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赤の竜―Dragon of Wrath―  作者: 枯田
荒ぶる刻の赤の竜
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2話「教授と少年と少女たちと『惑乱の根』」

ロシア連邦、ノヴォシビルスク近郊。

諒兵、鈴、ライラ、麗佳の四人は北の大地に降り立った。

眼前には永久凍土と呼ばれるツンドラ地帯を見ることができる。

「便利というより怖いわね、この移動能力」

「使えるもんは使うだけだ」

麗佳の感想に対し、諒兵は気にしていない様子でそう答える。

実際、諒兵は使えるから使っているだけで、別に使いたいと思ったわけではない。

目的はロシアに来ることなのだから、その方法は別になんだってかまわなかった。

話を先に進めるべく、鈴がライラに尋ねかける。

「基地は近いの?」

「ロシアはもともと街だったノヴォシビルスク居住区そのものが龍機兵の基地になっている。つまりあれがそうだ」

眼前に見えるドーム型の居住区。

其処の一部で火の手が上がっているのが見える。

今まさに、ロシアでローベルトが保護していた魔王種だという少女が暴れているのだろう。

『感じますね。『惑乱の根』ですよ』

「急ぎましょう。此処からなら飛んで行けるわ」

麗佳の指示に肯いたほかのメンバーは一気に翼を開いて飛び立った。

先ほどまでアメリカにいた諒兵たちは、今後の行動指針が決まってすぐに行動を開始した。

諒兵が日本の東堂家直轄区の近くに孔を開けると、智巳と凛那、そしてウィルフレッドとロドニーが、石化した丈太郎、アラステア、エキドナを連れて移動。

向こうが移動を完了したことを確認してから、今度はロシアにある龍機兵の基地『グァリ・エィビティ・ドラコン』、通称『山脈』に付近に孔を開け、移動してきたのだ。

とにかくのんびりしている時間がない。

特にロシアは魔王種の力を持つ少女が暴れているという。

ゆえに、ローベルトの保護、すなわち石化と少女を止めることを同時に行うために移動してきたのである。

ローベルトに関しては、できれば石化直後に日本に運ぶつもりだった。

そのため、先に東堂家直轄区に行ったメンバーが事情を説明。

麗佳が記憶している直轄区の屋敷内で、孔を開けても問題ない場所に孔を開ける予定である。

いずれにしても、まずはローベルトの保護が最優先だった。

近くまで来ると、中から竜の鳴き声と破壊音がはっきりと聞こえてくる。

既に激戦になっているらしい。

此処にいるはずの魔王種の少女は完全に逆上していると判断できる。

「麗佳さん」と鈴が問いかけると麗佳は即答した。

「おじ様の保護を優先します。メーちゃんさん」

『はい、何でしょう?』

「先ほどのように諒兵くんから離れることは可能ですか?」

『不可能ではありませんよ。誰かに一緒にいてもらう必要はありますが』

どうやら、龍玉さえあれば間借りは出来るらしい。

ただ、相性がいいのは魔王種だという。

もともとが『赤の竜』を生みだしたウィルス『白い火』を開発した存在だ。

近い性質を持つ龍機兵のほうが間借りしやすいらしい。

『さっきは緊急事態でしたが、できればたるてちゃんには一緒いてほしいですね。私の疲労が少ないので』

そう答えたメーちゃんの言葉を否定するかのように、ライラが意見してきた。

「いや、先ほどより人数が少ない。部隊を分けるのは危険だ。此処には『ベヘモト』がまだいるはずだからな」

「確かに、各個撃破される危険があるわね」と、麗佳も肯く。

古竜ならまだ何とかなる可能性があるが、『ベヘモト』は敵側でも強力な存在だ。

しかも、此処にいるメンバーで会ったことがある者が一人もいない。

相手の力量がわからなければ、やられてしまう可能性もある。

「なら、全員でローベルトさんのところに行こうっ!」

そう断言した鈴の言葉に対し、諒兵が口を挟んできた。

「俺もか?」

「「「単独行動禁止っ!」」」

一番の問題児の意見はあっさり否定されるのだった。



居住区内に入ってすぐ、鈴がドラゴン・フェイスを起動。

操られている古竜の群れと他に伝承竜がいるかを確認する。

「レクターさんと似たようなのと、麗佳さんと似たようなの。あともう一人……、うん、蛮兄に似た感じの威圧がある」

「先生に似ている威圧がおじ様のはずです。距離は?」

「一番近いかな。ライラ、情報送るけど、この居住区内で位置わかる?」

「任せておけ。対象がいる方角と位置の特定は私の得意分野だ」

さすがにその言葉に嘘はなく、街の上を三十秒飛んだだけであっさりと位置を特定。

はっきり言えばローベルトを見つけ出した。

路地の隅で腹を押さえて倒れていたのだ。

「おじ様ッ!」

麗佳が必死になって駆け寄ると、倒れていた大柄なロシア人であり、ドラコン・アールミヤの総責任者であるローベルト・クレンコフはゆっくりと目を開けた。

「おお……、久しぶりだなあ、嬢ちゃん……」

「おじ様、会いにいかなくて申し訳ありませんでした……」

「……一人で、頑張ってたんだってなあ。力になれなくて、悪かったなあ……」

「そんな、今こうしていられるのはおじ様たちのおかげです」

「そう言ってくれて嬉しいぞ……」

直後、ローベルトは顔を顰めた。

ウィルスによって身体が破壊されていっているのだ。

痛みがないはずがない。

『すぐに石化します。まずゴルィニシチェの人を運びましょう』

「お願いします、メーちゃんさん」

麗佳がそう呼びかけると、ローベルトは何かに気づいたように呟いた。

「……あーなるほどな。お前さんはアレなのか」

『えっ?』

「考えてみりゃあ……、死者を守るって伝承もあったなあ……。ある意味じゃあ、最強の地母伝承だなあ……」

『わかるんですか?』

「知識は、バンの専売じゃあねえよ……」

まさか正体を見破られるとは思わなかったのだろうか。

さすがにメーちゃんも驚きを隠せない。

「おじ様……」と、麗佳も驚いた様子で呟く。

ローベルトは弱々しく笑うと、言葉を続けた。

「……知識も、力も、こういうときのために鍛えてたんだがなあ……、情けねえ……」

「休んどけ、おっさん」

「……坊主……」

「兄貴もあんたらも五年前からずっと戦ってきたんだろ。少し休んどけよ。後は何とかするさ」

諒兵の言葉を聞いたローベルトは、フッと優しく笑う。

その言葉で、ローベルトは諒兵のことを理解できたらしい。

「……任せるぞ、坊主。それに嬢ちゃんたち」

「任せろよ。おっさんが起きるまでに全部終わらせてやる」

諒兵がそう答えると、鈴、ライラ、麗佳も励ますように強く肯いてみせる。

それを見て、ローベルトは再び笑った。

「今、暴れてんのはルリカ。フジナミルリカっつってな……、性格はダメダメだが悪い娘じゃあねえ。止めてやってくれ……」

「はい。私たちが必ず止めます」

全員を代表して麗佳がそう答えると、ローベルトは安心したように目を閉じる。

その姿を見た諒兵が、メーちゃんに声をかけた。

そして。

『今は、楽屋で待っていてください』

「カーテンコールまでには、起こしてくれや……」

その呟きを最後に、ローベルトは物言わぬ石と化した。

「先に移動させてほしいのだけれど」

「わかった」

肯いた諒兵がその場で孔を開けると、その先には安置されている丈太郎、アラステア、エキドナの姿があった。

寝ずの番をしていたのか、其処には誠吾の姿がある。

「交代で見張ってるんだ。『敵』は相当に油断ならないからね。蛮場博士たちを人質にとるくらいはやりかねない」

其処にいた理由を説明してくれた誠吾に、鈴がおずおずと声をかけた。

「井波さん、手伝ってくれます?」

「いいよ。あ、ちなみにウィルさんとロッドさんは今は休んでる。アメリカは激戦だったみたいだし」

わざわざ情報までくれた誠吾は、諒兵たちと共にローベルトの身体を担ぎ、そしてその場所にあるベッドに安置する。

「僕も手伝えればいいんだけど……」

「井波の旦那はこっち頼む。全員さっさと集めてくっからよ」

「頼むよ。でも、日野君の力は『どこ○もドア』みたいだね」

「……言わねえでくれ」

どうやら気にしているらしい諒兵だった。

「それと、アーキンさんから通信が来た」

「セイゴ隊長?」

「イギリスより先に中国に回ってほしいそうだよ」

イギリスはバーナードがいるおかげで何とかもたせることができるが、中国は九垓が育てていた魔王種が単独で戦っているという。

相手が古竜しかいないとはいえ、決して良い状況ではない。

また。

「中国には例の『神の供物』はいない。その分早く連れ帰ることができる」

「そうか。バトラーはそう考えたのか」

ライラが少し気落ちした様子で呟くと、誠吾は言葉を続けた。

「うん。イギリスはたぶん時間がかかるよ。こちらに余裕ができれば、僕らも同行できるしね」

誠吾の説明で、実は一番厄介なのはイギリスなのではないかと一同は思う。

だが、今はまずロシアを終わらせることだ。

「敵を倒すことを考えるよりも、ロシアの子を見つけて即座に離脱することも策の一つとして考えてほしい」

「わかりました。アドバイスありがとうございます。井波隊長」

深々と頭を下げてお礼の言葉を述べる麗佳に対し、誠吾は気さくに笑いかける。

「誠吾でいいよ、東堂さん。僕らは助けてもらってるんだし。それに、今の状況は僕らの未来を決めることにつながっている。僕は龍機兵の未来を諦めたくないからね」

「……エキドナが目覚めたら、きっとあなたとは仲良くなれると思います」

それは素直な感想だった。

実際、エキドナの願いに応えられるような考え方をしている誠吾は、彼女と仲良くなれるだろう。

そんな未来を掴むために、今、戦わなければならない。

ゆえに、其処から逃げようなんて気持ちは、其処にいる者たちの誰一人として持っていなかった。



孔が閉じるのを確認した一同は、再び鈴の策敵で今度は此処にいるはずの魔王種の少女の場所を特定する。

先ほど上空をとんだライラが、おおよその場所を覚えていたのだ。

「さっき街の上を飛んだときに、戦闘が行なわれている場所も確認した。移動しているとしても其処まで遠くにはいけないだろう」

鈴の策敵はその補足で十分だったのである。

ただ。

「……諒兵くん、『ベヘモト』が近くにいる場合、十分間だけ我慢してください」

「ガマン?」

「ミス・レイカ、ならば戦闘は……」

「ええ。私が出ます。鈴さんとライラさんにはその子を説得してもらって、諒兵くんの力で移動させてもらいたいの」

タイミングが悪いと屋敷内に『ベヘモト』を招き入れてしまうことになる。

そうなったら最悪の事態だ。

ゆえに、麗佳が前に出て『ベヘモト』を追い払うということになる。

その後、先ほどローベルトが名前を教えてくれた少女を移動させ、孔が閉じるのを確認したら『ベヘモト』に総力戦を仕掛ける。

ただし、必ず倒す必要はない。

「相手に十分なダメージを与えれば放置して中国に行くことができるわ。さすがに其処まで追っては来れないでしょうし」

「それができるとしたら、我々の敵、つまりは『騙る者』だけか」

「でも、此処にいるのは『ベヘモト』……」

麗佳の説明に対し、鈴とライラは納得したような表情を見せる。

それを見た麗佳は肯き、そして続けた。

「戦っている最中に『騙る者』がちょっかいを出してくる可能性はあるけれど、まずは眼前の敵を排除して次を目指しましょう」

「わかった」と、諒兵も肯く。

実は魔王種の少女をメーちゃんに石化させるという案も出たのだが、味方はともかく敵に対してメーちゃんが姿を見せると、それだけで『騙る者』が大きく動く可能性がある。

ゆえに彼女は諒兵の龍玉に隠れているということになった。



そして、四人は出会う。

古竜の大群を相手に単身大暴れする一人の少女に。

全身から金属でできた蛇を無数に生やし、怒りの形相で次々と倒していく少女に。


「出てくるのじゃパーヴェルッ、あたいがズタズタにしてやるのじゃァッ!」


どうやら『ベヘモト』の力を持つ者らしき名前を叫び、無数の蛇を操って古竜を蹂躙していく魔王種の少女の竜化しつつある姿を見る三人の少女は何も言い出せない。

より正確に言えば、少女の身体のある一点、『ぶるんぶるん♪』と揺れまくる豊かな胸を凝視してしまって何も言い出せなかった。


「「「…………」」」


黙って自分たちの持つなだらかな丘を見る鈴、ライラ、麗佳。

対して、少女の持つ山脈は激しい地震に揺れている。

『むうっ、あの子っ、私にケンカを売ってますねっ!』

(黙ってろ)

さすがに三人娘の醸し出す雰囲気に、諒兵も言葉を発しにくいらしく、脳内でのみ突っ込む。

「……あ、あの子が『惑乱の根』?」

「……あ、ああ。『堕落の化身』と呼ばれる存在のはずだ」

「……え、エキドナに聞いたことがあるけれど、『惑乱の根』は百八つの頭を持つヒュドラ型よ。間違いないわ」

全身から金属の蛇の頭を生やしている姿を考えるとまず間違いないと麗佳は説明する。

というか、あえてひたすら禁忌に触れないようにしている雰囲気が伝わってくる。

仕方ないので、諒兵が話を進めた。

「……『ベヘモト』は近くにゃあいねえみてえだな」

「そ、そね。急いで保護しちゃおうよ」

「そ、それがいい。早く日本に送ろう」

「そ、そのとおりね。無駄な戦闘は回避するに越したことはないわ」

三人娘の声が妙に痛々しいことに、必死に突っ込まないようにする諒兵だった。

さすがにこのくらいの危機回避能力はある。

とにかく保護対象を先に見つけたことは僥倖なのだ。

すぐに終わらせたい。

これ以上、鈴、ライラ、麗佳は怒り狂って暴れる少女の姿を見たくなかった。

特に胸部は。

とりあえず、此処で一番説得力があるのは、同じ魔王種である麗佳だろうということで、必死の表情で麗佳が説得を試みる。

「おっ、落ち着きなさいっ、このままだと竜の力に完全に呑まれるわよっ!」

「とっ、とにかく安全なところに行こうよっ!」

「いっ、今は落ち着くんだっ!」

鈴、そしてライラも麗佳に協力し、暴れる少女の前に立つ。

「とりあえずこっち抑えるか」

何だか入れないというか、そもそも説得なんてできそうもない諒兵は、操られている古竜の群れに対し、右腕を竜化させて炎を放った。

やはり『赤の竜』の力は本能的に恐れているのか、古竜たちはその場に留まってくれる。

あとは威圧を放てば畏れて近づかないだろう。

これでいいかと思っていると、メーちゃんが不思議そうに尋ねてくる。

『あの子たち、何であんなに必死なんでしょう?』

「絶対、聞こえるように言うなよ」

そういってメーちゃんを諌める諒兵に、聞こえてはならない叫びが聞こえてしまった。


「邪魔じゃ『貧乳』どもォッ!」


ブチンッという音が本当に聞こえた気がする諒兵である。

振り返ると、三人娘が放つ雰囲気が異様なものに変わっている。

「鈴さん」

「がってんしょーち」

「ライラさん」

「任せてもらおう」

どう考えても説得しようという雰囲気ではない鈴、ライラ、麗佳に対し諒兵が突っ込もうとするよりも早く麗佳の号令が響く。

「懲らしめてやりなさいッ!」

即座に竜化して少女に襲いかかる三人娘。


「緩衝材が暴れてどうすんだドアホッ!」


諒兵の叫びが、永久凍土に虚しく響き渡るのだった。






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