18話余話「『神の供物』とその男」
日本、某居住区。
竜を防ぐ防壁とドームに囲まれたその場所の、ある建物の執務室の中で、一人の男性が窓の外を見つめていた。
傍らには秘書然とした男性が立ち、何事か報告を続けている。
「……公務に関する報告は以上です」
「感謝する」
「後、竜の動向に関する報告です」
「お願いしよう」
「やはり、日本国内に竜が集まりつつあることから、居住区内の住民から不安の声が上がっています」
竜が集結するようになってから、住民の被害は出ていない。
だが、それでも世界中から竜が集まってくるというだけでも、人が不安になるのは当然だった。
「何体かの伝承竜も確認されています。対処はどうなさいますか?」
「被害はないのだろう?」
「はい」
「竜はいったん置いておきたまえ。それよりも東堂家の居住区の龍機兵たちはどうしている?」
「今のところ、目立った行動はしていません。ただ、東堂会長がアメリカと交渉していた際、U・S・ドラグナーの隊長が同席していたようです」
アメリカからの報告によれば、今後も龍機兵は竜から人を守るための存在であり続けるため、これまで同様の扱いを求めているという。
さすがに各国に援助をしている東堂財閥の現会長の東堂政国を相手に、突っぱねることはできなかったらしく、アメリカは要求を呑んだという。
その報告を聞いた男性は小さくため息をついた。
「話は変わるが、君はこの世界をどう思うかね?」
「はい?」
「竜が闊歩するこの世界を、どう思うかね?」
「……恐ろしい世界になってしまったものだと思います」
その言葉に、男性は背を向けたまま、意を得たりといった様子で肯いた。
「まったくだ。この世界は、この星は、人間が何者をも恐れず生を謳歌できる素晴らしい世界であるべきだ」
「そうあれば、どれほど良いことでしょう」
「希望を捨ててはいかんよ。少しでも可能性があるならば、追い求めるのが人間というものだ」
男性の言葉には教え諭すような響きがある。
そのせいか、秘書は思わず肯いてしまう。
「少しずつではあるが人間は前に進んでいる。竜を恐れて縮こまり続ける必要がなくなる世界が来る」
「前に……」
「その先に至れば数多の天災も恐るるに足らん。我は……、我々人間は、この星の支配者になれるのだよ」
其処まで言って、男性は何かに気づいたような素振りを見せた。
「少し席を外してくれたまえ。考えねばならんことができたようだ」
「わかりました。失礼します」
そう答えた秘書が執務室を後にした数分後。
窓から部屋の中に三本の黄色い光が差し込み、人の形を成した。
そのうちの一体が男性に対して声をかけてくる。
「主よ。我ら『神の供物』、御許に揃いましてございます」
「此度は良く働いてくれた。まずは休息を取りたまえ。その後、魔王種の戦闘データに関してまとめておいてほしい」
「ご随意に」
そう答え、現れたとき同様に三対の人の形をしたモノたちは消え去る。
「エキドナと五人の龍機兵の命を奪いきれなかったか。やはり『赤の竜』が復活しただけではなく、『奴』が何らかの形で動いているのだな……」
男性は虚空を睨みながら、そんなことを呟いていた。




