第28話 それって「メイド長の協力」ってことだよね?
「持ってこさせるって…どうやってですか?」
「1人だけ、屋敷の中にフィアの協力者がいるだろう。」
ノイルの答えに、フィアが「あっ」と声を上げた。
「リリアナさんですね!?」
「正解だ。」
そう、フィアの家出を助けてくれたメイド長のリリアナである。
「彼女の立場なら、掃除だとか何とか言って書斎に入れるだろう。問題は、どうやってリリアナと接触するかだな。」
「それなら、買い物の時はどうでしょう?」
フィアが提案する。
「リリアナさんは週に1度、街の市場に買い物に出ます。いつも通りなら、今日も市場に出るはず。その時に接触するのはどうですか?」
「それでいこう。」
ノイルも同意した。
市場の喧騒の中を、リリアナが1人で歩いている。
その姿を、路地の影からノイルたちは見守っていた。
「あの人だね?」
まず声をかける役割のロスタが確認する。
いきなりノイルやフィアが声をかけて、リリアナを驚かせてしまうことは避けたい。
そこで、面識がなく人当たりの良いロスタが選ばれたのだ。
「じゃあ、行ってくるよ。」
路地からロスタが出ていった。
後ろから、リリアナに声をかける。
「すみません。リリアナさんですよね?」
その声に振り返り、リリアナが言った。
「そうですよ。何かご用ですか?」
「あの、少しお時間いいですか?お話したいことがあって。」
ロスタの顔を直視したリリアナは、ぱっと頬を赤らめると「いいですよ」と頷いた。
「じゃあ、こっちに来ていただけますか?」
ロスタが、リリアナをノイルたちの元へ案内する。
路地に入りノイルとフィアの顔を見た 瞬間、リリアナは声を上げた。
「ノイ…!」
その口を、慌ててノイルが塞ぐ。
「すまんな、リリアナ。驚かせてしまったが、大きな声は出さないでくれ。騒ぎにしたくないからな。」
ノイルが手を離すと、リリアナはこくこくと何度も頷いた。
そして、信じられないという表情でノイルとフィアを交互に見る。
「リリアナさん、久しぶり。あの時は、本当にありがとうございました。」
フィアがリリアナの肩を軽く叩いて言った。
「ノイル様にフィア様…。お久しぶりでございます。お元気そうで、何よりです。」
そう言って、リリアナは頭を下げる。
頭を上げたその目には、涙が浮かんでいた。
ノイルとは約1年2ヶ月ぶり、フィアとも2ヶ月ぶりの再会に感動したのだ。
ノイルも笑顔を浮かべたが、すぐに真面目な顔になって言った。
「リリアナ、会ってすぐですまないが頼みがある。」
口調のがらりと変わったノイルに戸惑いながらも、リリアナは涙を拭って話を聞く。
「フィアから聞いたのだが、カミーラ家の書斎に金髪があるらしい。それを取ってきてもらえないだろうか?もちろん、他の人には内緒でだ。」
「金髪…ですか?」
「そうだ。暗闇でも光り輝く金髪だから、見ればすぐ分かるはずだ。頼むリリアナ。それがあると、非常に助けになるのだ。」
ノイルたちが、みんなで一緒に頭を下げた。
リリアナはしばし考え込んだ後、真剣な表情で言う。
「分かりました。見つけられるかは微妙ですが、探してみます。来週のこの時間に、ここで待っていていただけますか?」
そして、「私が来なければご主人様にバレたと思ってください」と付け足した。
ゼリトリフが快く思わないことは、ノイルたちも十分に承知している。
だからこそ、ノイルはもう一度頭を下げた。
「危ない橋を渡らせてしまってすまない。そして、引き受けてくれて本当にありがとう。よろしく頼んだ。」
「ありがとう、リリアナさん。」
フィアも感謝を伝えた。
リリアナが太陽の沈み始めた空を見てはっとする。
「すみません、もう行かなくては。では、また来週に。みなさんお元気で。」
そう言って足早に立ち去った。
ノイルはその後ろ姿に、もう一度頭を下げた。
そして頭を上げて言う。
「さぁ、帰るか。」
「うん、リリアナさんいい人だったね。」
ロスタの笑顔を前に、ノイルは言えなかった。
かわいい女性が好きなリリアナを連れてくるのに、男の娘のロスタが適任だと思ったなどとは。
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1週間後。
約束の時刻になったのだが、リリアナは来ない。
「もしかして見つかっちゃったんじゃないの?」
「いや、まだ時間を少し過ぎただけだ。もう少し待とう。」
リンテにはそう言いつつも、ノイルは一抹の不安を抱えていた。
何せゼリトリフは、娘に追放したとはいえ元息子の暗殺を命じるような男だ。
見つかってノイルたちに協力していることが知られれば、リリアナは大きな危険に陥る。
ノイルの不安が膨らみ始めたところに、何とかリリアナがやってきた。
「すみません、お待たせしました。」
「大丈夫か?バレていないか?」
ノイルの心配に「大丈夫です」と答えると、リリアナは持っていたカバンから小瓶と2冊の本を取り出した。
「ノイル様が仰っていたのはこれでしょうか?」
小瓶の中には、確かに金髪が入っている。
路地の暗闇の中でも光り輝いていることからして、ノイルの持っているものと同じだろう。
小瓶を受け取り、ノイルは感謝を伝えた。
「どういたしまして。それからこちらもぜひ。」
そう言ってリリアナが手渡したのは、2冊の本だ。
それも、だいぶ古い本である。
タイトルは消えかかっているが、かろうじて著者の欄に「カミーラ」という文字が読み取れる。
「これは?」
「その小瓶と一緒に保管されていました。ひとまとめにされていたので、役立つかもしれないと思ってお持ちしました。」
「そうか。では、2つとも貰っておく。」
ノイルは小瓶と本を自分のカバンにしまうと、改めて礼を言った。
「リリアナ、本当に助かった。ありがとう。」
「ありがとう、リリアナさん。」
「ありがとうございます。」
「感謝しているぞっ。」
みんなも口々に感謝を伝える。
「ありがとうございました、リリアナさん。」
ロスタが言うと、リリアナはまたしても頬を赤く染めた。
そして言う。
「あの…もしよければ、握手してもらえませんか?」
「え?僕と?いいですけど…。」
戸惑いながら手を差し出すロスタ。
「ボクっ娘!?」とか何とか言いながら、リリアナはその手を握った。
その様子を見ていたリンテが、冷たい声で言う。
「あの、ロスタは男ですけど。」
「ご冗談を…」
「いや、本当に。」
「嘘でしょ?」という顔で見てくるリリアナに、ロスタは気まずそうに言った。
「あの、はい。僕は男です…。」
それを聞いたリリアナは、慌てて手を離して立ち去る。
「そ、それでは。みなさんまた…。」
その背中を見送りながら、やはりノイルは言えなかった。
「かわいくても男の娘は守備範囲外だったか…」とは。
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