第2・23節 茶入・茶杓・仕覆の拝見(次客)~茶入・宝尽紋について~
私は、しばらく楽茶碗・鉢開を眺め、古田に茶碗を返した。古田は、茶碗を取り込み、お湯ですすいだ。
古田:「お仕舞にさせていただきます。」
細川:「亭主が水指の蓋をしたら、正客は茶入、茶杓、仕覆の拝見を乞います。」
古田が水指に蓋をした。
細川:「どうぞお茶入、お茶杓、お仕覆の拝見を。」
古田は無言で草の礼をし、少し点前を進めたのち、茶入・茶杓・仕覆を客席の方へ出した。
細川はにじって道具を取りに行き、私に説明をはじめた。
細川:「では茶入から説明しましょう。全体と口造りから、おおよその形を見ます。これは有明肩衝という唐物茶入です。数年後、いったん手放すことになりますが、そのあたりの話はまた別の機会に話すとして、この黒飴釉に白鼠色の斑文が景色となっています。他の多くの肩衝では、口造りから胴にかけ釉薬が流れたような頽れというものがあります。蓋は象牙、蓋裏は金箔や銀箔がついています。抹茶に毒が入っていた場合、箔の色が変わると信じられていたためですが、実際に変色することはないでしょうね。そして底面は畳付と言います。この模様は唐物糸切と言って、轆轤台から切り離したときにできる模様です。この唐物茶入は、明からの輸入物茶入です。和物といって日本で作られた茶入もあります。和物茶入の場合、本糸切と言って糸切の目が唐物とは逆回りになります。」
私:「蓋に傷がついているようですが。」
細川:「よく気が付きましたね。これは傷ではなく、洲という虫食いです。利休殿が象牙で蓋を作らせたときにできた洲を、面白いとして織部殿との茶会に出し、織部殿も同様に茶会に出したことで話題になったものです。本来、茶入に蓋はありません。この時代では、茶入にいろいろな洲蓋を付け替えるのが流行しているようですね。」
細川は、茶入を私に見せ、拝見するよう促した。
一通り私が茶入を拝見すると、細川は仕覆の説明を始めた。
細川:「これは、紅地梅花紋錦という仕覆です。茶入には複数の仕覆が添う場合があり、この茶入にも、他に4枚の仕覆が添っています。後年、持ち主が変わるごとに仕覆が増え、最終的に11枚の仕覆になり、私の元に帰ってきます。楽しみですね。」
私:「11枚ですか。すごいですね。」
細川:「紅地梅花紋錦以外に、宝尽紋錦、伊予簾緞子、青木間道、富田金襴、菱万字地紋龍紋錦、紅地錦、細川緞子、蜀江錦、龍鳳凰紋錦、紅毛裂が添います。例えば、宝尽紋の宝は明時代以前の元代、中国と言った方がわかりやすいですね、そこで仏教に基づき、八という数字への信仰がはじまり、八宝として法螺貝・法輪・宝傘・宝瓶・白蓋・蓮華・金魚・盤長が吉祥の証とされます。室町時代に入ってから日本に伝わり、如意宝珠・宝錀・打出小槌・金嚢・隠蓑・隠笠・丁字・花輪違・巻物・珊瑚・分銅など、縁起の良いものを何でも描くようになります。他にも、七宝と言って、金・銀・瑠璃・真珠・瑪瑙・硨磲・玫瑰を吉祥紋として使用します。次に伊予簾緞子は、経糸におよそ13色の色糸が、緯糸には浅葱色と薄黄色で、梅花紋様と石畳宝尽紋様をひと続きの段替わりとしています。さらに両紋様の間に雷文繋ぎの細かい段文を織り上げたものです。この緞子の宝尽には・・・」
古田:「細川殿、利休殿の思考が停止しています。少し休憩しましょう。」
細川:「そうですか。では、仕覆については、ここまでにしましょう。いったん休憩して、茶杓の説明をします。お水を入れてきましょう。」
それからの私は、冷たい水を飲むまでの記憶がない。
細川:「それでは、茶杓の説明をしましょう。通常は茶会の度に使い捨てですが、中には良作もあり、利休殿の師・武野紹鷗殿の頃より、筒に入れ保管するようになりました。この茶杓は、利休殿が若い頃、竹を削って作られたもので、中節の上に雪割れのある蟻腰です。銘はありませんが、共筒があります。」
古田:「共筒というのは、私がもっている真筒です。上下の面が丸く取ってあり、皮目を削った刀目が残っています。下の方に、利休殿のケラ判がありますね。さて、利休殿もお疲れのご様子、最後、拝見の会話を行って終わりとしましょう。」
私は無言でうなずくと、細川は茶道具を古田に戻した。
細川:「大切なお道具ありがとうございました。お茶入のご由緒は。」
古田:「関白様より細川殿の父君が拝領した有明肩衝でございます。」
細川:「お窯元は。」
古田:「唐物でございます。」
細川:「お仕覆のお裂地は。」
古田:「紅地梅花紋錦でございます。」
細川:「お仕立ては。」
古田:「波斯国よりの舶来品にてございます。」
細川:「お茶杓のお作は。」
古田:「利休殿でございます。」
細川:「ご銘は。」
古田:「本日は、船出と名付けさせていただきます。」
細川:「利休殿の新たな船出、確かに良き名ですな。ありがとうございました。」
古田が茶道口に下がり礼をしたので、なんとなく私も礼をした。
細川:「利休殿、今日は疲れたでしょう。明日は千家で、今日の復習をします。今回は私が一人で伺いましょう。」
私:「よろしくお願いいたします。細川殿。」
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