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第35話 それって「無限の男の娘」ってことだよね?

 「味方が強いとねぇ、なかなか治癒士ヒーラーの出番が来ないのよぉ。」


 向かい合うロスタに、アリスタが言った。


 「てな訳でぇ、私は攻撃魔法も使えるようになったのよねぇ。これってぇ、最強じゃなぁい?」


 その全てを、ロスタは黙って聞いている。


 「最強の治癒士ヒーラーとぉ出来損ないの治癒士ヒーラーとぉ、どっちが強いかしらねぇ?」

「無駄口を叩く暇があったら、その攻撃魔法を使ってみたらどうですか?」


 ようやくロスタが口を開き、はっきりと言い返した。

その言葉に、アリスタの口角が吊り上がる。


 「かわいい顔して言うじゃなぁい?いいわよぉ、見せてあげるぅ。まぁ、見るまもなく死んでるだろうけどねぇ。」


 そしてアリスタは、空中に大量の矢を発現させる。


 「光属性の攻撃魔法でぇ、ライトニング・アロウっていうのぉ。いくよぉ、ライトニング・アロウぅ!」


 無数の矢が、一斉にロスタの小さな体を襲う。

その全てが確かに命中し、ロスタの体から血が吹き出した。

その様子を見て、アリスタが高笑いする。


 「あっはっはっは!何が使ってみたらどうよぉ。あっさり死んでるじゃなぁい。あっはっはっは!」


 そして、ロスタに背を向け立ち去ろうとした。

その背中に、静かな声が響く。


 「僕がいつ、死にましたかね。」

「なっ!?」


 振り返ったアリスタの目に映ったのは、全くの無傷で立っているロスタだった。

服に血がついていることも、体に穴が空いていることもない。


 「へぇ、どういう訳ぇ?」

「治癒したんです。僕も、治癒士ヒーラーですからね。」

「あの傷を、一気に治癒したのぉ?」

「はい。僕の治癒魔法、インフィニットです。あなたがいくら攻撃しようと、僕はそれを上回るペースで自らを治癒し続ける。あなたには、僕を殺せません。」


 ロスタが身につけたオリジナル魔法であるインフィニットは、持続的な治癒を可能にする魔法。

攻撃を回避したり防御したりすることは出来なくても、受けた傷を瞬時に癒し続けることで盾となる。


 「面白い魔法じゃなぁい。じゃあ、私も本気出さないとねぇ。」


 楽しげに口元を歪めたアリスタが、再びライトニング・アロウを発動する。

しかし今度は、さっきの倍の量の矢が出現した。


 「いくわよぉ。それぇ!」


 この度も、矢は正確にロスタを捉える。

またしても、多量の血が流れた。

しかし、瞬時にロスタの体が光に包まれ治癒される。


 「なかなかやるわねぇ。なら、もう1回よぉ!」


 さらにさらに倍の量の矢が放たれる。

その量の多さは、ロスタの全身が矢に覆われる程だ。

しかし、ロスタは倒れない。


 「これでは、まるでイタチごっこです。いつまでも、勝負がつきませんね。」

「いいえぇ、これで私の勝ちよぉ。ヒールぅ。」


 自らの魔力を回復し、アリスタが勝ち誇ったように言った。


 「あなたはさっきからぁ、傷をずっと回復させてるわよねぇ?そろそろ、魔力も尽きてくるんじゃなぁい?いくら継続的に傷を治せてもぉ、魔力が無くなっちゃえば意味ないわよぉ。」


 そして、4度目のライトニング・アロウを発動する。

これまでで最も多くの矢が、空中に浮かんだ。


 「この量はぁ、今のあなたの状態じゃ治癒出来ないわよぉ。さよならぁ。」


 そしてアリスタはロスタに背を向け、軽く手を動かした。


 「ライトニング・アロウぅ。」


 もれなく全ての矢が、ロスタに突き刺さる。

その勢いに押され、初めてロスタが地面に倒れ込んだ。

その音を聞き、アリスタが歩き出す。

しかしその背中に、またしても声が響いた。


 「どこへ行くんですか?戦いはまだ、終わっていません。」


 振り返ったアリスタの顔に、明らかな動揺が浮かぶ。

そこには、初めと何ら変わらずに立っているかわいらしい少年がいた。

しかし、その顔に似合わぬ鋭い視線がアリスタを突き刺している。


 「インフィニットの治癒範囲が傷だけなんて、いつ言いましたか?」

「ま、まさかぁ…?」

「そうです。インフィニットは傷の治癒だけじゃなく、魔力回復も持続的にするんです。」


 傷の回復と同時に、回復に使った魔力も回復する。

その結果、次の攻撃が来てもそれによる傷を回復するだけの魔力が残っている。

まさにインフィニット、無限の治癒が可能なのだ。


 「それはそれはぁ、本当にイタチごっこになっちゃったわねぇ。」


 アリスタが、落ち着きを取り戻して言う。


 「いくら攻撃しても倒せないしぃ、かといってこっちも倒れないしぃ…」

「いいえ、もうイタチごっこは終わりです。」


 アリスタの言葉を遮って、ロスタが言った。


 「実は、味方が強すぎて治癒士ヒーラーの出番がないというのは僕も同じでして。そこで、僕も攻撃魔法に近いものを開発したんです。」


 そう、ロスタが身につけたオリジナル魔法はインフィニットだけではないのだ。

ゴールドドラゴン相手でも傷を負わないノイルに、もはや治癒魔法は必要ない。

そこにガイスの防御魔法が合わされば、本当にロスタの出番はなかった。


-自分が、パーティーに必要な存在になるにはどうしたらいいのか。

 ずっと考えて編み出したのが、この魔法。

 これで僕もようやく、最強パーティーの一員として貢献できる。


 「アンチ・ヒール!」


 強い思いを込めてロスタがかざした手から、4本の光の線が放たれる。

その4本が、アリスタの手足をそれぞれ固定した。


 「ちょ、ちょっとぉ!?何するのよぉ!?」


 身動きが取れないアリスタが、叫び声を上げる。

ロスタはその元に近づき、冷静に言った。


 「アンチ・ヒール。通常の治癒魔法と、全く逆の効果を及ぼす魔法です。」


 その言葉に、アリスタの顔色が悪くなる。

治癒士ヒーラーとして治癒魔法を知り尽くしている彼女だからこそ、その恐ろしさが分かるのだ。

彼女は涙を流して叫んだ。


 「待ってぇ!降参するからぁ!それだけはぁ!いやぁぁ!」

「ご安心を。今回は、使用範囲を魔力に限定しましたから。」


 ロスタが、アリスタの顔の前で手を握って閉じる。

それと共に、アリスタの意識も閉じられた。


 ヒールは、身体的な治癒と魔力の回復を大きな要素とする。

つまりアンチ・ヒールによってその逆効果がもたらされれば、健康だった体が逆行し腐敗してしまうのだ。

アリスタが泣き喚いたのは、それを恐れたからである。

もちろん、ロスタはアリスタを殺したかった訳ではないため、使用範囲を魔力に限定して魔力を吸い取るだけにした。

その結果として、アリスタは魔力が回復するまで意識を失うにとどまった。


 「それにしても、なかなかあなたの矢は痛かったです。」


 ロスタが呟いた。

攻撃を「受けない」ということではないのだ。

当然、そこには痛みが生じる。

ましてや、大量の矢に体を貫かれるなど常人には耐えられない苦痛のはず。

それを耐えたことは、ロスタが魔法だけでなく、精神的な強さも手に入れたことの証拠だった。


 「出来損ないでも、こういうことが出来るんです。ほら、あそこで戦っているガイスさんも。」


 ロスタの視線の先には、防御職ディフェンダー同士で向かい合うガイスとイタリンの姿があった。


-ロスタVSアリスタ・タニエル

 勝者:ロスタ

 敗者:アリスタ・タニエル

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