第6・4節 水屋の準備 ~水屋の心得について~
古田と細川に促され、古田家の水屋に入った。
古田:「水屋は、茶室の台所です。茶事の用意をし、点前に必要な道具を整える場所になります。蔵のような道具置き場ではありませんので、不要な道具は並べないようにします。また、茶室の客に、水屋の物音や人の気配、明かりなどを感じさせないようにする配慮も必要です。理想的な水屋は、茶事を行うたびに、最適な状態にすることです。」
私:「今、水屋には何もないですが、これが最適な状態なのですか?」
古田:「違います。今日は、三人で水屋に茶道具を並べるところから始めます。と言っても、道具は既に隣の部屋に置いてあります。移動するだけですので、一緒にやりましょう。利休殿は、道具の名称も覚えていきましょう。」
私:「よろしくお願いいたします。」
細川が据え置きの水屋棚の説明を始めた。
細川:「水屋に道具を置くことを水屋かざりと言います。最適な状態とは、茶事を行う際、道具の選別に時間がかからず、働きやすく、清潔であるという条件を満たしたものです。この水屋棚は五段になっていますが、どの段にどの茶道具を置くかよく見ていてください。」
古田:「ではお二方、道具を持ってきてください。まずは初炭手前と後炭手前の準備からです。既に炭を組みこんだ炭斗が隣の部屋にあります。羽箒、火箸、釜鐶、香合、灰匙、釜敷を一緒に持ってきてください。細かい道具類はこの長盆を使うと便利ですよ。」
細川:「ちなみに平成時代では、点前が始まる前に道具を飾っておくことも、水屋かざりと言う場合があります。さて、利休殿、水屋道具を移動しましょう。」
私は細川と一緒に、隣の部屋に置いてある炭斗などを水屋に持ってきた。古田が炭斗に羽箒などを仕込み、私に棚の上から二段目に置くよう促した。
古田:「隣の部屋に、懐石道具を置く配膳棚があります。それを水屋の開けた場所に置いてください。」
私は細川と配膳棚を移動し、古田の指示した場所に置いた。
古田:「懐石道具と料理、縁高と菓子は、後ほど台所から移動する際に、手伝ってください。次に、花と花入、掛軸をしまう木箱を持ってきてください。花は手桶に入っていますので、そのまま水屋に置きます。木箱は一番上の段に、花と花入は、一番下の段に置いてください。」
綺麗な花だった。細川に何の花か聞いた。
細川:「これは福寿草ですね。元日草とも言われる春を告げる花です。食べると毒なので注意してください。」
私:「いや、食べませんよ。」
古田は次の指示をした。
古田:「濃茶点前と薄茶点前の準備をします。まずは、天目茶碗、天目台、四方盆、茶杓、茶入、仕覆、棗、蓋置を持ってきてください。茶碗、四方盆、蓋置は下から二段目、他は下から三段目に置きます。」
古田も一緒に道具を並べ、すぐ、次の指示をした。
古田:「水屋壺、水指、水次、建水を持ってきてください。水屋壺には水が入っていますので、二人で持ってきてください。これらはすべて一番下の段に置いてください。」
私と細川で水屋壺を持った。
私:「これは重い。どうやってここまで移動したのですか?」
細川:「通常は、水屋に置いた状態で水を入れるのですが、おそらくこの部屋で水を入れたのでしょうね。二人でもこれは重い。古田殿も手伝ってください。」
古田:「失礼しました。すぐ手伝います。」
三人がかりで水屋壺を水屋に置いた。
古田:「さて、盥に入った茶巾と柄杓、掻器、茶筌、釜据、さらし、手巾を持ってきてください。盥は一番下の段に、他は、竹釘に掛けてください。」
細川:「あとは銅鑼だけですね。」
古田:「配膳棚の横に置いてください。これで完成です。どうでしたか利休殿、思ったより大変だったでしょう。」
私:「特に水屋壺が大変でした。」
古田:「それは忘れてください。他に気づいた点はありますか?」
私:「計画的に準備しないと、茶事がうまく進行できないのかなと思いました。」
細川:「それでは学生の答えです。仮にも天下の千利休。もう少し大人びたことを言ってください。」
私:「え~!」
古田:「茶道の根本は心です。心こそ大切なのです。清潔であることは言うまでもなく、適度な緊張感を持って、亭主が客におもてなしをするための準備をする。茶室で点前を行うのと同様、水屋は茶道の修練の場と考えてください。」
細川:「利休殿は、福寿草に気づかれましたね。他の道具類もすべてこの日の為に用意されたものです。季節感だけでなく、利休殿に鑑定眼を身に付けさせるために、かなり良い道具も含まれています。最初に茶会記を書きましたね。その道具が今、目の前にあるのです。利休殿、この言葉を覚えていますか。
茶の湯とは、ただ湯を沸かし、茶を点てて、
飲むばかりなる事と知るべし。
茶の湯は決して難しいものではないのです。水屋は、ただ湯を沸かして茶を飲むために、亭主が用意した心意気です。客に見せる部分ではありませんが、その心を感じることは大切です。」
古田:「利休殿。押しも押されもしない千利休になりましょう。一緒に天下一の千利休を育てるのです。」
私:「私は良い師に恵まれました。切腹までの残り1年、この桃山時代を乗り切るため、弟子としては半人前ですが、最善を尽くしたいと思います。今後ともよろしくご指導願います。」
細川:「こちらこそ。」
古田:「よろしくお願いいたします。」
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