第5・3節 帛紗の扱い・茶入・茶杓の清め方(割り稽古)~右前・左前について~
古田:「まず亭主と半東は、帛紗を四つ折りにして懐中し、茶席に入る前に、帛紗を下から受け取るように右手で取り出します。」
私:「そういえば、女性の洋服は右前なのに、着物は男女の別なく左前なんて、女性も右手で帛紗を取れるので便利ですね。」
細川:「利休殿、逆です。女性は左前、男性は右前、着物は男女とも右前です。肌に密着する方を手前と言うためですが、そうですね、利休殿ならボタンが前になる側と覚えた方がわかりやすいでしょうか。奈良時代の養老二年に『大宝律令』が改定され、天平寶字元年に『養老律令』として施行されます。服に関しては、『養老律令』内の『衣服令』で規定されます。『大宝律令』と『養老律令』は、どちらも現存しない資料ですが、『続日本紀』によると、
初令天下百姓右襟
天皇から百姓まで、皆、これまでの左衽を改め、右衽にするように。
と定められたとあります。右衽も右襟も右前の事です。右を上位とするのは、古代中国で右を上、左を下としたためとか、項羽が劉邦を漢中に左遷したためなどの説があります。ただ日本では、帝が太陽の昇る東・左で、日が沈む西・右よりも尊重された左尊右卑の思想で、聖徳太子が定めたものがあります。」
古田:「茶道では、陰陽説を元に、右が陰で左が陽と定めています。陰の茶道具は、陽の卦に配置し、陽の手で持つ。客の位置が亭主の右側に来ることを本勝手と言い、上座を右としています。聖徳太子とは逆ですね。では、利休殿、右手で取り出した帛紗を左手にのせ、左手前の端を取って左から右へ開き、右上を取って広げてください。」
私は帛紗の端を右手で持つと、私から見て、右側が頂点となる三角形になった。
古田:「三角形のわさを左手で滑らせ、下三角形になるよう横一文字にして持ちます。胸を張り、両手を向こう側に倒すように持つと、綺麗に見えます。」
細川:「自然体と言って、茶道での動作は、両腕で大木を抱える感じにすると見栄えが良くなります。」
古田:「両手で向こうへ二つに折り、左右の端を合わせた所を左手で持ち、袋になった部分を右手で滑らせ形を整えます。そのまま左手で、袴の紐の下から挟み込むように付けます。」
細川:「女性の場合は、着物の帯の上から挟み込むように付けるため、男性より高い位置に帛紗が付くことになります。」
私が帛紗を付けると、古田は帛紗捌きの説明をはじめた。
古田:「帛紗捌きは、利休殿が大成した奥秘台子十二段の中にある三種類の帛紗のうち、利休殿が来月作る帛紗について説明します。帛紗捌きにも、真・行・草があります。関白様の前で披露する濃茶の平点前では草の四方捌きが、薄茶の平点前では草の帛紗捌きが必要になります。利休殿にはまず草の帛紗捌きを覚えていただきます。」
私:「よろしくお願いいたします。」
古田:「では、腰から帛紗を取ります。左手で腰の帛紗を少し引き出し、三分の一程下に軽く折ってから抜き取ります。正面膝前に折った状態で持って行き、右手で端を持ちます。」
帛紗の端を右手で持つと、私から見て、右側が頂点となる三角形になった。
私:「もしかして先ほどみたいに、下三角形になるよう横一文字にするのでしょうか?」
古田:「その通りです。自然体にして一呼吸します。左手の中指以下三本を帛紗の内側に回し、左膝前で右手を上にして持ちます。左手を一度離し、親指と四本の指で挟んで帛紗中央の少し上まであげ、左手で縦側に三つ折りにします。左手を帛紗中央まで下げながら形を整え、右手を右側に移動、帛紗を二つ折りにしながら、膝中央に持っていきます。右手人差し指で、帛紗の上で一を書くようにして四つ折りにします。左掌に載せ、茶杓を拭きます。」
私:「難しいですね。」
細川:「慣れれば良いだけです。これからは、毎日、帛紗を捌きましょうね。」
古田:「次に棗を拭く場合です。まず、帛紗の上で一を書くようにして四つ折りにするところまで進みましょう。帛紗を右手に持ち替え、左手でさらに二つ折りにします。右手の人差し指を抜きながら、右膝上で構えます。ゆっくり、自然体を意識して、できる時は指を伸ばすようにすれば、綺麗に見えます。」
私:「難しいですね。これも慣れですか?」
細川:「とにもかくにも、帛紗を捌いて捌いて捌きましょう。」
私は、古田と細川に草の帛紗捌きを何度も注意され、何とか様になったころ、古田は草の四方捌きの説明をはじめた。
古田:「草の四方捌きは、茶入を清める時のものです。帛紗を腰から取ったら、膝前中央で、上の輪を右手の人差し指で持ち、左手でその一辺をしごきながら、左膝頭の上で広げます。例によって、少し前に帛紗を倒す感じで自然体に持ちます。右手で帛紗を持ったまま、左手で帛紗の端を取って次へ角を送り、右手で持っていた最初の角を離します。帛紗を両手で張ってから、少し緩め、再び張ります。四回繰り返して、元の所に戻します。」
私:「つまり、帛紗を持つ手を一度緩め、張ってから、時計回りに回転させる動作を繰り返すということですね。」
古田:「そうです。では、五回目はたぐった右端を握りこんだまま、左手を次の角へ送り、右手の人差し指と親指を離してみましょう。」
私:「なんと!下三角形になった。」
古田:「そのまま草の帛紗捌きをしてください。茶入も棗同様、帛紗を右手に持ち替え、左手で二つ折りにし、右膝上で構えます。」
古田は茶入を持った。
古田:「実際に茶入を清めます。点前の時と拝見時の二回清め、拝見時は茶入の口造りも清めます。まず、草の四方捌きの後、草の帛紗捌きをしてください。左手で茶入を横から持って膝前中央に移動し、背筋を伸ばして、右手の帛紗で蓋のつまみを向こう側、手前側と清めます。次に胴拭きです。帛紗を茶入の胴の右横に当て一つ開き、左手で茶入を左回しに三回回し清めます。最後に帛紗を握りこむようにして茶入の下に拭き抜き、左手で、茶入を畳の上に置きます。帛紗は右の膝上です。」
私が茶入を清めると、古田は拝見時の茶入の清め方を説明しだした。
古田:「拝見時は、帛紗で茶入を二回回して清めた後、茶入の横で右手の親指を使って帛紗を裏返し、握りこんで右手で蓋を取ります。口造りを向こう側、手前側と清め、蓋を戻して、左手で茶入を置きます。帛紗を打ち返して下三角形をつくり、先ほどの所作をして左腰に付けます。」
私が何度か茶入を清めていると、古田は茶杓の清め方の説明に入った。
古田:「では、茶入を清めた後、そのまま茶杓を清めます。帛紗を打ち返して、帛紗を捌き直してください。茶杓の場合、茶杓を持って帛紗を捌く場合と、茶杓を持たずに帛紗を捌く場合の二通りがあります。まずは茶杓を持たないやり方から。帛紗を左手の上へ持っていき、草の帛紗捌きをして、左掌に載せましょう。茶杓の端を右手で持ち、帛紗中央に載せます。このとき、櫂先をやや下にします。茶杓を包むように帛紗を二つ折りにし、裏表で手前から櫂先に、帛紗の縦向きにして櫂先から手前に、縦向きのまま手前から櫂先へ、横向きにして、櫂先から手前、手前から櫂先と清め、櫂先から抜きます。つまり、帛紗を横・縦・縦・横・横として清めます。」
私:「横・縦・縦・横・横」
古田:「では、茶杓を右手の小指と薬指で握り込んだ状態で帛紗を捌きます。下三角形を作り、茶杓を握りこんだまま、草の帛紗捌きをしてください。清め方は、横・縦・縦で、櫂先から抜きます。」
私:「横・縦・縦」
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)」にも掲載しています。




