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第29話 それって「届くことのない勇気」ってことだよね?

 「何をした?言え。」


 ノイルたちが、リリアナから金髪と本を受け取ってから1週間後。

椅子に座ったゼリトリフが、リリアナを問い詰めている。

リリアナは何も言わず、ただ直立していた。


 「お前が2週間前と1週間前に、あの出来損ないの馬鹿2人と接触していたと報告を受けている。ゴイルからな。」


 リリアナは、ゼリトリフの横に立っているゴイルを視線だけ動かして睨んだ。

ゴイルも意地の悪い笑みを浮かべて見つめ返す。

その様子を見たゼリトリフが、荒々しく机を叩いて言った。


 「お前に今話しているのは私だ!リリアナ、言え!あいつらと接触して何をした!?」


 視線をゼリトリフに戻し、冷静にリリアナは答える。


 「特に何もございません。街で会って声をかけられただけですから。」


 その答えを聞いて、ゴイルがいやらしい笑みを浮かべたまま言った。


 「ご主人様。私は先日、掃除と言ってこの部屋に入ったリリアナが棚を物色しているのを見かけました。」


 その言葉を聞いて、ゼリトリフが背後にあった棚をあさり出す。

その視線が小瓶と本が置かれていた場所まで来て、険しくなった。

顔色を変え、リリアナを指さして近寄りながら言う。


 「ここに小瓶と、古い本があったはずだ!取り出したのはお前だな!?」

「いいえ、私ではございません。」

「嘘をつくな!」


 ゼリトリフは、リリアナの胸ぐらを掴んで大声で叫んだ。

顔と顔を近づけたまま、さらに大声で続ける。


 「お前が盗んで、あいつらに渡したんだろう!何の目的でそうした!?」


 ゼリトリフの口から飛び出す(つば)に、リリアナは顔をしかめた。

しかし尚も、「知りません」と自身の関与を否定する。

必死に、ノイルたちの身を守ろうとしているのだ。


 「知らないか。そうか。」


 落ち着きを取り戻したかに見えたゼリトリフだったが、素早い動きで棚にあった剣を掴むと、それをリリアナの首筋に突きつけた。

さすがのリリアナも、驚きと恐怖に体が震え出す。

ゼリトリフは再び顔を近づけ、今度は静かに、しかし低く脅すような口調で言った。


 「これでもまだ、奴らを守ろうとするか?私は本気だぞ。」

「し、知りません…っ。」


 上ずった声で尚も否定するリリアナの首に、ゼリトリフはより強く剣を押し付けた。

リリアナの首筋から、わずかに血が流れ出す。

そんな状況の中でも、ゴイルはただ黙ってにやにやと笑いながら見ていた。


 「私とて、優秀なメイドを殺したいとは思わない。だがな、これ以上隠し立てをするならお前もあの無能たちと同じだ。容赦はせぬぞ?」


 その言葉に、リリアナの頭を様々な考えが駆け巡る。


-今ここで全てを話せば、間違いなくノイル様たちに危険が及ぶ。

 しかし、私は助かるかもしれない。

 いや待って。

 1度裏切った私を、ご主人様が容赦なさるだろうか?

 最悪の場合、ノイル様たちも私も殺されて終わってしまうのではないだろうか?


 「それならいっそ…。」


 覚悟を決め、リリアナは小さく呟いた。

その呟きに、ゼリトリフが反応する。


 「何だ?話す気になったか?」


 リリアナは剣を押し当てられた状況で吸える限りの息を吸い、力強い目でゼリトリフを見て言った。


 「私は何も知りません。ノイル様たちとも、そのご主人様の持ち物とも何も関係ありません。」


 リリアナは、あくまでもノイルたちを守る決断をした。

しかしその勇気が、ゼリトリフやゴイルを感動させ考えを改めさせることはない。


 「そうか。」


 短く言いきったゼリトリフは、そのまま剣を振った。

激しい血しぶきが上がる。

冷酷な2つの視線の中、ノイルたちをかばってリリアナは絶命した。


 「馬鹿な女だ。片付けておけ。」


 ゼリトリフは、何事も無かったかのようにゴイルに命じる。


 「かしこまりました。」


 ゴイルもまた、何事も無かったかのように応じた。


 「全く、部屋が汚れてかなわんな。」


 ボヤきながら、ゼリトリフが部屋を出て行く。

出て行きがてら、ゴイルにまた指示を出した。


 「あの出来損ないたちの動向を監視しておけ。奴らが学院から長期間離れるような動きを見せたら、報告しろ。」

「ご主人様の仰せのままに。」

「お前は、賢い奴だ。」


 ゴイルの返答に満足して、ゼリトリフは部屋を出た。


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 時は少し遡って3日前。

ノイルたちは、放課後またしても図書館に集まっている。

目の前にあるのは本の山ではなく、2冊の本。

リリアナから受け取ったものだ。

ページがばらばらになっていたり、ところどころ破れていたもの出来る限り修繕し、何とか読める状態までもってきた。


 1冊のタイトルは「カミーラ家の創始と願い」。

著者は、初代カミーラ家当主のテアンメス・カミーラとなっている。


 もう1冊の本は、タイトルと作者共に不明。

そもそも人間のものではない文字で書かれているため、判読不能なのだ。


 「これってもしかして、エルフの文字?」


 ロスタの問いに、ノイルは頷いた。


 「その可能性が高い。エルフの金髪と共に保管されていたようだしな。ただどちらにしろ、今の俺たちでは読めない。まずは、こっちの本からいこう。」


 そして「カミーラ家の創始と願い」を手に取る。

タイトルと著者からして、カミーラ家初期の歴史や子孫へのメッセージが記されているのだろう。


-祖先とはいえ貴族の書いたものか。

 あまり、読みたいものではないな。


 そう思いつつもページを開いたノイルだったが、すぐに本を閉じてしまった。


-1文目からこれとは…。


 「何、どうしたのよ。」


 ノイルの手から本を取り、リンテが1文目を読む。


 「うわ…何なのよこれ…。」


 リンテも絶句した最初の1文はこうだった。


 「我らが特別なる貴族、カミーラ家は他の平民とは違い高潔な血を持つ名家である。」


 ノイルが読む気を失ったのも、納得である。

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