第36話 それって「漆黒のボクっ娘」ってことだよね?
時は少し遡って、ちょうど戦いの開始時点。
ガイスが駆けていったのは、同じ防御職のイタリンの前だ。
「あなたが相手ですか。」
「そうだぞっ。」
ガイスと向かい合うと、イタリンは懐から何やら紙を取り出した。
その内容を声に出して読む。
「氏名はガイス。元ソーテスト家。魔力属性は火、地、闇の三能。魔力数値は4687。魔眼は未開眼。『ルーム』という防御魔法を使う。『ルーム』は時に攻撃手段となるため注意。」
「よくまとめられてると思うぞっ。」
「当然です。」
イタリンは、紙をしまって言った。
「戦う上で1番重要なのは情報です。相手を知らなければ、有効な手段は取れませんから。あなたの情報は全てが入手済みで、対策も完璧。降参するなら今のうちですが。」
「降参しても、見逃してくれるようには思えないぞっ?」
「当たり前です。」
イタリンの顔に、暗い笑みが浮かぶ。
静かで冷たい声が響いた。
「私たちの任務は、あなたたち全員の抹殺。降参するなら、苦しまずに死なせて差しあげるというまでです。」
「それでは、降参する訳にはいかないんだぞっ。」
「そのふざけた語尾が聞けるも、あと数分といったところですね。」
イタリンが素早く駆け出す。
そして同時に、光属性の攻撃魔法で長剣を出現させた。
「ライトニング・ソード。」
ナタリアが新人戦で使ったのと、同じ魔法だ。
あっという間にガイスの横に回り込み、ライトニング・ソードを振るった。
「ダークルーム!」
闇属性のルームでガイスも防御に入る。
が、イタリンのライトニング・ソードがダークルームを吹き飛ばした。
イタリンの魔力の方が、ガイスのそれを上回ったのだ。
「いない?」
しかし、吹き飛ばされたダークルームの中にガイスはいなかった。
「いやぁ、予想しといてよかったんだぞっ。」
イタリンの真後ろから、ガイスの声が響く。
イタリンは素早く距離を取った。
「予想…ですか?」
「そうなんだぞっ。君が僕のデータを知った上で突っ込んできたなら、それは勝てる自信があるってことなんだぞっ。つまり、君の方が魔力が高いから防ぎ切れないと思ったんだぞっ。」
「なるほど。賢明な判断です。寿命が少し延びましたね。」
「ですが」と、イタリンは再びライトニング・ソードを構えた。
「そう逃げ回っていても、私は倒せませんよ。それに、数値の低いあなたの魔力の方が先に尽きるのは必然。どのみち、結果は変わりません。」
そして新たに、右手でウォーター・ソードを構える。
二刀流のまま、ガイスに向かって突き進んだ。
「ロックルーム!」
ガイスの周りを、固い岩石が囲んで守る。
先程のダークルームよりも魔力を込めたロックルームは、確かにウォーター・ソードを防いだ。
しかし、ライトニング・ソードは防げない。
「ぐはぁぁ!」
岩を貫いたライトニング・ソードは、そのままガイスの体も貫いた。
「今度は逃げなかったのですね。観念しましたか。」
ガイスにライトニング・ソードを突き刺したまま、イタリンが言った。
体をかがめるガイスを、無機質な視線が見下ろす。
顔を下に向けたまま、ガイスが答えた。
「君の言う通り、逃げていては勝てないんだぞっ。」
「しかし今、こうして敗北を喫したではないですか。やはりあなたたちは、出来損ないなのです。」
「出来損ない」という言葉に、ガイスの肩がピクリと反応した。
顔を上げず、しかし語気を強めてガイスが言う。
「ねぇ、その君たちの言う『出来損ない』の意味が僕には分からないんだぞっ。君が僕たちのデータを見たなら、僕たちが弱くないことはすぐ分かるはずなんだぞっ。一体、君たちの言う『出来損ない』って何なんだぞっ?」
イタリンのライトニング・ソードを握る手に、わずかに力がこもる。
ライトニング・ソードがより深くガイスに突き刺さり、彼女は「うっ」とうめき声を上げた。
「あなたたちは貴族ではない。貴族でないものの強さなど、この世界において無意味です。今の世界があるのは、貴族である勇者様のおかげ。その勇者様と同じ身分である私たちに歯向かうあなたたちを、欠陥品と言わずして何と言いましょう?」
「いくら強くても、貴族でなければ『出来損ない』。君はそう言ってるんだぞっ?」
「事実を述べているまでです。」
イタリンが、無機質な表情のまま言う。
「それなら、その『出来損ない』に負ける君のような貴族様は何とお呼びすればいいか分からないぞっ?」
ガイスが問いかけると、イタリンの額に青筋が浮かんだ。
手により力を込め、口調を強めて言う。
「既に負けたあなたが何を言っているんですか?私があなたに負けるなど、絶対にありえません。」
「でも、みんな負けてるんだぞっ?」
「何?」
ガイスが、尚も俯いたまま左右を指さした。
イタリンが見れば、クリエストとイタリンを除く3人が倒れ込んでいる。
「何を…しているのですか…。」
イタリンの声に、仲間への怒りが宿った。
その手に、さらにさらに力がこもる。
…が。
「君はいつまで、何も持ってない手を握ってるんだぞっ?」
その手から、ライトニング・ソードは消えていた。
ガイスがようやくその顔を上げる。
その両目は、明らかに異質な黒い輝きを放っていた。
「君のデータは、もう欠陥品になったようだぞっ?」
「まさか…。」
「僕はたった今、魔眼を開眼したぞっ。」
その黒光する双眸が、イタリンを強く睨みつける。
「これで、僕の魔力は格段に上がったぞっ。もう君の情報も対策も、通用しなくなったんだぞっ。」
イタリンが素早く距離を取ろうとする。
しかし、その手をガイスの左手が捕らえた。
「もう1回聞くぞっ。『出来損ない』って何なんだぞっ?」
「それは、貴族の…」
「もう、いいぞっ。」
あくまでも変わらないイタリンの答えを、ガイスは遮った。
そして、空いている右手から黒い闇を広げる。
その闇が、イタリンの全身を包み込んだ。
「何を…する気ですか…?」
イタリンの問いには答えず、ガイスは静かに呟く。
「アビス。」
イタリンの全身が、完全に闇に吸い込まれた。
「アビス」。
その意味は奈落、または深淵。
イタリンの体と精神は、漆黒の奈落の底へ閉じ込められたのだ。
「ガイスさん!」
ロスタが慌てて駆け寄る。
ライトニング・ソードの傷を、急いで治癒した。
「ありがとう、そしておめでとうなんだぞっ。」
ガイスの声に、ロスタが笑顔で頷いた。
フィアとリンテもやってきて、その横に立つ。
4人の視線が、草原のちょうど中央に向けられた。
ノイルとクリエストが、熾烈な戦いを繰り広げている。
「加勢した方がいいかもだぞっ。」
立ち上がろうとするガイスを、フィアが静止した。
「お兄様なら、大丈夫です。」
短くも力強い言葉。
フィアの目には、確かな確信があった。
「そうね、ノイルなら。」
「そうだよ、ノイル君だもん。」
「ノイル君は、負けないぞっ。」
4人の視線の先で、最強を証明する戦いは激しさを増していった。
-ガイスVSイタリン・クウェンデル
勝者:ガイス
敗者:イタリン・クウェンデル
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