14話余話「少年たちと主と始まりの刻(とき)」
とりあえずは安心、というわけにはいかなかった。
龍玉を通じて、すぐにメーちゃんの指示が飛んでくる。
『すぐにファフナーの彼と合流してくださいッ、のんびりしてる暇はないですッ!』
真剣というよりも、深刻な様子で指示してきたことから、諒兵はすぐに肯く。
すると麗佳も同様に真剣な表情で肯いてみせた。
「私も行きましょう。レクター隊長には聞きたいことが山ほどありますから」
「わかった。場所わかるか?」
「ええ。先行します。付いてきてください」
そう答え、即座に翼を広げて飛び立った麗佳に従うように諒兵も翼を広げて飛び立った。
ラスベガス居住区の大通りは、既に半壊していた。
居住区の防護壁はともかく、街の建築物は力を解放した龍機兵の戦いに持ち堪えられるほど強くはできていないからだ。
「終わりですッ!」
その手刀から放たれる水の刃は、ダイヤモンドすら寸断する。
だが、それでも臆することなくウィルフレッドは接近し、拳を振り上げた。
「ぐぼッ?!」
どてっぱらに突き刺さったウィルフレッドの拳は、ルイスの体内で嫌な音を響かせる。
「Sorry、肋骨がイッたな」
実のところ、骨が折れた程度なら龍機兵ならばすぐに直すことができる。
だが、ウィルフレッドはただ腹を狙ったわけではない。
その拳の先にあるはずのものは、ルイスの心臓だ。
「ハートブレイクショットだ。龍機兵だとしても、今の姿の臓器の位置は変わらないみたいだからな」
「おっ、ぐっ……」
人間体としての急所に強烈な衝撃を喰らったルイスは、さすがに立っていられず、膝を折ってしまう。
「ぐっ……、主のために戦う私が……何故……?」
「What?それこそ理想論だぜ。人間は誰だって自分のために戦うものさ」
「傲慢な……」
「Maybe so……、俺は、お前に仲間に戻って欲しいって思ってるだけだ。誰だってエゴイストだ。自分以外の誰かのためには戦えないさ」
そう思う自分のために。
それがウィルフレッドの強さだ。
誰かの幸せ、誰かの願いではなく、そんな誰かを信じる自分のために人は戦う。
其処にこそ、戦うモチベーションがあるのだと。
そう説くウィルフレッドの耳に、ザッと着地する音が聞こえた。
視線を向けると麗佳が立っている。
「レクター隊長、これ以上の抵抗は無意味です。投降していただきます」
「……ボーイは上手くやったみたいだな」
「ときめいてしまいました♪」
「若いねえ」
そう言って、元の清楚なお嬢様の姿に戻っている麗佳の姿を見たウィルフレッドはヒューと口笛を吹く。
そんなウィルフレッドに苦笑いを見せると、改めて麗佳はs;真剣な表情でルイスに向き直る。
「このままあなたを殺すのは容易い。でも、それはエキドナが認める意味ある死ではありません。彼女の想いを汲み、凶行に及んだ理由を教えていただきます」
「うぐっ……、私が話すとでも……?」
「あなたに拒む権利は与えません。凛那なら喜んでやってくれるでしょうし」
敢えてにっこりと笑う姿が、逆に背筋を凍らせてくれる。
どう見ても、ろくでもない方法を考えているとしか思えない。
「ぐっ……、何を……?」
「あの子の力はラプシオヤウ。毒のエキスパートですもの」
「Oh no……、きれいなバラには棘じゃなくて毒があるのかい」
冗談めかして言うウィルフレッドだが、実は凛那ならば自白剤を精製するくらいは朝飯前だ。
毒も解毒も自在なのが、オロチ型・神種ラプシオヤウの力を持つ凛那なのである。
「でも、あの子はサディスティックな面がありますから、じわじわと苦しめつつ、自白させるような薬を作るかもしれません。凛那はそういうところは凝り性なので」
「イヤな凝り性だな」と、ようやく到着した諒兵が、呆れたような感想を述べる。
確かに、そんなところに凝られたり、拘られたりするのははっきり言って御免被りたい。
だが、何故か諒兵にも、ウィルフレッドにも、白衣を身に纏い、嬉々として拷問作用付き自白剤を作る凛那の姿が簡単に想像できてしまった。
それはともかく。
「私は、あなたに手荒な真似はしたくありません。……加減できそうにありませんから」
一瞬だけ、麗佳が強い意志で抑え込んでいただろうアシュタルテの威圧を放つと、さすがにルイスも顔を強張らせる。
だが、意外なことに怯える様子は見せなかった。
「……我々は主と共に人の世に良き未来を齎すために戦う。それが全てだ」
「あなたが主と呼ぶ者は何者で……」
「伏せろ麗佳ッ!旦那ッ!」
「All right!」
麗佳の言葉を遮って叫んだ諒兵は、ウィルフレッドと共に上空から放たれた黄色い光を弾く。
だが、それはまるでスコールのように降り注いできた。
驚くことに、ルイスを守るかのように諒兵たち目掛けて。
「ちぃッ!」
「レディッ、ボーイッ、いったん距離を取れッ!」
「くッ!」
いったん下がった三人だが、少しでも足を前に出すと黄色い光が襲ってくる。
「いったい何処から……?」
そう呟く麗佳に、ルイスは嘲るような笑みを浮かべて答えた。
「愚問です。主は『常に其処に在る』のだから」
その言葉で、麗佳の頭脳に閃くものがあった。
言葉どおりであれば、とんでもないものが自分たちを敵視している、と。
「まさか、あなたの言う『主』とは……」
だが、麗佳の呟きに対しルイスは答えることはなかった。
先ほどの攻撃とは異なる黄色い光が、彼を包み、空へと運んでいく。
「真にこの星を憂えるのは我々です。ゆえに過ちを糾す。我々の手で」
その言葉を最後に、ルイスは光と共に消えた。
それを見た諒兵が呟く。
「時空転移か?」
「いいえ。あれは高速移動でしょう。文字どおり光の速さで飛んだのだと思います」
「Crazy……、厄介なヤツらと戦うことになっちまったな……」
それが始まりであることを、諒兵も、麗佳も、ウィルフレッドも、そして映像を通して見ていた者たちも理解していた。




