第2・19節 待合から茶室へ(次客)~莨盆と灰吹について~
銅鑼を見学し、細川と共に待合で半刻ほど待つと、銅鑼が鳴り始めた。
細川:「銅鑼が聞こえたら立ち上がり、踏石の上でつくばいます。」
私:「蹲踞?」
細川:「同じ音ですが、蹲踞ではなく、つくばう、つまりしゃがむことです。銅鑼は大小中中大と鳴りますので、よく聞いていてください。」
私は細川の後ろでつくばい、銅鑼が鳴り終わるのを待った。
もう一度、待合に座り、少しして細川が立ち上がった。
細川:「中立以降、古田殿は亭主に専念します。詰は利休殿にお願いいたします。まずは円座の片づけ方からお教えしましょう。」
私:「よろしくお願いいたします。」
細川:「正客、次客は円座をこのように扇子を使って立てかけます。詰は、自分の席にある円座に、次客の円座を載せ、その上に正客の円座をひっくり返して載せます。では蹲踞へ進みます。その猿戸は、横木で閉めてください。」
私はなんとなく円座を見ていた。
細川:「円座の上が寂しいでしょう。実は後世、莨盆というものが円座の上に載るようになります。煙草は、近年、日本でも喫煙の風習が広まっています。あと数年もすると、かぶき者と呼ばれる、ならず者が徒党を組むシンボルとして使われるまでになり、江戸幕府が煙草の禁令を出すようになります。日本の喫煙風俗は、海外の模倣から始まり、しだいに日本風に変化し、海外に例を見ない独特なものとなります。煙管や莨盆は、江戸時代に登場する日本独自のものです。」
私が適当に相槌を打っていると、細川は更に話を続けた。
細川:「莨盆は、最初、香盆を見立てたもので、香炉を火入に、炷殻入を灰吹、香合を煙草入とし、盆の前に煙管を二本置いて、香箸に見立てます。喫煙に必要な火入・灰吹・煙草入・煙管などを一つにまとめた莨盆は、刻み煙草の喫煙に便利なようにと改良され、機能的に優れたものとなっていきます。それと、灰吹は、莨盆の中に組み込み、煙草を煙管で吸い終えたとき火皿に残った灰を落とすための器で、煙壷とか吐月峰とも言います。吐月峰の名は、駿河にある山で、連歌師の宗長が、駿河国安倍郡長田村に柴屋寺を開き、山の峰から月の出る景観の美しさを愛して、 この地の山を吐月峰と命名します。その吐月峰に産する竹が灰吹用の竹筒にもっとも適し、宗長はここで製する竹筒に吐月峰と産地の銘を初めて刻し、灰吹として広く世に用いられるようになってから、吐月峰が灰吹の代名詞となっていきます。」
私は猿戸の横木を閉め、細川の話を遮るように言った。
私:「閉めました。」
細川:「では、次は蹲踞ですね。柄杓で左手、右手、口、柄杓の順に清め、手巾で手を拭き、躙り口へ進みます。柄杓は元の場所に戻してください。最後、亭主が蹲踞に水を張り直すのですが、その辺は後日としましょう。」
細川は莨盆の話をまだ話したそうにしていたが、私は茶室へ行くよう促した。
私が茶室に入り、躙戸を閉めようとすると、細川が制止した。
細川:「躙戸は軽く音をさせて閉めます。この音で、亭主は蹲踞へ行って水を張り、円座を片付け、下地窓を開けるなどします。さて、古田殿が部屋を明るくする間に、床と炉の拝見をしましょう。」
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