第2・22節 茶碗の拝見(次客)~鉢開について~
私が吸い切ると、細川が私の方を向き、草のお辞儀をした。
細川:「お茶碗の拝見を。」
古田:「詰まで飲み終わった時、正客は今のように茶碗の拝見を所望します。利休殿は、左手に茶碗を持ったまま、右手を軽く畳につけ、受け礼をします。この後、茶巾で茶碗の飲み口を清めます。」
細川:「茶巾の扱いは、私が説明しましょう。利休殿にも同じものを用意しました。まず茶碗を置いて、茶巾をここまで広げ、一回ずつ折りながら、左から右、左から右と拭きます。最後、左袖に汚れた茶巾を入れます。」
古田:「利休殿は、正客の正面に向かって、手前に茶碗を出しては膝行、茶碗を出しては膝行と繰り返してください。拝見では、香合の時と違い、茶碗を持ち上げたりはしません。全体を見た後、両肘をついて両手で軽く傾け、周りの柄、高台などをみます。中に茶が残っている場合もあるので、ひっくり返したりはしないようにしましょう。では拝見を行いますので、細川殿の動きをよく見ていてください。」
細川は茶碗に向かって行の礼をした後、全体を右側、左側とみて、両肘をついて茶碗を傾けた。
その後、もう一度全体を見て、私に茶碗を送ってきた。
珍しく細川は無言だった。
私は、細川より受け取った茶碗を自分の前に置き、同様に全体を見て、軽く傾け、また全体を見るという動作をした。
その後、私は膝行しながら亭主に茶碗を返し、自分の席に戻ると、細川と古田がにやりと笑った。
古田:「では問題です。先ほどの濃茶茶碗は、どのような茶碗だったか答えてください。」
私:「えっ!」
細川:「触った感じはどうでした?」
私:「瀬戸物と違い、何というか紙粘土で作ったようなさわり心地で、今にも壊れそうな感じがしました。先ほどまで抹茶が入っていたせいか、少し茶碗が温かかったと思います。あと、茶碗の真ん中あたりがくびれていて、持ちやすかったです。」
古田:「口造りというのですが、茶碗の上の、口を付ける部分はどんな感じでした?」
私:「そういえば、少し歪だった気がします。なんとなくですが、轆轤で綺麗に成形したものではないと思います。わざと歪ませたのですよね。そういえば、触った感じも、ごつごつしていたような。」
古田は茶碗を後ろ手に隠し、更に質問を続けた。
古田:「茶碗の色は何色でしたか?」
私:「模様は特になく、黒かったと思います。真っ黒というよりは、ややくすんでいたような気がします。」
細川:「高台と言いますが、底の部分は覚えていますか?」
私:「特徴的なことがなかったので、何の変哲もない、ただの高台かと思っていました。」
古田:「では最後に、この茶碗に名前を付けるとすれば、何という名が良いと思いますか?」
私は、今の状況を考えた。
利休と言う立場で過去に飛ばされた私は、最終的には、関白秀吉にお茶を供することになる。
とはいえ、初日から細川三斎、古田織部という心強い味方がついて、茶道を習える環境がある。
この思いを表現するとすれば・・・。
私:「初心、というのはどうでしょうか。」
古田:「とても良い名ですね。」
細川:「いろいろ試すようなことをして申し訳ない。ただ、この茶碗はもう世に出ない品なので、最後に利休殿の手で直接触れていただきたかったのです。」
私が疑問に思っていると、古田が説明をはじめた。
古田:「この茶碗は、鉢開という楽茶碗で、楽長次郎に利休殿が作らせ、細川殿に差し上げたものです。後日、大徳寺の高桐院に収まり、そこで歴史上、喪失します。原因は、まだ未来の事なのでわかっていませんが、不用意に歴史に介入するのは良くないとのことなので、この茶碗は、残念ながら喪失させることになりますね。」
細川:「古田殿、もう一度茶碗を利休殿に渡してください。この茶碗に限らず、生殺与奪は可能な限り歴史のままでなければなりません。子供が生まれる前に親が死んだ場合、その子供は生まれません。その子供が歴史上の人物だった場合、歴史が改変されることになります。
利休殿は、来年、切腹して未来へ帰るまで生き残らなくてなりません。歴史を変えず、未来に戻る為に。」
古田:「細川殿。この楽茶碗に初心と名付けられた利休殿なら、きっと大丈夫ですよ。」
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