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第32話 それって「最強の刺客」ってことだよね?

 ノイルが声をかけた地面が、ぐらぐらと動き出す。

そして一気に土が舞い上がったかと思うと、5人の仮面を被った人間が現れた。


 「な、どうして地面から!?」


 フィアが驚きの声を上げる。

地面から飛び出した5人のうち、中央に立っている仮面が言った。

声からして、男のようだ。


 「やれやれ、気付かれていましたか。」

「まあな。」


 ノイルは落ち着きはらっている。


 「お兄様、いつ気付かれたんですか?」

「出発して少ししてからだな。地面から、それなりに強い魔力を感じた。しかも俺たちを追うように向かって来たからな。つけられているのはすぐに分かった。」


 ノイルの言葉を聞いて、後ろに立っていた仮面が笑い声をこぼして肩をすくめる。


 「あ〜あ。気付かれちゃってたわねぇ。」


 その口調からは、「気付かれても問題ないけどね」という思考が伝わってきた。


 「なぜ俺たちをつけてきた?まぁ、穏やかな目的ではないだろうが。」


 ノイルの問いに、中央の仮面が答える。


 「とある方の依頼を受けましてね。どうも最近、その身分を履き違えて勝手なことをしている出来損ないがいるらしいから始末してくれと。」

「要は、俺たちを殺しに来た訳だな?」

「簡単に言えば。」


 ノイルがフィアたちを振り返って言う。


 「どうだ、空離剣ナンバーフォーで流すか?それとも、準備運動をしておくか?」

「う〜ん。ただの強盗さんなら笑って流すんだけどね〜。」


 リンテが、5人の仮面を鋭く睨みつける。


 「あんな風に、馬鹿にされてしまいましてはね。」


 フィアも軽く肩を回した。


 「僕は、準備出来てるよ。」


 ロスタが、ノイルに向けて親指を立てた。


 「いつでも暴れられるぞっ。」


  ガイスも魔法を発動させる構えを取る。


 「決まりだな。」


 そう言うと、ノイルは仮面たちの方へ向き直った。


 「どこの誰だか知らないが、俺たちを始末しようとするのなら、俺たちは迎え撃たせてもらうぜ。」


 仮面たちが、「ふふふ」と笑いをこぼす。

最後には、「あはははは」という大爆笑になった。


 「何がおかしいのよ!」


 リンテが噛みつく。

笑いを止めて深く息を吸うと、中央の仮面が言った。


 「あなたたちが、私たちに勝てるとでも?新人戦で優勝したくらいで、調子に乗らないでいただきたいですね。」


 そう言って、全員一斉に仮面を外す。

現れた顔に、フィアが「あっ」と声を上げた。

中央の男が仮面を外した下に現れたのは、さらさらとした白髪を持つ美形の顔だった。

男が改めて自己紹介する。


 「どうも。私はクリエスト・フォビール。レヴィアース勇者学院の3年首席であり全能オール攻撃職アタッカー、そして貴族の名家フォビール家の長男です。」


 そして優雅に一礼。

顔を上げ、笑みを浮かべつつも鋭い眼光でノイルを睨みつけた。

続いて、他の者たちも自らの名前を告げる。


 「俺はサレイド・エルンだ。当然だが全能オール。もちろん、出来損ないのお前らに負ける訳がないよなぁ。」


 「私が勇者学院最強のパーティーの最強の治癒士ヒーラー、アリスタ・タニエルよぉ。よろしくねぇ、出来損ないさんたち。」


 「私はイタリン・クウェンデルと申します。防御職ディフェンダーを担当しております。出来損ないさんたち、よろしくお願いいたします。」


 「私…ティリス・ムトクス…。攻撃職アタッカー…。出来損ない…倒しにきた…。」


 まさに彼らこそが勇者学院最強とうたわれるパーティー、その全員だ。

1年生の頃に結成されて以来、授業や大会を含めた全ての試合で無敗。

特にリーダーのクリエストは、その圧倒的な強さから「歴代で最も伝説の勇者に近い男」と言われている。

もちろん、全員が貴族の名家出身だ。


 「初対面の人間を、全員が『出来損ない』呼ばわりとはな。これが勇者学院最強のパーティーでは、全く勇者の資質が疑われるというものだ。」


 ノイルの皮肉を笑って受け流し、クリエストが言う。


 「あなたに、資質がどうと言う資格はありませんよ。勇者として必要なのは、まず第一に強くあること。そして、高潔な貴族であることです。あなたたちが、それなりの力を持っているとしても結局は平民。あなたたちは、勇者としてふさわしくありません。」


 ノイルはさらに皮肉で返す。


 「そうなると、お前たちも勇者としてはふさわしくないな。強いかどうかも怪しいところだが、それより笑わせてくれるのは『高潔』?はっ。出会ったばかりの人間を見下すような奴が、『高潔』であるものか。」


 その言葉にも、クリエストは動じない。


 「何とでも言いなさい。所詮は負け犬の遠吠え、あなたたちは私たちの前に屈服するのですから。」


-これだけ煽っても、冷静さを保つか。


 ノイルは、ただ無意味にクリエストたちを挑発した訳ではない。

魔力の乱れを見て、感情が昂った時に現れやすい魔力属性を見極めようとしたのだ。

しかし、完全にノイルたちを見下して余裕で構えているクリエストたちには、皮肉での挑発は通用しなかった。

一切、魔力が乱れなかったのである。


 「これ以上の長話は不毛でしょう。いい加減、死ぬ覚悟を決めていただけませんか?」


 勇者学院の首席ともあろう者が、平然と殺人を予告した。


-全く、驕った貴族とは本当にろくでもない生き物だな。


 心の中でため息をつきながら、ノイルは答えた。


 「いいだろう。こちらにとっても、ちょうど良い準備運動になるはずだ。」

「その強がりが、いつまで続きますかね。」


 ノイルとクリエストが睨み合い、お互いに戦闘の構えを取る。

それぞれのパーティーメンバーも、用意を整えた。


 「基本は一騎打ちが理想だ。それぞれ、自分が戦いやすいと思う奴と戦え。必ず勝って、俺たちの最強を証明してやろう。」


 ノイルの言葉に、フィアたちが力強く頷く。


 名も無き魔物の領地の草原で、最強を自負する者たち同士の戦いが始まろうとしていた。

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