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魔法使いの証明  作者: 0℃
1章 逮捕不可能な魔法使い
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08.不可解な凍死体③

 冷凍庫は店長と鈴井、鹿上によって、本来あった場所から少し前方に動かされた。


 業務用冷凍庫は、空の状態で100キロの重さがあるらしいが、大人3人がかりなら動かすのもそれほど苦ではないようだ。


「ほら! 見てください! これこれ!」


 朝比奈は冷凍庫の背面を見て、ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる。


「一体そこに何があるって言うんだ」


 鈴井が不満そうに口を尖らせながらも、冷凍庫の裏側を覗く。


 冷凍庫の背面はステンレス製の鉄板で覆われていた。その鉄板の4ヶ所に、凹みができている。


 凹みのできている部分は、右上、右下。

 左側に80センチほどの空間を持たせて、左上、左下に凹みがある。


 長方形を作るような形で、凹みは4箇所についていた。


「この凹みは何だ?」


 鈴井が仏頂面で聞く。

 対照的に、朝比奈は満面の笑みだった。


「この凹みの場所、何かによく似てませんか?」


 鈴井は腕を組み、思考する。

 すぐに答えは出たようだ。


「……冷凍庫の取っ手の位置か」


「おお! その通りです。さすが捜査一課、察しがいい」


「どういうことです?」


 鹿上が、鈴井に尋ねる。


「つまり朝比奈は犯行時、被害者の入っていた冷凍庫の前に、この使用禁止の冷凍庫が置いてあったと言いたいんだ。

 そうすれば、この冷凍庫が邪魔になって、被害者は扉を開けることができなくなる」


 取っ手に出来た凹みは、被害者が扉を開けようとして、前にある冷凍庫にぶつかってできたものだと考えられる。


 使用禁止になった冷凍庫の背面に付いた凹みも同様だろう。


 そうすれば、コンセントが抜けていたのも説明が付く。移動させたときに抜けたか、自ら抜いたかのどちらかだろう。


 一晩コンセントが抜けていれば、中に入っていた食品が溶けてしまっていても無理はない。君島の死亡が確認出来たら、あとは冷凍庫をもとの場所に戻せばいい。


 ――――しかし。


「朝比奈。それは無理だろう」


 鈴井は、ため息混じりに言った。


「はい? なんでですか?」


「今、俺たちは大人3人がかりで、やっとこの冷凍庫を動かしたんだ。白石1人でこれを動かすことは難しい」


 続けて、店長が申し訳なさそうに口を出す。


「それに、もし動かしたとするならば、中に物が入った状態だったと思うんですよね。

 使用禁止にした冷凍庫の中身は、昨日と同じ状態だったし。

 そうなると、一人で動かすのは余計に無理なんじゃないかな」


「さらにだ。

 被害者を冷凍庫の中に入れた後に、使用禁止の冷凍庫をその前に動かすとなると、どう考えても冷凍庫を動かしている間に逃げられるだろう。

 被害者が、自分が閉じ込められるのを大人しく待っているはずがない」


 鈴井の否定に対し、朝比奈はにっこりと笑う。自信満々に朝比奈は言った。


「順番が逆なんですよ。

 白石君は、『使用禁止の冷凍庫』を、『被害者の入る冷凍庫の前に動かした後』に、被害者を中に入れたんです。

 つまり、冷凍庫の扉を塞いでから、被害者をその中に入れた。これなら逃げられません」


「はあ?」


 鈴井は素っ頓狂な声を上げる。


「馬鹿なことを言うな、朝比奈。

 確かにそれなら逃げられないが、今度は被害者を入れることができなくなるだろ。扉を塞いだ後にどうやって中に入れるって言うんだ。不可能だ」


「だから、これは魔法事件なんですよ、鈴井さん。そしてこれが、白石君の持つ魔法の答えなんです」


「なんだと?」


 鈴井は腕を組み、考え込む。


「なんの魔法を使ったっていうんだ……?」


 考え込む鈴井を尻目に、朝比奈は鹿上の方を見る。


 鹿上もまた、鈴井と同様に何かを考え込んでいる様子だった。朝比奈はニコニコしながら鈴井に近寄り、耳元で囁いた。


「鹿上君。特別に、キミに大ヒントをあげよう」


「……え?」


「あの時、《《水面は揺れた》》かな?」


 その言葉に、鹿上は目を丸くする。


「そうか……そういうことか!」


 どうやら彼も、朝比奈と同じ答えにたどり着いたようだった。


「朝比奈さん、俺ちょっと行かないといけないところがあります! すみません!」


 鹿上は慌てた様子で、ポケットからスマホを取り出す。彼は駆け足で厨房から出ていこうするが、直前に朝比奈の方へと振り返った。


「もしかしてセンパイ。明日、白石の所に行きますか?」


「うん。行くと思う」


「わかりました!

 じゃあ、明日休みます! すみません!」


 そう言って、鹿上は厨房から飛び出していった。鈴井は訝しげな顔をする。


「おい。アイツこの大変な時期に休むとか言ってなかったか? 大丈夫なのか?」


「まあ、大丈夫でしょう」


 朝比奈は、ただ笑うだけだった。

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