第5・14節 薄茶点前(風炉)~宗恩の外出について~
古田:「最後に利休殿には薄茶点前を覚えていただきます。まずは、薄茶の点て方から。濃茶を練るときのように一生懸命茶筌を振ると、このように泡立ちます。裏千家では、泡立てた状態が基本なのですが、この時代の薄茶は、あまり泡立てません。茶筌の振り方は注意してくださいね。では、一緒に何度か点てて、ご自服してみましょう。」
私:「すぐ泡立ってしまって、意外と難しいですね。味は、濃茶よりすっきりして飲みやすいですね。濃茶を飲んだ後でも、まだ飲めそうです。徹夜は嫌ですが。」
細川:「利休殿は、一日中、稽古をしているので、体だけでなく神経も疲労しています。多少、覚醒作用のある抹茶を飲んでも、よく眠れると思いますよ。」
私:「そうですか!ではもう一杯、点てましょう。本当に美味しいですね、抹茶は。」
古田と細川は顔を見合わせ、大げさに呆れた素振りを見せた。私は気にせず、何杯も薄茶を飲み続けていた。
しばらくして、古田が水屋から薄茶点前の道具を持ち出してきた。
古田:「そろそろ薄茶点前を始めましょう。薄茶点前は、茶入に変わって棗を使います。裏千家流では、濃茶点前と薄茶点前に所作の違いが少しあります。ただ、重要なのは所作の違いを覚える事ではなく、相手に和んでもらうことです。」
細川:「濃茶点前の時と違い、薄茶点前では、緊張感が幾分和らいだ状態で点前が始まります。点前中に道具の説明や世間話などもします。そして、茶会に来て楽しかったと思える瞬間を演出します。」
私:「その瞬間とは!」
古田:「お茶を一口飲んだ時でしょうね。服加減を尋ね、美味しいと感じてもらい、日頃の疲れを癒す空間を創り出す。利休殿が目指すべき草庵の茶は、おもてなしの心を一服の茶に込めることです。例えば利休殿、切腹する直前に供されるお茶は、どんなお茶が良いですか?」
私:「えっ?」
細川:「こんなお茶が飲んでみたい、こんな茶会にしてほしい。率直な意見を出してください。それが、切腹までの一年という期間で目指すべき利休殿の侘びになります。」
私:「よくわかりません。今、答えないといけませんか?」
古田:「こちらが拙速すぎたかもしれませんね。ですが、できるだけ早くその答えに到達することを望みます。それが、利休殿がこの時代で生き残るための唯一の方法ですから。」
薄茶点前は恙無く(つつがなく)進み、最後の一杯を飲んだ時、古田がこちらを見た。
古田:「さて利休殿、今日の稽古はこれで終わりです。途中までお送りしましょう。」
細川:「そうですね。利休殿の護衛は古田殿にお任せします。」
私:「よろしくお願いいたします。抹茶を飲み過ぎたようです。夜なのに、全然、眠くないです。」
細川:「家に帰ったら緊張がほぐれて眠くなるかもしれません。今後は飲み過ぎないようにしましょうね。」
私:「注意します。」
古田:「では細川殿、失礼いたします。玉子殿やお吟殿にもよろしくお伝えください。」
細川:「承知しました。ではお気をつけて。おやすみなさい。」
私:「おやすみなさい。」
古田と道を歩いていると、何故か宗恩に出会った。
私:「珍しいところで会いますね。宗恩。買い出しと言う時間でもないですが。」
古田:「夜の一人歩きは危険ですよ。ちょうど利休殿を家まで送る所、一緒に帰りましょう。」
宗恩:「ありがとうございます。」
私:「宗恩、何かあったのですか?」
宗恩:「いいえ、ただ、少し熱っぽかったので、夜風に当たりたかっただけです。ちょっと遠くまで歩き過ぎたようですね。」
古田:「風邪ですか?お大事にしてください。」
宗恩:「ありがとうございます。」
三人で何気ない会話をし、古田に家の前まで送ってもらった。
宗恩:「ありがとうございました。古田様。」
私:「ありがとうございます。古田殿。」
古田:「いえいえお気になさらずに。では失礼いたします。」
私:「少し冷えてきましたね。早く家に入って温まりましょう。」
宗恩:「わかりました。ではすぐに火鉢に火を入れますね。」
宗恩が足早に家に入っていった。このときは、なぜ宗恩がこんな時間に外にいたのか、あまり気にしないでいた。
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