第4・3節 蹲踞と露地(正客)~苔・塵穴・役石について~
細川:「古田邸の露地はいつ見ても、よい景色ですな。特に蹲踞近くの苔の配置が良い。」
古田:「さすがにお目が高い。蹲踞近くの苔は、光の加減で見た目が変わるように、杉苔と砂苔を交互に配置しています。
岩間とぢし 氷もけさは とけそめて
苔のしたみづ 道もとむらむ
今は二月、苔の青さが春を予感させますね。」
細川:「新古今和歌集、西行法師の歌ですね。」
私:「苔というと京都に苔寺がありましたね。たしか西芳寺と言ったような。」
細川:「残念ながら、西芳寺が苔寺と呼ばれるほどの苔で庭が覆われるのは、江戸時代末期です。西芳寺は、100年程前の応仁の乱や文明17年の洪水で破壊され、20年ほど前にも寺が焼失しています。その後、信長様が天龍寺の策彦周良に命じて再建しますが、関白様の時代は、特に著名な庭ではありません。」
古田:「利休殿、西芳寺が苔寺だったというのをご存知なのは、とても素晴らしいことです。安土桃山時代と昭和・平成時代とでは、様々な事に違いがあります。ですが、私と細川殿の前では、どんどん知識を披露してください。その中で、使える知識と使えない知識を取捨選択し、茶聖・千利休としてふさわしい知識人になって行けば良いのです。」
私:「ありがとうございます。」
細川は茶室近くにある四角い穴を見て、急に物思いにふけりだした。
細川:「以前、利休殿が塵穴に椿を入れられ、よい花入が手に入ったので茶会をしたいと、私と前田利長殿、蒲生氏郷殿を呼ばれたことがありました。多くの名物を持ちながら、なお道具を探し続けている私を諫められたのでしょうね。」
古田:「茶道具に興味のない者と、持っているのにそう思わない者。茶道具は、ただの道具ではありません。一期に会う客に対して精一杯のもてなしの心を示す、いわば分身です。華美にならず、かといって何でも良いわけでもない。利休殿が招いたお三方には、茶道具への接し方を説かれたのでしょうね。」
私:「あの穴に椿を入れたのですね。ところで、その横の箸はなんですか。」
古田:「塵箸です。露地の塵や木の葉などを拾うための竹製の箸で、塵穴の脇にある役石に斜めに立てかけます。茶会の都度、真竹の青竹を割って作ります。」
私:「役石?」
古田:「何らかの役割を持ち、据えてある石です。例えば蹲踞の周りにある役石は、前石、手燭石、湯桶石と言います。前石は水を汲む手水鉢の前の水門、海とも言いますが、そこに水を捨てる際に乗る石です。手燭石は夜に灯りを、湯桶石は冬場に湯を入れた桶をそれぞれ置く場所です。」
細川:「役石には、水の流れの底に据える庭石。流れの折れ曲がるところに配する立石。水面に一部顔をだし、水を分ける波分け石。流れに向かって横に据え、水を左右に流す横石。水面下にあって、水を盛り上げる水越しの石。落下する水を受けて飛沫をあげる向え石などもあります。特に、水越しの石と向え石で構成された瀬落しは、石の置き方で様々な演出を出すことができます。」
私:「なるほど、庭に置いてある石にも意味があるのですね。」
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