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赤の竜―Dragon of Wrath―  作者: 枯田
猛る海原の赤の竜
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5話「女神と人と、そして戦略」

諒兵と智巳が、ライラやウィルフレッド、そして明の協力を得て中庭の片付けと修理を始めたころ。

『そもそもたるてちゃんがエキドナと出会ったのはいつごろなんですか?』

麗佳とメーちゃんが話し始めていた。

当然ともいえるメーちゃんの質問に対し、麗佳は一瞬目を閉じて思い出すような仕草を見せてから答えた。

「今からだと、三、四年前くらいです。もともと先生からカッパドキアの話を聞いていたんで、自分の足で行ってみたんですよ」

『そうすると、近くまでいって、存在を感知したというところでしょうかね?』

「はい」

麗佳は、まだ病床にあったころ、丈太郎からトルコのカッパドキアの話を聞いていた。

いずれは行ってみたいと思っていた。

だが、龍機兵になってしまったことで、丈太郎たちと一緒に行くことは無理だろうと思い、自分一人で赴いたのだ。

その際、近くに自分と同じような威圧があるのを感知したのだ。

「それでエキドナを見たんですけれど、そのときエキドナの願いを感じ取ったんです」

『感じ取った?』

「はい。『竜の血』を創った者としての願いですね。だから、そのときにエキドナの考えを漠然とは理解しました。直接会話することはできませんでしたけれど」

『そう、でしょうね。私の石化は簡単には解けません。ただ……』

「ただ?」

『竜の血が撒かれ、広まっていくうちにあの子に影響を与えていたんでしょうね』

最初の一匹から『竜の血』が自然界に広まっていくうちに、エキドナの中の『竜の血』も活性化していったのだろうとメーちゃんは推測を述べる。

だから、麗佳はエキドナの願いを感じ取ることができたのだ。

つまり麗佳が出会ったときには、エキドナの復活は進んでいたということができる。

そして、最終的にエキドナは自力で石化を解いたのだろうとメーちゃんは説明する。

「そうなんですね。だからエキドナは私に会いに来れたんだわ」

『あの子の方からですか?』

「はい。次に会ったのは大襲撃から半年くらい後です。そのころ、私たちはアメリカに足止めされていましたから」

大襲撃によって外国に行くこと自体が難しくなってしまった。

麗佳もその例に漏れなかった。

ただ、麗佳としては、あのとき見た女の龍機兵の石像はどうなっているのだろうと何となく考えていたくらいだったのだが、その本人がアメリカまでやってきたのである。

「穴を掘って」

『穴を掘って』

苦笑いする麗佳に対し、メーちゃんも苦笑いを返す。

エキドナ自身、目立つことは避けるべきだと考えたらしく、カッパドキアから地道に穴を掘って麗佳のところまでやってきたのだという。

『エキドナにとって一番感知しやすかったのが、魔王種であるあなたなんでしょうね。半年前だと諒兵や他の子もまだ人間でしたし』

「なるほど。そう考えれば私が一番わかりやすかったんですね。でも驚きました。まさか動けるようになってるなんて思っていませんでしたし」

『まあ、そうでしょうねえ』

麗佳が当時のことを思い返しながら微笑むと、メーちゃんは再び苦笑いを見せた。

石像のままだろうと思っていた存在が、動いて、しかも自分のところまでやってきたのだから、当たり前といえば当たり前の話である。

「幸い、地下シェルターには余裕がありましたから、やってきたエキドナを匿うために一つを神殿にしたんです」

『神殿ですか?』

「地母神として伝わってますから。立派な神殿になりましたよ。普通の人はキッチンとパントリーと呼ぶでしょうけれど」

『ああ、納得しました』

麗佳が少しばかり遠い目で真実を伝えると、メーちゃんはうんうんと肯いた。

どうやらエキドナの甘党で食いしん坊は昔っから変わらなかったらしい。

「そうして匿いながら、エキドナと良く話すようにしましたよ。ただ、あなたのことはなかなか話してくれませんでしたが」

『エキドナは悩んでいたんでしょうね……』

メーちゃんの存在は、竜の存在を語る上で欠かせない。

だが、エキドナにとってメーぢゃんは大事な姉なのだ。

だから、悪役にはしたくなかったのだろう。

どう説明するかをずっと悩んでいたに違いないとメーちゃんは言う。

「そうだったんでしょうね。あなたはエキドナに『敵』の存在を伝えなかった。もし、知っていたらエキドナがあなたと敵対するはずがないもの」

『はい』

「では、何故?」

『エキドナのスポンサーだったんです。『騙る者』は』

「えっ?」

『エキドナが『竜の血』を創る上で欠かせないスポンサーだったんです。もっとも、あの者が『竜の血』に期待したのは、自然を支配できるほどの力を持つ強力な兵器であることだったんですが』

エキドナの願いは、人がより自然に近づくことだった。

だが、『騙る者』の本意は人が自然を支配することだった。

まったくの逆だ。

しかし、『騙る者』は自分の意を遂げる上で、人という種が、より自然に近づくためにあるはずの『竜』の存在が利用できると考えた。

『だから、エキドナに協力していたんですよ』

「それがエキドナに言えなかった理由だったんですか……」

協力者の本意についてエキドナは疑えなかった。

疑うという考え自体が出てこないような純粋な心を持っていたからだ。

結果として、メーちゃんは歪まされてしまった『竜の血』を何とか矯正するべく竜の意識を抑制する装置である『ヘカティー』を創ったが、それを奪われてしまう。

『手詰まりだったんです。もう『竜』そのものを破壊する以外に道がなかった』

「だから、あなたは自分で『竜の血』を呑み、そして『白い火』を生みだした……」

『そういうことです』

姉妹の仲を最悪の形で引き裂いたと言えるような『騙る者』に対し、麗佳は怒りを覚える。

だが、それだけではダメだ。

今、一番知っておくべきことは、古より生きてきた三人の神のうちの最後の一人とも言えるメーちゃんが、人に何を求めているかということだからだ。

実のところ、『騙る者』の考えは間違いではない。

ある程度は自然を制していかなければ災害によって人が死ぬ。

生きていくために環境を変えていくこと自体は、まったくの間違いでもないからだ。

この点で見れば『騙る者』は悪だとは言い切れない。

いや、善人と言ってもいいかもしれないのだ。

逆に、エキドナは環境に適応することを考え、その考えを『竜』を生み出すというかたちで人々に強制した。

だが、適応できなかった人は命を落とした。

死は大半の人々が望まない最悪の結果だ。

この点で考えればエキドナはれっきとした悪人でもある。

エキドナにしても『騙る者』にしても、考えは決して間違ってはいないのだが、やり方が極端すぎるのだ。

そうなると、最後の一人ともいえるメーちゃんが何を考えているのか、人にどんな結果を齎すのか、知っておく必要があるのは当然だろう。

少なくとも、最強クラスの力を持っていることは間違いないのだから。

だが、メーちゃんはしれっと答えるだけだった。

『私は怪物ですよ。神さまではありません』

「何の考えもないんですか?」

『はい。全ては河を流れる落ち葉のようであればいい。私は自然に近づく気も自然を制する気もありません。結局、人は人以外の何者にも成れませんから』

達観していると麗佳は思う。

メーちゃんの考えはある種の諦めを含んでいる。

悪い言い方をすれば、未来に希望を持っていないのだ。

今を何とかして、後のことは考えない。

エキドナが悲しいと表した兵器の在り方に近いのだ。

「あなたは、根本的なところではエキドナや『騙る者』と相容れないんですね……」

『そうですね。私は誰とも相容れないのかもしれません』

「ただ、その在り方こそ神だと私には思えますけれど」

『青竜の彼にも似たようなことを言われました。私はとてもそう思えないんですけどねえ』

本人が一番自分という存在を理解していないのではないか。

麗佳はそんなことを考える。

そう考えさせられてしまうような存在、それがメーちゃんだった。



麗佳がメーちゃんとエキドナの話で盛り上がっているころ、食堂では。

「はぁ~……」

阿由が冬子や鈴、凛那の手際に感心していた。

少し傷み始めていた食材の悪い部分は切り取り、使える部分をどんどん加工していく。

野菜や魚が美味しそうな材料に変わっていく姿は、まるで魔法のようだ。

エプロンとメイド姿の魔法使い。

実のところ、本当の意味での魔法とはそういったものなのかもしれない。

魔法とは奇跡を起こしたり、戦ったりするためのものではないと思わされるような、綺麗でカッコいい姿だった。

「りんおねえちゃん、私も料理覚えたい」

「えっ、どして?」

「何か楽しそう♪」

阿由の言葉に対し、そう見えたのだろうかと思う鈴だったが、思い返してみれば、鈴は料理は嫌いではない。

美味しく食べてくれる人がいると料理は楽しいものなのである。

阿由としては、それを見て料理に興味を覚えたのだろう。

悪いことではないが、教えていいものだろうかと思う。

すると、凛那が口を挟んできた。

「いーじゃん、いーじゃん、いきなり包丁は厳しいけど、練習させたげれば?」

「朝陽さん?」

「凛那でいーよん。それよりあゆっちがせっかく興味持ってるんだし、いーことなんじゃん?ちゃんと見ながらやらせてけばケガも少ないでしょ」

「私たち出るときあるよ?」

「本気で教えるんなら、アタシが危ないことはさせないよ」

そう言って冬子まで凛那に同調してくる。

まあ、厨房を預かっている冬子がしっかり見ていてくれるというのであれば、出るとき、つまり鈴が前線に出ていても怪我をしたりすることは少ないだろう。

鈴としても、せっかく料理を覚えたいという阿由の気持ちを無視はしたくない。

「ムチャはしないこと。で、私や冬子さんが『いい』って言うまで、次の段階に挑戦はしないこと。守れる?」

「次の段階って?」

「頑張り屋さんは、けっこう新しいことができるようにがんばっちゃうの。でも、包丁や火を使ってたりすると、うっかりミスが大きな事故になるからね」

ゆえに、しっかり練習してからでなければ、次の段階に進ませることは出来ないと鈴はいう。

チャレンジ精神は大事なのだが、無謀な挑戦は大きな事故につながる可能性もあるのだ。

不用意にやっていいこととは言い切れない。

「興味を持ってくれたなら、教えてあげる。でも、一人で勝手にはやらないこと。いい?」

「わかったっ!」

「うんっ、ありがとね阿由ちゃん。冬子さん、ペティナイフあります?後でお金出しますから」

「一本くらい大丈夫さね。その子に合ったサイズのでいいのかい?」

「はい」

そう答えると、冬子は阿由の手に合ったサイズで、刃先がケースに入っているペティナイフを持ってくる。

それを見た阿由が一言。

「ちっちゃい」

ペティナイフはかなり小振りな包丁なので、ある意味子ども向けにも見えるのだろう、少々不満そうだ。

だが、そんな阿由の気持ちを鈴は否定してきた。

「私も最初はコレで料理を覚えたの。ちっちゃくてもかなり切れて、相当に使える包丁だからね?」

実は料理初心者が最初に覚える包丁としてかなり優秀なのがペティナイフである。

とても大きなものを切ったり、大量に食材を切ったりすることには向いていないが、メンテナンスが楽で取り回しやすく、十分な切れ味があるため、初心者が包丁の扱いを覚えるにはベストな道具だと言える。

「ペティは私も最初のを大事に持ってるなー。やっぱ慣れてるし」

「私も。最初の包丁だから捨てられないんだよね。一人分の料理ならたまに使うかな」

「アタシゃ最初のは引越しの際に失くしちまったねえ。新しいの買ったけど」

「みんな持ってるの?」

凛那、鈴、冬子の順にそう言うのを聞くと、阿由は渡されたペティナイフに視線を落とす。

さっきまでと違い、子ども向けではなく万能の道具に見えてきた。

「その子は今から阿由ちゃんが料理を作るときのパートナーになるの。手入れの仕方とかも教えるから大事にしてあげて」

「うんっ!」

「使い方を間違えると傷つけちゃうからね。正しい使い方、仕舞い方を覚えれば大丈夫だから」

「大事に、正しく?」

「そ。大事に、正しく。どんなことも一緒なの」

それは全てに共通する意識だと言えるだろう。

自分の持つものを大事にし、そして正しく使う。

たったそれだけかもしれないが、それこそが力を持つということの第一歩だと言える。

それが料理であっても、力を持つということに代わりはない。

阿由は今、力を持つ者としての第一歩を踏み出したのだ。

「がんばろうねっ!」

「うんっ!ありがとっ、りんおねえちゃんっ!」

そう言ってキラキラした目で阿由はペティナイフをぎゅっと握り締めるのだった。



その日の夜。

龍機兵たちは会議室に集まって今後の戦略について話し合っていた。

「要するに、僕たちが前線に出て戦うだけではないと?」

「一番気にしてほしいのは、あえて目立つことなんです。竜を倒し、人を護る者として」

誠吾が確認のためにそう尋ねると、明はそう答えた。

ただ単に戦うだけではダメなのだ。

人を守るためにというところを戦いながら協調する必要があるということである。

だが、戦場に一般人がくること自体がほとんどない。

そうなると目立つも何もあったものではない。

その点に対し、麗佳が説明してきた。

「遠目に見ても戦ってくれているということが伝わればいいのよ。古竜や野良の伝承竜が防衛線までやってきたということ自体は、民間にも伝達するから」

「ハデにれってことか」と、諒兵。

「そういうこと。自然現象系の能力を持ってる人は思いきり使ってほしいし、リーヴィス隊長には大きな水柱が上がるくらい全力で力を振るってほしいわね」

「No problem、全力で戦うことに異論はないさ」

戦い方自体には実のところ問題はないというか、バトルジャンキー共にとってはありがたいお言葉である。

この策が上手くいくかどうかを、その点のみで考えるならば、成功の確率は高い。

だが、たった一つ、しかし大きな問題点があることを誠吾が指摘してきた。

「……すみません。其処までは考えていませんでした」

「いや、僕も少し引っかかっていただけだからね。気にしなくていいよ。でも、無視できることではないと思う」

「確かにな」と、義隆が呟くと、ロドニーやバーナードも肯いた。

麗佳は困ったような表情を見せてくる。

誠吾の指摘とは。

「半竜体の龍機兵たちか……」

ライラがそう呟く。

誠吾が指摘してきたのは、操られているはずの半竜体の龍機兵たちのことだ。

つまり、外見上人間体の部分が残っている者たちである。

彼らと戦うと竜から人間を護るどころか、龍機兵同士の争いに見えてしまうのだ。

そういわれて、今まで外国を回っていた者たちが記憶を掘り返す。

「でも、そう言えば私たち外国回ってたとき、半竜体の人たちはあんまり見てないよ?」

「広利城塞で防衛していたときもそうでしたね」

「あたいも見とらんのう。成竜体の古竜ばかりじゃったし」

思い返すと、たいていが古竜ではあったが、皆が竜の姿をしていた。

半竜体の者たちの姿を見た覚えがほとんどないのだ。

唯一、半竜体であったのは『神の供物』たちくらいである。

『操りにくいのでしょうね』

そう言ってきたのはメーちゃんだった。

「どういうことです?」

『現状、成竜体になれないということは竜の力を受け入れきってないんです。人の意思が強く残っているために完全には操れないんでしょう』

意外な説明に誰もが言葉を失った。

だが、メーちゃんはさらに語る。

半竜体の人間が、訓練を経て成竜体になるのは同時に意識が竜の力を受け入れているからだという。

つまり、精神的には竜に近いものがあるのだ。

だが、半竜体のままの龍機兵は精神的に人に近く、竜の力を拒んでいる面がある。

その拒否する意識が、竜を操る『ヘカティー』の力をも拒んでいるのだという。

「龍機兵として竜の力を使いこなすほど、竜に近づくというわけか。皮肉だな」

『でしょうね。ただ、そこから伝承竜の力を得るということは、人の意識で竜を抑え込んだということになるんです』

ゆえに、伝承竜の力を得るまでに至った者は、『ヘカティー』の力を弾くことができているのだ。

『竜の力を得た人が、竜の力を扱える人になり、そして竜の力を従える人になる。龍機兵の成長とはそういう流れです。ですから、成竜体になった人たちは手に入れた竜の力から操られてしまっている』

「逆に半竜体の人たちは、竜の力自体を拒んでいるから完全には操れない。だとすると今はどんな状態なのでしょう?」

『おそらく、行動を制限されているはずです。成長させて古竜にしてしまえば操れるはずですから』

麗佳の問いに対し、メーちゃんはそう答えた。

つまり、集結する中に半竜体の龍機兵を見かけないのは、『騙る者』でも操りきれないため、下手な行動をさせないようにさせているということだ。

「そうなると、戦場には出てこねえのか?」

「いや、『敵』なら出してくるだろうね」

「どういうことだ?」

諒兵の言葉にそう答えた誠吾に対し、真が問いかける。

さすがに年若い他の者たちは誠吾の言葉の真意を掴みかねているらしいが、それなりに年をとった者たちは理解できていた。

「セイゴ殿が言いたいのは、某らが人を護るという行動を取った場合、その対抗手段として戦場に半竜体の龍機兵を送り込んでくるだろうということですな。そして戦いになれば人は混乱するでしょうぞ」

「有り得るのう……、彼奴らはわしらが人に受け入れられては困るはずじゃ」

「なるほど……」

そう呟きながら、麗佳は思案する。

そして、実は明が前線に出てほしいといった存在が、この問題に対して効果があると気づいた。

(鈴さんだけじゃない。私たち女の龍機兵全員が鍵になる……)

今のところ、女の龍機兵は皆が『騙る者』の敵に回っている。

向こうにいった者はいない。

そして、見てくれを考えても女の龍機兵は一般人に受け入れられやすい。

鈴のみではなく、前線に出る全員が一般人との接触において前面に出る必要があるということだ。

「ミス・レイカ?」

「半竜体の龍機兵がでてきた場合、基本的に全て私たちが相手をするわ」

「えっ?」と、驚きの声を上げたのは発案者の明だった。

「前線に出る予定である私と智巳、そしてライラさんと鈴さんで半竜体の龍機兵を相手にするのよ。もちろん、できるだけ傷つけないように抑えるつもりよ」

「何故だ?」とライラ。

「普通の人にとって、どっちのほうが見た目がいいかって問題に摩り替えるのよ。自慢するわけではないけれど、たぶん私たちのほうが共感を得られるわ」

明は鈴に広告塔になってほしいといった。

明自身はできればというつもりだったのだが、むしろ女の龍機兵全員で広告塔になるべきだと麗佳は考える。

そうすることで、こちら側の男の龍機兵を世論から護ることができるのだ。

「前線に出る男の人たちには好きに戦ってほしいのよ。そのための壁になろうと思うの」

「メンドい」

「智巳、わがまま言わないで。戦うなと言ってるわけじゃないんだから」

「私はいいよ。みんなが戦いやすくなるんでしょ?」

「ええ。そのための壁よ」

「まあ、そういうことであれば任せてもらおう」

と、前線に出るもの全員が賛同したことで、麗佳の案が採択となる。

「さすがですね。其処までは考え付きませんでした」

「元はあなたの発案でしょう。より細かく詰めただけよ」

苦笑いする明に、麗佳はクスリと笑う。

実際、明の発案は間違いではない。

今後のことを考えてもこちらから行動していかないと身動きが取れなくなるのだから、行動するべきなのだ。

麗佳はあくまで補足しただけである。

「あのよ」

「どうしたの諒兵くん?」

「結局、俺たちゃ暴れていいのか?」

どうやら途中からついていけなくなったらしく、諒兵はそう尋ねてきた。

麗佳は少しだけこめかみを押さえつつ、呟くように答える。

「思いっきり暴れてちょうだい」

「おう、そんならわかりやすくていい」

元気な答えに少しだけ不安になった麗佳である。

『苦労しますね、たるてちゃん』

「そう言ってくれると癒されます……」

メーちゃんの労いに、疲れた様子でそう答えるだけだった。






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