第10・1節 有馬温泉に着くまで
9月25日朝、私は診断書だけ持って、聚楽第の城に向い、三つある門の前で止まってしまった。
私:「はぁ、困った。どの門から入るのだったか。」
周りを見ても、なぜか誰もいない。
私:「不用心だな。おーい。誰かいませんか。千利休が来ましたよ。」
一旦、出直すことを決め、細川邸に向かった。
私:「細川殿はいらっしゃいますか?」
細川:「何をされているのですか、利休殿。今日は関白様と有馬温泉へ行く日ではありませんか?」
私:「そうなのですが、門前には誰もいない上、聚楽第の門から城までの道のりが分からないので、帰ってきました。」
細川:「仕方ないですね、一緒に行きましょう。関白様のいらっしゃる大広間の下段の間まで案内します。」
私:「お願いいたします。」
私は細川に秀吉の前まで案内してもらった。
秀吉:「忠興、宗易の案内ご苦労であった。」
細川:「はぁ、何とも困った御仁になられましたな、利休殿は。」
秀吉:「そう言うな忠興。楽しいではないか、あの利休が城で迷子になったのだぞ。して、その手に持っている紙はなんだ。」
私:「はい、薬師の竹田先生に書いてもらった診断書です。右手と右足に麻痺があるそうで、原因不明だとか。誰かに言って、私の家に茶人が殺到しても困りますので、まずは関白様だけにご報告をと思いまして。」
秀吉:「忠興もいるがな。」
細川:「私は聞かなかったことにいたします。」
秀吉:「そうじゃのぉ。いっそ、大々的に宣伝するとしよう。おーい。誰かおらぬか。」
瀬田:「はっ、瀬田正忠、ここに。」
秀吉:「正忠か。実は宗易が怪我をしてな、手足が不自由になってしもうた。そこで、大々的に御触れを出したい。すぐ対処せよ。」
瀬田:「なんと、大丈夫ですか利休殿。」
私:「関白様、それだと私の家に茶人が殺到しませんか?」
秀吉:「良いではないか。良いではないか。」
瀬田:「では、早速。」
私は細川と顔を見合わせていた。
秀吉:「忠興は、不満そうじゃな。」
細川:「関白様がお決めになられたこと。私からは何も申し上げることはありません。」
秀吉:「そうか、宗易も良いな。」
私:「はい。」
秀吉:「では、有馬温泉に出発する。宗易よ、持っていく茶道具の運搬は、そこらの馬廻に頼むように。」
私:「かしこまりました。」
細川と一緒に城内から帰る途中、大廊下の綺麗な襖絵に目をやっていた。
私:「しかし、凄い煌びやかな絵ですね。そう思いません細川殿。」
ところが、前を歩いていたはずの細川は、そこにはいなかった。
私:「あれ?」
私は迷子になってしまったようだ。仕方がないので、しばらく城内を歩いていると、庭に秀吉付の馬廻・八嶋久右衛門がいた。
最初に茶会記を書く練習をした人である。
私:「これは久右衛門殿、おはようございます。」
八嶋:「おはようございます、利休様。有馬温泉行きの荷物運びの件ですね。」
私:「はい。お願いできますか?」
八嶋:「よろこんで。」
私:「それと、実は城内で迷ってしまって。どこをどう行けば外に出られますか?」
八嶋:「それは大変です。ご案内しましょう。」
私:「助かります。」
城門には、細川三斎が立っていた。
細川:「そちらの方は?」
私:「八嶋久右衛門殿です。私が書いている茶会記の初日に、茶会をご一緒した方です。」
八嶋:「これは細川様、おはようございます。城に何か御用でもおありなのでしょうか。すぐ対応いたしますが。」
細川:「いやいや、利休殿に城内を案内させられていたのだが、迷子になったようで。困った方だ。」
私:「すみません。実は久右衛門殿に、ここまで案内してもらいました。それと、荷物運びもお願いしています。」
細川:「久右衛門殿は、有馬温泉に行かれるのですかな。」
八嶋:「はい。関白様付の馬廻ですので。おそらく今回も利休様のお世話係になるのではないかと。」
細川:「それは良かった。では久右衛門殿、利休殿をお願いいたします。このままでは心配だったのです。」
八嶋:「承知いたしました。この命に代えましても、利休様を無事、有馬から京都にお連れいたします。」
細川:「利休殿。お気をつけて。」
私:「ありがとうございます。」
私のお世話係は、予想通り八嶋久右衛門となった。
二日ほどして、有馬温泉に到着した。
秀吉:「宗易、早速だが茶を所望する。支度をせよ。」
私:「かしこまりました。久右衛門殿、手伝ってくれますか。」
八嶋:「はい。よろこんで。」
この作品は「YouTube(
https://www.youtube.com/watch?v=gXecexpLFZE&list=PLH33wsaeFCZWtchkfIIltAH2CqFwbjcH8&index=11
)」にも掲載しています。




