09.白石拓海の魔法
翌朝。朝比奈は加賀崎高校に電話をかけた。白石の所在を知るための電話だ。
電話には若い女性教員が出る。朝比奈は彼女に事情を説明し、白石の住所を聞き出そうとしたが、彼女の話を聞いてるうちにその必要はないと知った。
結論から言うと、白石は学校にいたのだ。
昨日、あんな事件を起こしたというのに、本人は何食わぬ顔で登校していた。どんな神経なのか。朝比奈は困惑する。
「生徒も教師もみんな怯えています。何をしでかすか予想もつきませんし、次は自分の番なんじゃないかって、みんな不安に思っています……」
若い女性教員は、震えた声で言った。
「わかりました。いますぐそちらに向かいます。白石君には誰も近づかないようにさせてください」
そう言って電話を切ると、朝比奈は学校へと急いだ。
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「君島の死体、見つかったみたいだね。ニュースでやってたよ。あとさ、谷津の遺体だけど、まだ全部見つかんないの?」
教室に入ると、白石がニヤニヤしながら聞いてきた。
教室には白石以外に誰もいなかった。
教師と他の生徒は別の教室に避難しているらしい。
閑散とした教室の真ん中で、白石は机の上に腰をかけていた。
朝比奈は教卓にカバンを置く。
「谷津くんに関しては、まだ全ては見つかってないようです。昨日の時点で44箇所の遺体が発見されました。
おそらく、各都道府県に配置されているのでしょうから、残りはあと3つということになりますね」
「へえ、思ったより早いね。優秀じゃん」
「ほとんどが目立つ場所にありましたから。テーマパークや観光地、有名スポットなど。わかりやすくて助かりました」
白石はふん、と鼻で笑う。
朝比奈は意味深に微笑む。
「でも、不思議ですよね。何故、わざわざすべて目立つ場所に置いたのでしょう? せっかくの宝探しです。もっとわかりづらい場所に置けばいいのに、何故か全て目立つ場所。少し、疑問でした」
「バカ向けにゲームを設定したんだよ。下手な所に隠したらいつまでも見つからないだろ?」
白石はもっともらしいことを言う。
しかし、朝比奈はそれを否定した。
「いいえ。それは嘘でしょう。
それが本当なら、新宿で見つかった遺体は筋が通りません。あの公園は、人通りの少ない場所にある小さな公園でした。人気がなく、あそこで子供が遊ぶ姿など見たことがありません」
昨日、あの場所で遺体が見つかったのは、たまたま公衆トイレを借りようとした人がいたからだ。
それがなければ、おそらくは今もあの遺体は見つかっていないだろう。
「では、何故、新宿の遺体はわかりづらい場所に置いてあったのでしょうか?
これについては答えが出ています。
新宿は『あなたの住む街』だからです」
朝比奈の言葉に対して、白石は鼻で笑う。
「何言ってんの? なんで俺が住んでる街だと、遺体を隠さなきゃならないわけ? 意味分かんない」
「逆です。
隠さなきゃいけないのではなく、隠せた。あなたがよく知っている街だからこそ遺体を隠すことができたんです。
しかし、それ以外は隠すことができなかった。どうしても、目立つスポットになってしまったんです」
「なんでそう言い切れるんだよ」
「だって、遺体の見つかってない都道府県って、どこだかわかりますか?」
「知らない」
「大阪と沖縄。あとは茨城です」
「それがどうしたっていうんだよ」
「この3つ、実は共通点があるんです。
それがなんだかわかりますか?」
「だから、知らねえよ」
「大阪と沖縄はわかりやすいですよね。ここはどちらも修学旅行で人気があります。白石くんも、もちろん行かれましたよね、修学旅行。ちなみにどこに行かれましたか?」
白石は答えない。朝比奈は首をかしげながら、代わりに答えた。
「中学は大阪。高校は沖縄。違いますか?」
白石は、返事もしない。朝比奈は構わず続ける。
「そして茨城ですが、こちらは白石くんのお父さんの実家があるそうですね。
夏休みや年末年始にはよく帰るのではありませんか?」
「何が言いてえの?」
「新宿、大阪、沖縄、茨城。この4つはあなたにとって馴染みのある土地だと言いたいのです。
そして、このうちの新宿以外の場所に関しては、まだ遺体が見つかってない。恐らく、うまく遺体を隠したのでしょう。
反対に、他の都道府県ではすぐに遺体は見つかってしまった。これは、一体どういうことか。
恐らくあなたの能力は、高速移動能力者ほど自由に動きまわることはできないのではないでしょうか? そのために、馴染みのない都道府県ではうまく遺体を隠せなかった。違いますか?」
言葉を紡ぎながらも、白石から沸々と怒りの感情が沸き上がるのを朝比奈は感じていた。
白石は朝比奈を睨みながら机から立ち上がり、目の前にあった椅子を力任せに蹴った。蹴られた椅子は机にぶつかり、激しい音を立てる。
朝比奈は冷めた目で、その様子を見ていた。
「その話、飽きた。別の話してくんない?」
白石は首の骨を鳴らしながら、教室の後ろへと移動する。
今度はロッカーの上に腰をかけた。
朝比奈は、穏やかに微笑む。
「そうですね。では次の事件の話をしましょうか。この教室で起きた、桐山くんの事件です」
白石はニンマリと笑う。
「あれ、面白かったでしょ?
教室が水浸しになっちゃってさあ。
桐山の死顔、まぬけだったよねぇ。
口をあんぐりと、大きく開けてて」
くふふ。白石はそう笑う。
朝比奈は微笑みながらも、その目は蔑むようだった。
「確かに、ユニークな殺人でした。
しかし、この事件があなたの最大の失敗でもあります」
白石から、すっと笑みが消える。
「なんでそんなこと言うの? 冷めるなあ」
「白石くん。
あなたはあの犯行を行ったとき、一体どこに姿を消していたんですか?」
「……何? それいま関係あるの?」
「あります。そこが重要なんです。
あなたは、彼の口から水を吐き出させ、溺れ殺すことができた。
これは分かりました。しかし、何故あのとき、あなたは私たちの目の前にいなかったのですか? もしかして、ここにいてはその殺人を実行できなかったのでは?」
白石は黙る。
「では、あなたはあの時どこにいたのか。
当ててあげましょう。
あなたはあの時、海にいた。違いますか?
そして海水を、桐山くんの口、いや、内蔵のあたりにテレポートさせたのです。そうやって、水を吐き出させているように見せた」
朝比奈は微笑みながら、白石にとどめの一言を言い放つ。
「つまり、あなたの能力はテレポーターですよね?
空間や距離を無視して、物や人、あるいは自分自身を転送させることができる。
そう考えれば、全て辻褄が合います」
最初のバラバラ殺人は、かなりの時間を有したと思われる。なにせ遺体を47部分に切り分けたのだ。その上、遺体を47か所にばら撒くとなれば、すぐに夜明けはきてしまうだろう。
そのため、白石は時間短縮をするために、遺体を置く場所には自らをテレポートせず、旅行情報誌を見るか、あるいはネットで調べて、適当な場所に遺体の一部分の方をテレポートさせたのだ。
そのせいで、詳しくない土地には、目立つ場所に遺体が置かれてしまった。
冷凍庫に入れられていた君島の遺体についても、テレポートができるのなら話は簡単だ。
100キロを超える冷凍庫も、テレポートなら一瞬で運べるだろう。冷凍庫の入り口を塞いでも、能力を使えば、その中に人を入れることは容易い。なにせ、空間をジャンプできるのだから。
朝比奈は、深く息を吐いて言った。
「――――さて、長々とお膳立てをしましたが、ここからが本題です」
朝比奈のその言葉に、白石は目を丸くした。




