第30話 それって「先祖が残した謎」ってことだよね?
「カミーラ家の創始と願い」の前半部分は、ひたすら初代当主の自慢のオンパレードだった。
どんな魔法が使えるだとか、どうやって財を為しただとか、どうやってモテモテになったかだとか…。
正直、読んでいて気分の良いものではない。
ノイルは話が切り替わりそうなところまで、ぱらぱらとページをめくった。
「お、ここからは少し話が変わるな。」
ノイルがページをめくるのを止めたのは、本のちょうど真ん中辺り。
見開き1ページ全体に。「勇者と魔王の戦いについて」と力強い字で記されている。
次のページからは、細かな字で戦いの様子が描写されていた。
しかしどれも他の書物に書かれているようなことばかりで、目新しい情報はない。
さらに、ところどころで初代当主の活躍が明らかな脚色を加えて自述されており、やはり読んでいて面白いものではなかった。
-何の役にも立たないか。
ノイルのページをめくる手が加速する。
と、もう一度その手が止まった。
またしても見開き1ページ全体を使い、「エルフの封印について」と書かれている。
しかしその字は、何かを恐れているかのように大きく震えていた。
ノイルがゆっくりとページをめくる。
次のページには、さらに震えた字でめちゃくちゃにこんな殴り書きがされていた。
「エルフの魔力は絶大だ。あれが無ければ勇者も魔王には勝てなかった。しかしどうだ、今やエルフは封印されてしまった。くそっ、奴の視線を感じる。すぐ後ろにいるのか?姿を見せやがれ!あの勇者は何を考えているんだ?ああくそっ!これ以上書いては私の命が危ない。最後に、これを読んでいる我が優秀な子孫に言っておこう。500年だ。500年以内にエルフの封印を解かねば、その先の世界は保証出来ない。」
ノイルが再びゆっくりとページをめくる。
そこは最後の1ページだった。
「願わくば、“最後の勇者”を我らがカミーラ家から…。」
ノイルは1つ息を吐いて本を閉じた。
「よく分からなかったわね。」
ノイルの横から、本を覗き込んでいたリンテが言う。
それを見て、反対側から覗き込んでいたがフィア口をとがらせて言った。
「リンテさん、お兄様との距離が近いです。」
「あんたと変わんないわよ!」
「私はお兄様の妹だからいいんです。」
睨み合う2人をガイスとロスタがなだめる。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いた方がいいぞっ。」
「そうだよ。今は、もっと大事なことがあるよ。ね?ノイル君。」
話を振られたノイルは「ああ」と応じて話し始めた。
「正直、先祖の自慢話などに興味はない。この本において、大事なのは最後の数ページだ。」
そしてノイルは、殴り書きがされたページを開く。
1つ1つの単語を指さしながら、確認するように言った。
「このページには、色々と謎が多い。まずは『エルフの封印』という言葉。それから、著者の言う『奴』とは誰なのか。怯えている理由や、唐突に登場した『勇者』の存在も大いに気になるな。さらには、500年以内に封印を解かなければ何が起きるのか。そして、」
ノイルは次のページを開く。
「この“最後の勇者”とは何なのか。」
「調べることがたくさんですね、お兄様。」
フィアの言葉に頷き、ノイルは力強く言った。
「エルフの謎が解ければ、学院長の秘密や500年前に何があったかも分かるだろう。まずは、この『エルフの封印』について調べるぞ。」
ロスタが質問する。
「でもどうやって?図書館に資料はなかったし、もう1冊の本は読めないよね?」
「鍵になるのは、こいつらだ。」
ノイルはポケットから、金髪の入った2つの小瓶を取り出した。
自分の拾った金髪も、適当な小瓶に入れておいたのだ。
「今のところ、手掛かりははこの2つしかない。ただ、この2つは非常に大きな手掛かりだ。特に俺が拾ったものは、今もエルフが生きている可能性が高いことの貴重な証拠になる。」
そしてノイルは立ち上がると続けた。
「さらに俺としては、エルフが封印されているとしたらここだろうという目星もついている。」
「本当に?」
「まあな。」
「それはどこなの?」
リンテの質問に、ノイルは質問で返した。
「では逆に聞こう。エルフを封印する可能性が1番高いのは誰だ?」
「それは…魔王よね。人間にはそんなことする意味がないし、エルフは高い魔力を持つらしいから並の魔人には無理だし。」
リンテの答えに「その通りだ」とノイルは頷いた。
「では、その魔王が何かを封印するとしたらどこに封印する?」
「封印するなら近寄れない場所がいいから…。あっ!魔王城ね!?」
「大正解だ。」
そのやり取りを聞いていたフィアが、慌てて言う。
「まさかお兄様、魔王城に行くとかは言わないですよね…?」
「行きたいところではあるが、学院をおろそかにも出来ない。何か、魔物の生息地に行く理由がなければな。」
「理由があれば行くのね…。」
リンテが呆れて言った。
ノイルが当然だという顔をして返す。
「俺はすでに、魔王城に行ったことがある。だが、地下の最深部までは行かなかった。そこに、何かがあるはずだ。」
リンテとフィアが呆れ顔を見合わせる。
もうノイルには、何を言っても無駄だという感じだ。
かといって、ノイルが行くと言えば彼女たちもついて行く。
ノイルの強さを、ちゃんと信頼しているのだ。
「理由なら、作れるかもしれないぞっ。」
ガイスが、何かを閃いたように手を叩いて言った。
「クエストを受けられるか、学院長に聞いてみればいいと思うんだぞっ。クエストなら、魔物の領地にも簡単に行けるんだぞっ。」
ノイルが笑顔でガイスを指さして言う。
「いいアイデアだ。それでいこう。」
「はぁ…今さら何を言っても止まらないわね。」
「そうですね…。」
リンテが立ち上がった。
フィアも、何だかんだボヤきながら立ち上がる。
「本に書いてあったこととか、学院長のこととか、すごく気になるしね。」
ロスタも笑って言った。
「では、院長室に向かうとするか。」
ノイルを先頭に、5人は図書館を出た。
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「あっさり、クエストを貰えたわね。」
リンテが意外そうな顔で言う。
ノイルたちが院長室でクエストを受けたいと言うと、若返った学院長は「そうか」と言って1枚の紙を渡してきた。
場所は前回と同じくカンク。
すんなりとクエストをくれた学院長を怪しみつつ、ノイルたちは一応の感謝を伝えて学院を出た。
「何か裏があるのは確かだね。でも、これでより詳しく調べられるよ。」
「ロスタの言う通りだ。ひとまず今日は休んで、明日出発しよう。」
ノイルの言葉に頷き、それぞれ校舎を出て寮に帰った。
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「君の言った通りにした。彼らは明日、クエストに出ることになったよ。」
「そうか。」
深夜の院長室。
学院長と話している男がいる。
しかし、あの背の高い男ではない。
ゼリトリフだ。
「それにしても、君は根っからの貴族至上主義者じゃないか。その君が、元貴族とはいえ平民の彼らに活躍の機会を与えるとはどういう意味だい?」
学院長の質問に、ゼリトリフは「ふっ」と笑いをこぼして言った。
「活躍?そんなことされてたまるか。奴らを明日叩き潰すんだよ。学院を出たタイミングで、全員抹殺する。」
そして、腰に携えていた剣を抜く。
その刀身には、もうリリアナの血は付いていない。
「貴族が何ゆえに貴族であるかを、奴らに思い知らせてやる。まぁ、思い知ったところですぐにあの世行きだがな。」
その言葉を、学院長はただ黙って聞いていた。
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