第4・12節 薄茶点前 ~氷砂糖と失敗について~
古田が干菓子を運んできた。私はお行儀悪くちょっとなめてみた。砂糖の塊のようだ。
古田:「利休殿、干菓子は点前の途中で亭主が、お菓子をどうぞ。と言うまで口にしてはいけません。お先にと次礼しないのもなっていません。そもそも茶道は、礼節を重んじて・・・」
しばらくして。
古田:「では、薄茶点前をはじめます。よろしいですね、利休殿。」
私:「はい。すみませんでした。」
薄茶点前が進み、古田に、お菓子をどうぞ。
と言われたのだろう。
細川が私にお菓子を食べるよう促してきた。
細川:「利休殿、懐紙を用意して、お菓子をお取りください。」
私:「食べたくありません。お断りはできないのでしょうか?」
古田:「懐紙に取ったあと、無言で懐紙に包み、左袖口にしまいます。人に悟らせないようにするのが利口です。干菓子が2つ以上ある場合は、1つは食べた方が良いでしょうね。利休殿には、少々、きつく言いすぎたようです。申し訳ありません。」
私:「そんな、つい味見をしたくなった私が悪いのです。」
細川:「最近になって氷砂糖は、石蜜や黒砂糖と共に太寃から大量に輸入されています。皆、甘いものが好きなのですよ。利休殿、先ほどの干菓子の件、私は古田殿と違い、問題ないと思っています。私と古田殿の前では、なんでも試してください。時には叱ることもあると思いますが、失敗の数だけ人は成長します。天下の千利休、何を恐れることがありますか。」
古田:「圜悟克勤の『碧巌録』にこういう対の言葉があります。
水到渠成 草偃風従
水が流れれば自然と渠ができ、
風が吹けば草がなびく。
聖人が徳を持って民衆に臨めば、無理なくいつの間にか浸透するという意味です。利休殿は茶道における聖人。もてなす心を忘れずにいれば、どんなことをしても民衆はついてきます。失敗を恐れず、草庵の茶を大成してください。」
私:「ありがとうございます。」
古田:「ささ利休殿、甘いものでも食べて少し気分を盛り上げましょう。この氷砂糖は意外と美味しいですよ。私も頂きますので、三人で味わいましょう。」
その後は特に正客の説明もなく、薄茶を飲んで解散となった。
細川:「では、明日は私の家で練習しましょう。それと利休殿は来月、関白様と小田原へ行く事がほぼ決まりました。私は蒲生氏郷殿と共に韮山城攻略をします。左軍に編成される予定です。古田殿は?」
古田:「私も武州に点在する北条方の属城攻撃をする予定です。伊達房実の守る岩槻城を
攻める計画も出ています。ただ戦力は10倍、攻城戦とはいえ、すぐに決着するでしょう。」
私:「小田原?」
細川:「関白様と北条氏康が小田原城をかけて戦う小田原征伐です。ただ、現時点で既に勝敗は決しています。豊臣軍の諸大名には妻妾帯同に酒宴遊興、商人の出入りも許可されています。そもそも茶頭を連れて行くのですから、ほとんど遊山ですな。」
古田:「利休殿には、小田原征伐で関白様に亭主としてお茶を供することが求められます。利休殿の戦いは、今月中にお点前を覚えることになりますね。」
私:「それは、かなりヤバいですね。」
細川:「利休殿、ヤバいというのは江戸時代の言葉で、この時代、まだ使えません。」
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