第4・7節 銅鑼と後座の席入(正客)~雪駄・足袋・花入について~
細川と腰掛待合へ行き、しばらくすると銅鑼が鳴り始めた。
二人でつくばい、銅鑼を聴き終えてから、蹲踞へ移動した。
細川:「ここの露地も、利休殿の露地も、私の家の露地も皆、飛石があるので歩きやすいのですが、中には飛石がない露地もあります。利休殿は、今日は草履を履いてますが、飛石のない露地へ出かける時は、雪駄を履かれます。雪駄は利休殿が考案したもので、おそらく利休殿の家の玄関にあると思います。」
私:「雪駄というのはどんな靴ですか?」
細川:「草履の裏に皮を打ちつけ、湿気が上がらないようにしたものです。飛石がない庭では苔の中を歩くため、湿気で草履が湿ります。草履は裸足で履くので、直接、足が湿るのを利休殿は嫌われたのです。」
私:「そういえば、靴下はないのでしょうか。いつも足が冷たいのですが。」
細川:「ありません。鎌倉時代の平服に踏皮という革足袋がありますが、現在、武家の間で足袋を履くことは無礼に当たるため、礼装や主君の前では素足が基本です。また、木綿でできた足袋は江戸時代までありません。木綿は平安時代から輸入されているのですが、日本で本格栽培が始まるのはここ数年で、木綿自体がまだまだ高級品です。」
私:「寒くても足袋は履けないのですね。」
蹲踞での所作を終え、躙り口から茶室に入ると、掛軸に変わり花入が置いてあった。
細川:「鶴ノ嘴花入ですね。流石は古田殿、粋なことをなさる。」
私:「何か謂われでもあるのですか?」
細川:「今から60年後、明暦の大火で焼失する花入で、鶴一声花入と同型の胡胴鶴首花入です。平成時代に戻っても、もう見ることはできませんので、しっかり目に焼き付けてください。胡胴鶴首花入のように、床の上に置く置花入の他に、中釘や床柱の花釘に掛ける掛花入、床の天井や落掛などから吊る釣花入があります。また、花入にも真・行・草があり、胡胴・砂張・青磁・赤絵・交趾・祥瑞・染付は真の花入、瀬戸・織部・萩・朝鮮唐津・薩摩・丹波・高取・釣花入の砂張・釣花入の磁器は行の花入、信楽・備前・伊賀・常滑・楽焼・竹・瓢・籐組は草の花入になります。まあ、織部焼など現在はまだ存在しない花入もあります。存在しない花入といえば、数か月後、利休殿が小田原から帰陣した折、韮山の竹を切って作る花入が、世界初の竹花入になります。」
私:「もしかして、私が作るのですか?」
細川:「そうです。今度、作り方をお教えしますので、小田原からの帰りに必ず作りましょう。利休殿が作った花入は他にもあります。京都の桂川で、漁夫が使っていた魚籠を見て作った桂川籠花入、尼崎にいた藪内紹智の屋敷で作った姫瓜の花入、酒屋売場の銭筒を見立て切直して掛けた花入・二度のかけ、瓢箪の上部を切りとり、背に鐶を取りつけ掛花入とした顔回、竹の一節を真ん中より下に残し、後方に釘孔を開けた尺八などが有名ですね。」
私と細川が席に着くと、古田が蹲踞に水を張ったのだろう、大きな音が聞こえた。そのうち部屋が急に明るくなった。外側の窓を開けたようだ。
私:「水の音も、部屋の明るさも、前回は気が付きませんでした。」
細川:「2回目で気づいたのです。利休殿は茶道に素養がありますね。大いに胸をはってください。さて、古田殿が来たようです。濃茶点前がはじまりますよ。」
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