第4・5節 初座・初炭手前と懐石(正客)~枝炭について~
古田の初炭手前が始まった。
しばらくして、細川が炉の前に移動するよう促した。
細川:「利休殿、炉縁の横に移動してください。炭手前を近くで拝見しましょう。」
私:「わかりました。」
私は、にじって炉縁の横に移動し、火箸で上手に炭をつぐ古田を見た。
古田:「この白い炭は枝炭と言って、炭をついだときの装飾の他、火移りを早くする役割を持つ炭です。白い色は胡粉で塗ったもので、私・古田織部の考案です。平安時代からこの安土桃山時代までは、躑躅の木を炭とし、赤熱した状態で灰をかけ白い炭として用いていました。黒い炭は吉川炭です。利休殿には池田炭と言った方が、通りが良いですね。」
私:「吉川というのは町の名前ですか?」
古田:「はい。能勢に吉川という村があり、中川勘兵衛清光が15年程前に椚を炭にしたものです。今は、池田の市場で売られています。」
細川:「椚以外で作られた炭は鎌倉時代からあり一庫炭と言います。一庫も町の名で、摂津国多田庄の一庫で焼かれたので、その名があります。一庫炭も池田の市場で売られています。ただ、江戸時代に入るまで池田炭という名は使いません。切り口が菊の花みたいなので、将来、菊炭と呼ばれるようになります。明治時代に田中長嶺が付ける名です。」
古田:「炭の形は利休殿と武野紹鴎殿が改良したものです。上部を二度焼きするのは、火が跳ねるのを防ぐためで、利休殿の考案です。炭の大きさの違いがわかりますか?」
私:「何種類かありますね。」
古田:「炭の大きさごとに、配置や順番を変え、釜から松風の音が出るよう、炉の火加減を調整します。炭斗に炭を組む際に注意が必要です。夏場は風炉に炭をつぐのですが、炭の太さは、風炉より炉の方が太くなっています。さて、下火がついだ炭に移ったようですね。」
細川:「では利休殿、席へ戻りましょう。」
古田は、羽で炉の周りを清め、釜を載せて水屋へ下がった。徐々に部屋が温まってきたころ、懐石膳を運んできた。
古田:「さて、利休殿、膳の受け渡し方、覚えていますか?」
私:「右、左、右、と膝行し、お辞儀をしてから膳を受け取り、亭主が帰ったら、横に膳を置いて、左、右、左と膝退して、膳を正面に戻すのですよね。」
古田:「その通りです。では、やってみましょう。」
私、細川と膳を置いた後、三客目に古田は座らず、茶道口からこう言った。
古田:「お箸お取り上げを。」
少しの間、静寂が訪れた。まだ釜は沸いていないようだ。
さて、正客は何か言うはずなのだけど。
私:「古田殿、この後なんと言うか忘れました。教えてください。」
古田:「素晴らしい。その姿勢が大切です。
はぢをすて 人に物とひ 習ふべし
是ぞ上手の 基なりける
今後も、私や細川殿に遠慮なく疑問をぶつけてください。こちらも誠心誠意、お応えいたします。では、利休殿、頂戴いたします。どうぞご亭主もお持ち出しを。と言ってください。」
私:「頂戴いたします。どうぞご亭主もお持ち出しを。」
古田:「通常ですと亭主は水屋で相伴する旨を告げます。ただ今日は練習。一緒に茶室でいただきましょう。私の膳を持ってきます。少々お待ちください。」
少しして、古田が膳を持ち、三客目に座った。
私:「それではいただきましょう。と言うのですよね。」
細川:「その通りです。では、お相伴いたします。」
古田:「はい、お相伴いたしましょう。」
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