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宇宙戦艦の試験飛行をしていたら異世界を飛んでいた  作者: 世も据え置き
第1章 最新鋭艦、異世界に行く 
6/26

1-6.第6話 くたびれた庵と

 順調に森の中を進む。

 目指すは北東にある宇宙から見た町である。昼には着く予定であったが、思った以上に森は深く起伏が激しい。これでは十分な速度が出せない。

「やはり日暮れまでには間に合わないな……仕方がないが野宿だ」

『初めての外泊ですね。仕方がありません許可しましょう。装備は問題ありません。快適に過ごせるでしょう』

「そりゃどうも」

 キャンプならまだしも野宿なんて初めてだ。しかも何が居るかもわからない原生林である。きっと眠れない夜になることだろう。

 

『止まってください』

 野営地を探すべく進んでいると、突然アニマが声を上げた。シンはバイクに急制動を掛ける。

『センサーに人工物の反応があります』


「森の中に村でもあったのか?」

『空から確認した限りでは集団が営んでいるような反応はありませんでしたが』

「じゃあ廃村か……」

『いえ、それほど大きなものではないようです。休憩用、もしくは狩猟小屋かもしれません』

「ハンティングが禁止されたのは大昔のことらしいのに、よくそんな単語知っていたな」

『当たり前です、AIですから』

 なるほど道理である。

 

 シンはアニマの示す方向へバイクを切ると、少し速度を落として発進させた。

 

『ここからはバイクを降りて接近しましょう』

 シンはバイクを大樹の洞に降ろすと折った枝をその上に被せた。簡素なカモフラージュだが問題ないだろう。ここは深い森なのだ。

 

 

 やぶをナイフで切り拓きながらゆっくりと進んでいくと、木々の切れ目に目的の建物が見えた。

「……小屋、だな。だがこんな場所にあるのに随分立派だ」

 それは石造りの家だった。大きさ恐らく部屋数は2つか3つといった所だろう。

 屋根は町で見たものと同じであろう、赤い瓦が使われている。

『人が居なくなって随分経つようです』

 だがそれらは朽ちかけていた。

 壁は一部が崩れかけ蔓が巻き付き、瓦は緑色の苔で覆われている。きっと持ち主はもういないだろう。そう感じさせる気配があった。

 

「さっそく調べるぞ」

 森を進むだけの時間から解放され、萎えたシンの心に再び冒険心が芽生えた。

 

 そうだ、俺は冒険に来たのだ。宇宙船に引きこもって救助を待つなんてまっぴらごめんだ。

 

 *

 

「誰かいないか?」

 一応の声掛けとノックをして扉を開ける。鍵は掛かっていなかった。

 そのぶ厚い扉は、周囲の大自然という驚異から、室内という空間を今まで守り通すという、その勤めを見事に果たしていた。

 ライトを点けて中を照らすと、埃っぽいが未だに生活の名残を感じさせた。

 

「放棄されてそれほど時間は経っていないのか?」

『燃料に薪を使っていたのであれば、今ある簡易センサーでそれを調べ、いつ伐採されたものなのかは分かります』

「まあそれは後にしよう」


 小さい部屋ながらもその中にはこまごまとした雑貨が棚などに並べられている。シンはそれに興味を引かれた。この惑星のことを知る手掛かりになりそうなものにようやく出会えたのだ。じっくりと調べるつもりだった。

「なんならこの小屋を拠点にしてもいいかも――」

『シン停まってください!』

 その声に踏み出そうとした足を慌てて引く。

「ど、どうした?」

『床に人の足跡が見えます』

 下を向いて確認する。木製の床だ。埃が白く積もっているため自分の足跡が埃を潰した分だけ黒く見える。だが他の足跡は目を凝らしてもよく分からない。

 だがアニマがあると言ったのだ。それは間違いなくある。

「何時頃の物か分かるか?」

『現在までに観測した埃の落下量からしか算出できませんから、非常に大まかではありますが……約一年前頃かと』

 つまりアニマはシンが携帯している各種センサーと、シンの視界に入った情報を元に、現在空気中を滞空している埃の量から、艦の演算処理を使って瞬時に算出して見せたのだ。

 観測と測定。この早業こそがAIの得意とする仕事の一つだ。

「一年前まで人が住んでいた……という事だろうか」

『申し訳ありません。データが不足していてそこまで判断できません』

「いや謝る必要はない。その情報だけで十分助かる。ありがとう」

 シンはアニマとの交流の末、何に対して落ち込むのか理解していた。それは頼られて、それに自分が応えられなかった時だ。

 彼女に落ち度はない。それ故、シンは素直に感謝の気持ちを述べる。アニマがいなければそもそも自分一人では何も出来ないのだから。

『シン……ありがとうございます』

「さあ調査を進めよう」

 しんみりとした空気を払うかの様に、シンは大きな声出して部屋絵と踏み込んだ。

 

 足跡の大きさから二足歩行の人型、それも女性であるとの推測を得て探索を続ける。

 室内が暗かったのは窓がガラス戸ではなく木戸だからだ。

 シンは窓を開けようと奮闘するも外の蔓が邪魔をして無理だった。仕方なくライトを使って探索を続ける。この程度の闇なら暗視装置を使うまでもない。

 

 入って始めの部屋はキッチンだった。恐らくダイニングルームと兼用なのだろう。中央に丸型のテーブルが鎮座している。不動産で言うDKというやつだ。

 部屋に隅に釜戸と流し台、それに割れた大きな壺が置いてある。ここが台所のようだが薪は無かった。

 小さな棚には皿などの食器類が並べられている。どれもが欠けているか割れていた。素材は陶器でガラス製品はない。

 窓にも使われていないという事から、ガラスは高価であるか、まだ作れる技術力がないかのどちらかであろうと、アニマは述べた。


 中央に置かれたテーブルは木製で、今だにしっかりと4本の足で立っている。上には何も載ってはいない。

 シンはテーブルに触れてみる。埃の向こうの木肌の手触りは滑らかだった。しっかりとやすり掛けされている証拠だ。ニスのようなものを塗ってあったのかもしれない。

 

 

 そこをあらかた調べ終えたシン達は次の部屋へと向かうことにする。扉は二つ。入り口から奥の扉と、左の扉だ。

「左から行こう」

 その言葉は己への確認だ。アニマも反対することはない。

 

 扉を開けるとそこは書斎だった。壁際にベッドもある。ここが住人の寝所だからだろか。僅かに生活感が感じられた。

 しかし二人が最も目を引いたのは書斎に必ずあるアレである。

「本だ」

『本ですね』

 本である。つまりは情報の塊だ。偶然通りがかった廃墟でお宝を見つけたのだ。

 

「こいつは凄い。びっしり棚に詰め込んであるぞ!」

『この部屋は浸食が少ないようです。保存状態も期待できます』

 ライトを肩に固定すると、さっそくとシンは一冊手に取って捲ってみる。その触り心地は硬く、妙にざらざらしていて触っていて飽きない。紙では有り得ない不思議な感触だった。

「これはまさか……羊皮紙か?」

 シンは触ったことはない。しかし聞いたことはある。昔はとても高価な物で、一冊で家が買えた、と趣味で読んだ歴史書の記憶があった。

「……しかし読めないか」

 文字であるとは理解できるが、シンには蛇がのたくったようにしか見えない。

『シン、その本のスキャンは完了しました。早く次のを手に取ってください』

 アニマも興奮しているのだろう。いつもより早口だ。

「もう済ませたのか?」

『この程度の情報密度なら閉じていても簡易スキャンで一瞬です。ですがより正確を期すためにヘッドギア側に寄せて欲しいのです。だから早く、あ、保存状態は良好ですが、脆くなっている本もありますので、ゆっくり急いでください』

「わ、分かった」

 シンはしばしアニマの声に合わせて、棚から本を取る、戻す、また取る。という作業を繰り返した。

 

 

 ***

 

 

『……興味深いです』

 最後の本を戸棚に戻していると、アニマはそう唸った。

 アニマはデータベースに保存された本の中身を精査し終えてご満悦な様子。

 自身は反復作業に少し疲れを感じる。しかしそれは気疲れの類のようだと、作業中のアニマの小言を思い起こした。

「……AIはすべからく情報中毒者なのか?」

『失礼な。未知の情報を求めるのは人間だって同じですよ』

「それは……まあ、人による」

『それならAIにもよりますよ」

「むう」

 口ではアニマに勝てはしないと分かっている。こういう時は話題を変えるのだ。

「それでなにが書かれていたんだ?」

 アニマであれば文字の解読など造作もない。

『聞いて下さい、驚きますよ。これには――』

「OOOO!!」

 

 シンは後ろへゆっくりと振り返る。

「OOOOO! OOOOOOOOOOOO!!」

『申し訳ありません。周囲の索敵を怠っていました。今対象の言語を解析します』


 シンはアニマに気にするなと心で思う。脳波感応通信は声にしなくても感情を相手に伝えることが出来る。だがAIはそれが出来ない。そのはずである。だがシンはアニマからの申し訳なさと、感謝の気持ちを確かに感じる。

 

「OO! ナOOOイOOOOOOンダ!!」

『不完全ながらも解読した情報を送ります。彼女に話しかけて下さい。その量が多い程精度が増します。先ずは落ち着かせてください』

 

 

 そこに居たのは女性だった。

 

 彼女の手には細く鋭い金属製の刃。物それを持ちこちらに用心深く向けている。

 だがシンはそんな物よりもあるモノに目が釘付けだった。

 その蒼い目は敵意と警戒心でぎらついていて、それでもなお美しかった。プラチナブロンドの髪は所々編み込まれ、その流れに彩を与えている。白い肌は興奮で赤く染まり、なおその白さを強調して見せる。体の線は細くスレンダーでありながら抑えるところはきっちりとその女性らしさを強調している。

 つまりは美人だった。まるで絵画から抜け出てきたような絶世の美少女が、ライトに照らされて輝くように立っていたのだ。

 しかしシンが見つめるのはソレではなかった。

 

 

「……エルフだ」

「だから貴様の仲間は何処だと聞いているッ!!」

 

 その少女の耳は尖っていたのだ。

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