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利休になった日  作者: shoundo
第4節 正客
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第4・9節 濃茶茶碗の拝見(正客)~大井戸茶碗と出帛紗について~

私は濃茶茶碗を茶巾で拭き、2回、逆に回して次客と向き合い、手渡しした。

細川が吸い切ると、再び静寂(せいじゃく)が訪れた。

私:「すみません。何をするのかわかりません。」

古田:「(つめ)まで飲み終わった時、正客は茶碗の拝見を所望(しょもう)します。詰に(そう)のお辞儀をしてお茶碗の拝見を。と言ってください。すると、詰が正客前に茶碗を移動しますので、拝見をしてください。」

私:「はい。では、お茶碗の拝見を。」


細川は受け礼し、茶巾で茶碗を拭いた後、私の前に膝行しながら持ってきた。

細川が席に戻ってから、私は無言で茶碗の拝見をした。

細川が亭主に茶碗を返したので、私は茶碗の謂われを聞いてみた。

私:「今日の茶碗は楽茶碗ではないようですが、どんな()われのある茶碗なのでしょうか?」

古田:「この茶碗は、高麗(こうらい)の井戸茶碗で、本日の茶会のために、細川殿からお借りしたものです。」

私:「井戸というのは、水を汲むあの井戸ですか?」

古田:「井戸茶碗と言って、茶碗の種類です。李氏朝鮮(りしちょうせん)より輸入された高麗茶碗で、利休殿が特に好まれたものです。」

細川:「井戸のように深い茶碗というのが名の由来です。元は高麗で日常的に使われたただの雑器です。」

私:「お二人が出されるほどの茶碗。日用品とも思えないですが。」

古田:「逆に質問です。この茶碗はどんな感じですか?」

私:「先日の楽茶碗より一回り大きいですよね。高台につぶつぶがあり、色は明るい茶色。口ベリにある濃い茶色の丸が特徴的に見えます。楽茶碗とは違う、何というか素朴さがありますね。」

古田:「値段を付けるとしたら、いくらですか?」

私:「すみません。全然、高く見えません。値段が付くんですか?」

古田:「謝らなくて良いです。茶道具に対する目利きも覚えなくてはいけませんね。」

細川:「この大井戸茶碗は、後に日本の重要文化財に指定される天下三井戸の一つです。ある意味、値段は付かないかもしれないですね。」

私:「重文って、美術館にあるようなスゴイのですよね。触ってよかったのですか?」

細川:「このような高価な茶碗には、亭主は、のちに出帛紗(だしぶくさ)と言われる小さめの帛紗を、茶碗に添えて客に出す場合もあります。ただ今回は、この茶碗を直に感じていただきたかったので、出帛紗は添えていません。出帛紗については、今から100年後、武者小路千家(むしゃのこうじせんけ)真伯宗守(しんぱくそうしゅ)が三千家と申し合わせて寸法を決め、真の茶碗となる天目茶碗には付け、楽茶碗のような草の茶碗には付けないと定めます。」

古田:「利休殿、この時代の茶道具は国宝か重要文化財に指定される程のものが多いです。そして、利休殿と諸大名が良しとしたものが、名物として後世に残ります。高価なものでもてなされた茶会。利休殿は正直どう思いますか?」

私:「恐縮してしまって。お茶は楽しめないと思います。現に今、手が震えています。」

古田:「最近の茶人は、高価な道具を見せるだけの茶会をよく催します。それを諫めて、利休殿はこう言われています。

 茶はさびて 心あつくもてなせよ

道具はいつも 有合にせよ

さて利休殿、今日の手が震えるほどの感覚を忘れないください。

人間は必ず死ぬ。死ぬから人間は尊い。

陶器も同じ、本物だから壊れる。

だから美しくて価値がある。

この言葉の出典はともかく、他の人に恐縮させるような思いをさせないでください。もてなす心が大切なのです。利休殿は、今、歴史を作っています。もし物を壊しても、それは歴史の一部になります。大きく歴史を動かすのは問題ですが、多少、茶道具を粗野に扱ったり壊したりしても、天下の利休殿なら問題ないのです。大きく構えてください。高い茶道具を出す方が悪いというくらいの気持ちで、気楽に胸を張って茶道に臨んでください。」

私:「気楽にですか。」

細川:「本物だから壊れる。だから美しくて価値がある。良い言葉ですね。出典はなんですか? 」

私:「細川殿が知らないというのは珍しいですね。」

細川:「私にも知らないことは沢山ありますよ。それを知るのが、また楽しい。それで古田殿、出典は?」

古田:「平成時代の読み物『美味(おい)しんぼ』の一説です。」

細川:「素晴らしい、平成時代に帰ったら、必ず読み込みましょう。」

私:「古田殿は小学館(しょうがくかん)の回し者だったのですね。」


私は、細川に促され、亭主の横まで移動し、細川が私の前に置いた茶碗を、古田に返した。

細川:「これは出会いで返すというやり方ですが、この後の拝見時にもう少し細い動作をお教えしますね。」

私:「よろしくお願いいたします。」


古田は茶碗をすすぎ、お仕舞(しまい)の挨拶をして、水指に蓋をしたところで動作を止めた。

私:「拝見を乞うのでしたね。どの道具の拝見を乞うのでしょうか?」

古田:「どうぞお茶入、お茶杓、お仕覆の拝見を。と言ってください。」

私:「どうぞお茶入、お茶杓、お仕覆の拝見を。」


この作品は「YouTube(

https://www.youtube.com/watch?v=E_FK8CAcCYU&list=PLH33wsaeFCZWhaiIBx24yNxr-fPINhaRS&index=40

)」にも掲載しています。

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