第6・3節 はじめての茶会記
翌日、古田家での特訓がはじまった。
古田:「明日の茶会に備え、次客と詰の練習をします。今日は、私が亭主、細川殿が正客になります。今日の予定はこうです。」
古田はいつものように用意していた巻紙を取り出し、説明を始めた。
1、茶会記の書き方
2、水屋と亭主の所作
3、寄付・腰掛待合
4、迎付・蹲踞
5、初座・席入と挨拶
6、初炭手前(風炉)
7、懐石・菓子
8、中立と後座・席入
9、濃茶点前(風炉)
10、後炭手前(風炉)
11、薄茶点前(風炉)
私:「茶会記?」
細川:「茶会記は、茶会の日時・場所・道具立て・懐石膳の献立、参加者の名前などを記載したものです。自分が催した茶会の内容を控えた自会記と、他者が催した茶会の内容を控えた他会記があります。」
古田:「他会記は、茶会で見聞きしたものを、自宅で書くことになります。席中で会記を書くのは、失礼に当たるからです。当日の茶会を思い起こし、余韻を楽しみながら、他会記を書きます。席中では見落としていた、亭主の趣向や思い入れに気が付くこともあるでしょうね。」
細川:「平成時代では、寄付や受付に自会記を置くようになります。これは席中の挨拶や問答だけで道具全般を理解することは難しいと考えるようになったからです。この桃山時代では、自会記・他会記共に、他人に見せる可能性は少ないでしょう。本来、客に見せるものではないためです。ただ、勉強のため、古田殿と私には会記を見せてください。採点しますので。」
私:「えっ、採点ですか!」
古田:「そうですね。採点しましょう。」
私は、肩を落としながら答えた。
私:「はい。頑張ります。」
古田は、筆の他に、何も書いていない奉書紙を何枚か用意した。
古田:「会記は、記載内容に特段の決まりはありませんが、順番は覚えましょう。最初に日付、茶会の主催者や茶会名、参加者を書きます。次の行に炉か風炉かということと釜の種類を書きます。炉の場合は、五徳か釣釜かということも書きます。最後に水指の種類を書きます。」
天正十八年二月七日朝 千宗易 細川三斎 古田織部
一風炉小板、ウハ口平釜、手桶、
私:「写しました。ウハって何ですか?」
細川:「口造りが姥口をした釜という意味です。口の周囲が高く盛り上がって、そこから内側に少し落ち込んだ姥口をした形の釜です。姥口は、歯の無い老婆の口のことで、口の周囲が高く盛り上がった姿が、歯のない老婆が口を結んだ姿に似ているところからきています。利休殿の以前の茶会では、姥口丸釜、姥口霰釜、姥口乙御前釜などを使われました。千家にもありますので、今後、使用するたびに茶会記に記載していってください。この桃山時代、濁点や半濁点は省いてカタカナで記載することが多いです。手紙など改まったものは平仮名を使います。まあ、基本は漢字ですが。」
古田:「囲炉裏を用いた茶会では、こう書きます。この行は、写さなくて良いですよ。」
一ゐろり 釜、つりテ、
古田:「囲炉裏は平仮名で書きます。では次の行です。床の間について書きます。」
一床 カタツキ、四方盆、袋キンラン白地、
一床 古渓和尚墨蹟、春風一陳、カケテ、
古田:「次に茶会で用いる茶道具です。茶碗と茶の種類を書きます。」
一天目茶ワン茶 無上
古田:「懐石料理を書く場合もあります。」
本膳 足打 黒ワン
金タミ、土器ニ、汁菜
一鱠ツル飯
一串鮑汁鯛
古田:「茶会で出た話題なども書く場合があります。」
御雑談事
一木守ハ、利休、晩秋ノ柿ノ木ニチナミテ名付ク
細川:「ということは、木守の話をしないといけませんね。」
古田:「そうですね。では後ほど、お願いいたします。」
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