば、かなり筋が良いですよ。自信を持ってください。」
私:「ありがとうございます。」
細川玉子は飯器を持ち出し、正客前に座った。給仕盆を右横におろし、杓子を右手で取り、左手で飯器の蓋を少し開け杓子を入れた。
玉子:「おつけいたしましょう。」
私:「どうぞおまかせを。」
玉子:「お汁替えをさせていただきます。」
私:「よろしくお願いいたします。」
私は給仕盆に汁椀を載せた。細川玉子が替えの汁椀を懐石膳の向こう側に置いていった。
細川、古田と問答をし、細川玉子が水屋に帰ったのを確認してから、私はこう言った。
私:「それでは汁椀をいただきましょう。」
三人一緒に飯椀と汁椀の蓋の動作を行い、汁椀に手を付けた。
細川:「これは玉の味付けですね。」
私:「とても洗練された味です。美味しいです。」
続いて、細川玉子は飯椀より一回り大きな煮物椀を運んできた。
玉子:「どうぞ温かいうちにお召し上がりください。」
私:「そうさせていただきます。先ほどの汁椀、どちらもとても美味しい味でした。味付けはお二人でされたのですか?」
玉子:「最初の御汁はお吟様が、先ほどの御汁は私が味付けさせて頂きました。」
私:「細川殿のおっしゃる通りでしたね。」
玉子:「えっ?」
古田:「細川殿は、誰が作った汁か言い当てたのです。素晴らしい。」
玉子:「さすがですね。」
細川:「いや、照れますね。それにしても本当に美味しい汁椀でした。この煮物椀も楽しみです。」
玉子:「ありがとうございます。どうぞ、楽しんでくださいね。」
玉子が強肴を運んできていた。
玉子:「どうぞお取り回しを。」
私:「ありがとうございます。では、お先に。」
細川玉子が飯器を持ってきた。
玉子:「おつけしましょう。」
私:「おまかせを。」
玉子:「お汁替えをさせていただきます。」
私:「お断りいたします。」
玉子:「水屋で相伴させていだきますので、御用があればお手をお鳴らしください。」
私:「お持ちだしの上で、ご一緒に。」
玉子:「申し訳ありません。水屋で相伴させていだきます。」
私:「そうですか。では、何かありましたらお呼びいたします。」
玉子:「はい。では失礼いたします。」
古田:「良い受け答えでしたよ、利休殿。」
私:「ありがとうございます。」
詰の古田が、私の所に盃台を持ってきて、燗鍋・飯器・強肴を茶道口に置いた。
細川玉子は、茶道口の燗鍋・飯器・強肴を取り込んだ。
玉子:「お相伴いたしましたが、不加減で。」
私:「まことに結構にいただきました。」
続いて、細川玉子は小吸物椀を持ち出し、茶道口まで下がった。
玉子:「どうぞお吸い上げを。」
私:「すみません。何を言うのか忘れました。」
玉子:「本当に利休殿は素直ですね。」
古田:「ここは何も言わず総礼です。」
私:「ありがとうございます。」
細川玉子が燗鍋を右手に、八寸を左手に持ち、三人にそれぞれ酒をすすめた。
細川玉子が正客前に戻ってきた。確かここから千鳥の盃が始まるはず。
玉子:「利休殿、蓋を拝借いたします。」
小吸物椀の蓋に、海のものをつけ、すすめられるがまま酒を飲んだ。
三人に海のものをつけた後、細川玉子が千鳥の盃を始めた。
玉子:「どうぞお流れを。」
私:「別盃のお持ち出しを。」
私は、懐紙に肴2種を取って細川玉子に渡し、八寸を細川玉子の方に向けた。
玉子:「どうぞお流れを。」
私:「盃を、しばらく拝借いたします。」
細川玉子が酌を受け、三人の小吸物椀の蓋に、それぞれ山のものをつけ、私の前に戻ってきた。
玉子:「ながながとありがとうございました。」
正客と亭主が互いに酒をつぐ。
私:「どうぞご納盃を。」
玉子:「納盃させていただきます。」
私:「どうぞお湯を。」
細川玉子は八寸に盃台を載せ、燗鍋と一緒に水屋に下がった。
小吸物椀を清め、膳の正面に置いて亭主を待った。
細川玉子が、脇引に湯斗と香物鉢を載せ、私の前に座り、香物鉢と湯斗を置いて茶道口に下がり、一礼した。
玉子:「お湯が足りませんときは、どうぞお手お鳴らしを。」
食事が終わり、三人同時に箸を膳の内に落とすと、細川玉子が襖を開け、茶道口に顔を出した。
玉子:「どうもお粗末さまでした。」
私:「ごちそうさまでした。本当に美味しい料理でした。お吟にも礼を言っておいてください。」
玉子:「かしこまりました。」
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