シャルロット視点
私は貧乏な男爵家の人間だ。
私の父には、私のお母さまである正妻と妾が2人いる。お母さまと他の女性の中はギスギスしていたが、子供は皆仲が良かったと思う。勿論、全員とは言えないけれど。
裕福な家ではないのに、3人も女性がいるせいか、子供はたくさんできる。私は14人兄弟の五女なのだ。女性たちは父の気を引くために高価なドレスや宝石を買うので、どんどんお金は無くなっていった。
そしてとうとう、私が学園に入学する日、父と母に言われた。
「お前は、学園を卒業したら家を出なさい」
「……え!? お父様、何をおっしゃっているのですか!?」
「五女なんて、政略結婚の道具にもならないわ。あなたがいるとお金がかかるだけなの……」
母の言葉に、私は声が出なかった。
この人が、本当に私の母親……?
「学園には行かせてやるが、卒業したら平民として生きろ。話は終わりだ」
それだけ言うと、私は1人部屋に取り残された。
私はアリスト学園に入学した。
家から侍女を連れてくるなんて贅沢なこと、私ができるはずもなく、完全な一人暮らしが始まった。
初め、私は男爵という爵位の娘だったからか、下の方のクラスに置かれた。
卒業まで残り3年、それまでに生きる術を学ばなくちゃ……。
私は必死で勉強した。勉強は得意ではない。寧ろ苦手だった。それでも、あと数年で学べなくなるのだと思うと、いくら勉強しても足りないくらいだった。この先の人生をしっかりと生き抜くために、知識はきっと力になる、そう思って……。
熱心に取り組めば、それなりに成果も出てきてまた頑張ろうと思う。そのループに入り込んだ私の成績は、みるみると上がっていった。
2年に上がるときに、最上位のクラスに入るくらいには……。
最上位クラスには、第二王子殿下、高位貴族が集結していた。公爵、侯爵、低くて伯爵と、住む世界の違う方のなかでやっていけるのかと、とても不安だった。それでも、最上位クラスから優秀な成績で卒業すれば良い職場が見つかるかもしれないと思えば、前向きに考えられたのだ。
私は教室で孤立した。ご令嬢は第二王子殿下の婚約者であるミランダ・アスコナー様の派閥か、侯爵令嬢エミリー・ルーベルソン様の派閥に属していた。言わずもがな、私がそんなところに馴染める……どころか混じることもできず、2人で使う机を1人で占領していた。
家柄が低いくせに、最上位クラスまできたことに怒りを感じる人もいて、嫌味を言われたり、蔑まれたりしたこともある。
将来のためだと思っていても、やはり心は傷ついていき、場違いなのだと悲しくなってくる。
……タルッフィ先生にクラスを変えてもらうよう、お願いしようかしら。
そんなことを考え始めた時、彼女はやってきた。
「アリス・ミーティアです。よろしくお願いいたします」
教室に現れた彼女は、この世に舞い降りた天使だと思った。少しウェーブした金髪に鮮やかな紫色の瞳、誰もが憧れるようなスタイル、完璧なカーテシーをする彼女は今まで出会った女性の中で、圧倒的に美しかった。
クラス中が彼女の美しさに静まり返る。
ふと、緊張した面持ちだった彼女が花が開くように微笑む。その愛らしさに、同性の私がドキドキする。
「席は……シャルロットの隣かな」
タルッフィ先生は、私を指差していた。
彼女が優雅にこちらに向かってくる。歩き方一つとっても、本当に綺麗だった。
「ご機嫌よう、アリス・ミーティアです」
彼女が私を覗き込む。その高いのにキンキンしていない優しげな声に心が暖かくなる。
「ご、ご機嫌、よう。シャルロット・ミルヴェーデン、と申します」
至近距離で彼女の顔を見れば、途端に緊張する。こんなに肌って、きめ細かいものだったかしら……。
「今日からよろしくね」
「は、はい! 」
緊張のあまり、変な返事になってしまったことを悔やむ。おかしな子、と思われていないことを祈るしかなかった。
「今日はここまで」
タルッフィ先生が教室を出て行くと、賑やかさが戻ってくる。
「シャルロット様」
「はい!」
未だ隣に彼女が座っているという現実を信じられない私は跳ねるようにそちらを向いた。
「私は他国から来たので、ここでの学園生活に少し不安があります。できたら、色々教えてくださらないかしら? 」
「は、はい。何でもお聞きください」
彼女も他の貴族のようにプライドが高く、気が強い性格をしていたらどうしよう、と思ったが杞憂だった。こんな地味な私にも丁寧に話してくださる。
「あの……」
「はい」
「私と友達になってくださらないかしら?」
彼女の言葉を理解するのに、思考が停止してしまった。
……私を、友達、に?
揶揄っているのかと彼女の方を見るが、その表情は至って真剣で、その瞳には少しだけ不安の色が滲み出ていた。
もしかしたら、慣れていない……?
完璧そうで、誰からも愛されるような人物だと勝手に形作っていたが、その瞳に考えを改め直す。
「はい! 是非お願いします」
私がそう言えば、彼女はその表情が緩んでいって、満面の笑みを浮かべる。子供のような無邪気さを含むその笑みが、眩しくて仕方がなかった。
「私のことはアリスと呼んで!」
可愛すぎる彼女に少しだけ戸惑う。
「よ、よろしいのですか?……私は男爵家の人間ですが」
そんな簡単に名前を呼んで良いわけがないのだ。
それでも、彼女は笑顔のまま続けた。
「そんなの、いいに決まっているじゃない。私もシャルロットって呼びたいから、あなたもアリスって呼んで」
「分かりました……アリス」
動揺しながらも、恐る恐るアリス、と呼んでみれば
「嬉しいわ、シャルロット」
私の心をそっと癒すような声がした。




