第6・5節 待合から席入 ~羽箒について~
水屋の隣の部屋にある茶道具を一通り水屋へ移動した。
古田:「利休殿、細川殿、玄関に置かれた荷物をこの部屋へ移動してください。この書院を寄付としましょう。荷物を置いたら外の待合で待っていてください。迎付をします。」
私と細川は外の待合へ移動した。
椅子には円座が重ねてあった。
細川:「円座は裏返した状態で重ねて置いてあります。正客が円座を置き、最後、詰が片づけます。利休殿、裏返して私と利休殿の分を置いてください。古田殿が来るまで、座って待ちましょう。」
私は細川の指示通り円座を置き、二人で座った。
すぐに古田が現れた。
古田:「では利休殿、立ってください。ここでは無言で真の礼をします。利休殿がやや前に立ち、次客以下が後ろに控える感じになります。礼は全員一緒に行います。礼の後、客は待合に座りなおし、亭主が水屋に戻る時間などを考慮して少しの間、待合で待機します。」
細川:「利休殿の感覚だと、数分間を目安にしてください。その後、正客が促し、蹲踞に移動します。詰は円座を片づけます。当然、正客だけの一客一亭の場合は、自分で片づけます。」
古田:「では一足先に茶室へ移動しています。細川殿、あとはよろしくお願いいたします。」
細川:「承知しました。」
私と細川は、蹲踞へ移動した。
細川:「利休殿、蹲踞の所作を覚えていますか?」
私:「確か、そこの柄杓で左手、右手、口、柄杓の順に清め、手巾を右袖口から出して手を拭いて、左袖口に濡れた手巾をしまうのでしたね。」
細川:「その通りです。優秀ですね。ではやってみてください。」
私と細川は手と口を清め、茶室へ移動し、細川が刀掛に刀を置いた。
細川:「では利休殿、躙り口から入って床の前で扇子を出してください。床の拝見の仕方は覚えていますか?」
私:「確か、扇子の右側をカナメにして14目位に置いて、真のお辞儀をした後、指先を畳に軽くつけたまま、軸を拝見。終わったら、再び真のお辞儀をして、扇子を右手で持って席に行くのでしたね。」
細川:「その通りです。膝は床から畳16目程に座り、扇子は14目位に親骨の方を立てて置きます。軸は、本紙の語句、落款、表具などの順に拝見します。では拝見したら席につきましょう。」
私と細川が席に着き、しばらくすると、古田が茶室に入ってきた。
古田:「では利休殿、特訓を開始します。覚悟はよろしいですか?」
私:「ゴクリ。」
細川:「利休殿、擬音語は声には出さないようにしてください。それとゴクリと声に出した場合の単語は、この桃山時代では使われていません。」
古田:「そろそろ茶会を始めて良いですか。細川殿。」
細川:「失礼しました、古田殿。よろしくお願いいたします。」
古田:「今日は、すぐに初炭手前を始めましょう。細川殿、予定通り、羽箒の話をお願いいたします。」
細川:「了解いたしました。」
古田と細川は一緒に水屋へ行き、羽箒を持って戻ってきた。
細川:「今日、古田殿に使っていただく羽箒は、利休殿が作られたものです。」
私:「羽箒も自作ですか。柄杓に茶杓、火箸に灰匙、いろいろ作ったのですね。」
細川:「利休殿には、今後、竹の花入と茶杓を作ってもらわなくてはいけません。近々、削り方をお教えしましょう。」
私:「よろしくお願いいたします。」
古田:「炭手前に入る前に、羽箒を見ていただきましょう。左から、利休殿作の羽箒、細川殿作の羽箒、私、古田作の羽箒です。違いがわかりますか?」
私:「細川殿の羽箒は、ダスキンのモップみたいに曲がってますね。一番使いやすそうです。」
細川:「利休殿、ダスキンだの、モップだのと、もう少し表現に気を付けてください。それで、利休殿、他に気づいた点はありますか。」
私:「古田殿と利休作の羽箒は、三枚の羽で作られていて、細川殿の羽箒は一枚の羽ですね。古田殿の羽箒が一番まっすぐな感じに見えます。」
古田:「私の三ツ羽は、縦に三枚を重ねたもので、裏千家流になります。」
細川:「利休殿の三ッ羽は、自然に重ねたものを束ねています。古田殿の三ッ羽は作為的で、この時代、ほとんど使われていなかったのですが、利休殿が弟子の前で褒めたので、今は、かなり流行しています。」
古田:「実は、以前、私が羽箒を作る際、つい裏千家流の三ッ羽で作ってしまったのですが、利休殿がその羽箒を見て、こんな良い羽箒、使わない手はないと絶賛されます。以後、利休殿は、三ッ羽の羽箒をよく使われるようになります。」
私:「良かったですね。」
細川:「そうとも言えません。歴史的には、利休殿が三ッ羽の羽箒を考案したことになっています。このままだと、古田殿が考案したことになりかねません。まあ、将来、私が後世に口伝する際、利休殿が考案者だと言い張れば良いだけですがね。」
私:「後世に口伝する?」
細川:「江戸時代、利休殿の直弟子として生き残るのは私だけになるため、私の話がそのまま後世に残ります。そこで本来の歴史を改ざんしないように修正していこうと思っています。三ッ羽の羽箒は、その1つです。それと、風炉と炉の別ですね。これも直さなくては。」
私:「風炉と炉で羽箒が違うのですか?」
古田:「裏千家では、一ッ羽は真の羽箒として、炉と風炉共に用います。三ツ羽は行・草の位のもので、炉用は左羽、風炉用は右羽を用います。ただ、利休殿は、炉と風炉の別をつけていなかったのです。迂闊でした。」
細川:「この時代、良い羽であれば、右羽・左羽の区別なく、炉・風炉共に用いて良いのです。ですが、利休殿は古田殿のその作意にも感心し、弟子の前で褒めました。」
私:「もしかして、それも町で流行しているのですか?」
古田:「はい、困ったことに。」
細川:「古田殿、この件は、江戸時代に入るまでに何とかしていきましょう。利休殿も、三ッ羽の羽箒は、自分が作ったものだと言い張ってください。」
私:「わかりました。」
細川:「では、今日の炭手前は、予定通り、利休殿の羽箒を使いましょう。所作がいくつもありますので、注意して見ていてください。」
古田:「あと、裏千家流では行わないのですが、利休殿は濃茶点前の前にも羽箒を使われました。未来でも、千家以外では、濃茶点前の前に、点前畳などを羽箒で清める所作があります。ただ、私は裏千家流で利休殿にお教えしていきます。羽箒は炭手前でのみ使用すると覚えてください。」
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