↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの証明  作者: 0℃
1章 逮捕不可能な魔法使い
11/15

06.不可解な凍死体①

 朝比奈がそのイタリアンレストランに着いた時には、すでに何台ものパトカーが駐車場を埋めており、ものものしい雰囲気を醸しだしていた。


 イタリアンレストラン、ボーノ。全国展開している有名なチェーン店だ。低価格で満足いく味のイタリアンを提供している。朝比奈もよく通う店で、本格派なカルボナーラが特にお気に入りだった。


「俺、凍死体なんて初めて見ますよ」


 鹿上は厨房の業務用冷凍庫の前で、顔を引きつらせていた。


 鹿上の前にある業務用冷凍庫は、一般的な家庭用冷蔵庫を横に3つ並べたような大きさだった。色はシルバー。扉は4つあり、『田』の形に配置されている。扉はすべて右開きのものだ。


 ここで使われている冷凍庫、冷蔵庫はすべて同様の仕様らしく、同じものがすぐ横に1台、厨房までの通路に2台並んでいるのを朝比奈は目にしていた。


 ちなみに隣の冷凍庫には張り紙がしてあり、『使用禁止』と書かれていた。故障しているのだろうか。


「わたしも初めて。冬の東京では結構多いはずなんだけど、お目にかかる機会には恵まれなかったよ」


 朝比奈は手袋をはめながら、少し離れたところから扉を眺めていた。


 冷凍庫の扉には、谷津の遺体と同じようにマジックで大きく文字が書かれている。


『君島一也。加賀崎高校2年』


 あとは被害者の家の電話番号と、署への電話番号がその下に並んでいた。


 手袋をはめた朝比奈は冷凍庫に近づくと、おもむろに右下の扉を開ける。


 冷凍庫の中は意外と物が入っておらず、ある程度の空間がある。冷凍のポテト、袋に入ったパスタソース、肉、スープ。


 冷凍食材が並ぶ中、隅っこの方に黒のスウェットを着た男が、体育座りで縮こまっていた。他の刑事が見たところ、すでに彼の死亡は確認されている。


 君島《キミシマ》一也《カズヤ》。あの遺体が彼であることはほぼ間違いないらしい。


 厨房の入り口で、鈴井がうんざりしたように言う。


「君島の家に電話したところ、彼は昨夜、友人の家に出かけたきり帰ってきていないそうだ。まったく、今日は忙しくていやになるな」


 鹿上が現場についた時、すでにパトカーは到着しており、一係は現場検証を始めていたと言う。


 それを見た鹿上は何を遠慮したのか、律義にも朝比奈がくるのを端っこの方で待っていたそうだ。


 ――――生真面目なんだか、不真面目なんだか。


 それを聞いて朝比奈は実家で飼っている犬の『コーギー』を思い出した。


 犬種はミニチュアダックスフンドであるにもかかわらず、母親の独断で名前はコーギーにされてしまった可哀そうな愛犬だ。


 いつもカオルが家に帰ると、そのコーギーは自分の事を待っていたかのように、じっと大人しく玄関に座っている。カオルはそのコーギーを抱きしめて、その頭をわしゃわしゃと掻くのが好きだった。


 カオルはそれを思い出し、不覚にもその鹿上の行動を可愛らしいと思ってしまった。


「で、お前らは加賀崎高校の方に行ったんだろ? どうだった? 白石は怪しかったか?」


 鈴井が鋭い視線を向けてくる。

 朝比奈は、ため息混じりに言った。


「怪しいも何も。白石は私たちの目の前で同級生を殺しましたよ」


「なに? 聞いてないぞ、そんな話」


「ついさっきですからね。他の班がそちらに向かっているはずです。

 残念ながら白石には逃げられてしまいましたが」


 鈴井は腕を組み、大げさに息を吐く。


「何やってんだよ、朝比奈。

 どうして白石を撃たなかった?

 お前が奴を殺さなければ、被害者は増え続ける一方だぞ」


 ――――言うと思ったよ。


 朝比奈は彼の言動に辟易する。

 朝比奈は、鈴井のこういうところが好きになれなかった。


 合理的なのだろうが、倫理や道徳を軽んじる部分がある。

 その点は、鹿上にも共通する部分だ。


『事件を解決するためなら何をしてもいい』

 そういう思考を、朝比奈は理解できなかった。


 どんな人にも、過去がある。

 誰にも大切な思い出があって、そこには様々な想いがある。

 それを踏みにじるようなことは、したくなかった。


「わかってるだろ? 一度、魔法を使ったやつは攻撃的になる。魔法には快楽も依存性もあるんだぞ。

 お前は、危険極まりない奴を野に放ったんだ。自分のやったことを理解しろ」


 鹿上が、軽蔑するような目線を鈴井に向け、反論する。


「白石は『俺を撃っても無駄だ』って言ったんすよ」


「無駄だと?」


「ええ。

『俺は高速移動ができるから、銃弾なんて簡単に避けられる』って言ってました。だから撃たなかったんです」


「撃ってみなくちゃわからんだろ。

 奴の言ってることが嘘の可能性もある」


「周りには生徒がいたんすよ。

 避けられて他の子供に当たったら、それこそ最悪じゃないっすか」


 ――――嘘だ。


 朝比奈には、それがわかった。

 鹿上が銃を構えたのは応接室だったはず。

 周りに生徒なんていなかった。


 鈴井は負け惜しみのようにフンと鼻を鳴らす。


「まあいい。それで、白石はどうやって同級を殺したんだ?」


 そういわれて、朝比奈と鹿上は目を合わせた。


 ――――あれを、どう説明したものか。

 朝比奈は、ぽつぽつと説明しはじめた。


「……白石は、同級生に水を吐き出させたんです。

 それもバーって、すごい量で。

 床は水浸しになっちゃって。もう大変でした」


「……何言ってんだ、お前」


 鈴井は首を傾げる。朝比奈は頬を赤く染める。


 ――――だって、なんて言ったら伝わるのよ!


 鹿上が、朝比奈をかばう様に説明をする。


「要するに、生徒の口から水を吐かせ、溺れ殺したんですよ。

 地上で溺死させてやるって、白石は宣言してましたから」


 鈴井は、鹿上の言葉に片眉をピクリと上げた。


「待ってくれ。白石の能力は高速移動だろう? 水を口から出させたって、一体どうやったんだ?」


「白石は、『自分は複合能力者だ』って言ってたんすよ。

 だからまあ、『こういうこともできるぞ』って感じで、あんな殺し方を見せつけてきたんだと思います」


「複合能力者だと? ありえるのか、そんなこと」


 朝比奈はきっぱりと否定する。


「ありえないです。現在そのような感染者は報告されてません。彼は一つの能力しか使えないはずです」


「でも目の前で実際にやってみせたんだろ?

 口から水を吐き出させた。

 これは高速移動能力では実現できない技だ」


 彼の言うとおりだった。

 しかし、朝比奈はそこから、一つの答えを導き出していた。


「つまり、彼の能力は高速移動じゃなかったということです」


 朝比奈は言う。

 鈴井は目を丸くした。


「なんだと? じゃあ、一体何の能力者なんだ」


「それを、今調べているところです。

 この事件が大きな手がかりになりそうですね」


 朝比奈はそう言いながら冷凍庫の中を覗く。遺体は自らの膝に顏を埋めていて、表情を窺うことはできない。


 この店の店長の話では、この冷凍庫の庫内温度はマイナス25度に保たれているらしい。一晩入っていれば、間違いなく凍死する温度だ。


 庫内の壁はステンレス製だった。右の壁に、拳で殴ったような凹みがある。


 扉の内側を見てみれば、そこも同様だった。何度も何度も殴ったような痕跡が残されていた。恐らく、被害者が脱出しようとしてやったのだろう。しかし、それは叶わなかったようだ。


 ――――いや。そもそもこれ、どうやって中に閉じ込められたんだ?


 朝比奈は首をかしげる。


「これ、おかしくないですか?

 なんで被害者は外に出れなかったんでしょう?」


「そこなんだよな」


 鈴井はあごに手をやり、考え込むような仕草をみせた。


 ――――やっぱり鈴井さんも同じ疑問を抱いていたのか。


 鹿上が不思議そうに聞いてくる。


「え。なにがおかしいんすか?」


「いや、だって。冷凍庫に鍵が付いてるわけでもないでしょう?

 中に放り込まれたとしても、自力で扉は開けられたはず。

 なのに被害者は、なぜか外には出られなかった。不思議じゃない?」


 朝比奈がそう言うと、鹿上は勝ち誇ったように笑った。


「あれ? センパイ、知らないんすか?

 冷蔵庫って内側からは扉開かないんすよ?」


 朝比奈と鈴井は、鹿上をじっと見る。

 鹿上は二人の視線に気圧された。


「な、なんすか。

 え? もしかして、二人ともそんなことも知らなかったんすか?」


 鹿上はニヤニヤと笑う。

 二人は眉間にしわを寄せて言った。


「内側からでも開くぞ」

「内側からでも開くわよ」


 鈴井と朝比奈の声が重なった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。