4話「少年と陽気な青年とハンバーガー」
早速、と、対峙しようとした諒兵とウィルフレッド。
下手に口出しできない雰囲気に、鈴もライラも押し黙ってしまう。
仕方なく龍玉で通信する少女たちだった。
(どっ、どうしようっ?)
(この状況では止められそうにない。というより、二人ともやる気だ)
明らかに戦意を高めている男二人に、少女たちは焦りつつも、声を発することができない。
ただ、一つ安心できることがあるとするなら、諒兵もウィルフレッドも高めているのは戦意であって殺意ではない。
つまり、殺し合いになる可能性はそれほど高くないということだ。
(でっ、でもっ、アメリカの龍機兵さんと戦ったら、諒兵の立場が悪くならないっ?)
(それが一番不安なんだ。できれば、ドラゴンズ・ネストの龍機兵がもう一人いてほしい)
(何で?)
(私たちではリョウヘイを擁護しても聞いてもらえないが、ドラゴンズ・ネストの龍機兵も立ち会っていれば、証人にすることができる)
仮に諒兵がウィルフレッドを倒したとする。
そのとき、ただの手合わせかケンカに過ぎないとドラゴンズ・ネストの龍機兵が言ってくれれば、諒兵の立場はそれほど悪くならないだろう。
だが、鈴とライラでは諒兵の味方をしていると思われてしまう。
少女二人を利用していると思われ、却って立場を悪くしてしまう可能性もあるのだ。
それでは意味がない。
だが、ドラゴンズ・ネストにいる知り合いと言えば、今この地に滞在している丈太郎くらいだ。
丈太郎は本来日本の龍機兵団の総責任者。
どうしても諒兵側に見られてしまう。
手詰まりか。
そう思った直後、豪快な音が鳴った。
誰かのお腹から。
「はえっ?」
「……私たちではないぞ」
答えたのは困ったような顔で笑うウィルフレッドだった。
「Sorry!まだ何も食べてなかったぜ」
どうやら空腹なのは彼も一緒だったらしい。
苦笑いしながら頭を掻く。
「どうすんだ?」という諒兵の言葉をライラが通訳すると、ウィルフレッドは問題ないと答える。
「軽く腹ごしらえしてからにしよう。力が出ないからな」
「それはいいが、食堂が開くにはまだ時間があるぞ」
「食堂は開いてないが、ショップは開いてるさ」
そうあっさりと答えたウィルフレッドは、朝食を食べに行こうと踵を返す。
「お前たちも腹が空いてるんじゃないか?案内するから行こうぜ」
「どうしよ?」
「まあ、食事ができるというのなら……」
「腹減ってたしちょうどいいだろ。俺は行くぜ?」
スタスタとウィルフレッドの後をついていく諒兵を、鈴とライラは慌てて追いかけるのだった。
ウィルフレッドが案内してくれたのは、施設内で食堂がある場所の反対側にあるハンバーガーショップ。
「うわお、何か凄い納得」
確かにアメリカンスタイルというのであれば、一番に予想できるショップであると言える。
なお、アメリカのハンバーガーショップは多岐に渡るため、日本では知られていない名前のお店だった。
もっとも、味は相当美味いらしい。
「こっちは開くのが早くて遅くまでやってくれてるのさ。俺たちは朝早くや夜遅くに出撃することもあるからな」
「助かるぜ。非常用だけじゃ物足りなかったとこだ」
「Hey!しっかり食っとけよ。ハンパでやり合いたくないからな」
適当な席に座った四人。
するとすぐにスタイルのいいウェイトレスが笑顔で注文をとりに来た。
ウィルフレッドは顔馴染みなのか、いつもので通じてしまう。
とりあえずメニューを見る諒兵、鈴、ライラだが。
「読めにゃい……」
「バーガーって書かれてんのはわかるけどな」
「代わりに読むから選んでくれ」
苦笑いしつつ、メニューを読み上げてくれるライラに感謝しつつ諒兵と鈴はそれぞれお勧めらしいメニューを注文する。
最後にライラが注文すると、ウェイトレスは笑顔を振りまいてキッチンへと伝えにいった。
さすがにファースト・フードだけあって、それほど待たせることなく品物が届く。
もっとも出来はそこいらのものとは比べ物にならないくらい、ゴージャスなハンバーガーだったが。
「美味しそうっ!」
「思った以上に食欲をそそるなコレは」
鈴とライラがその見た目に歓喜の声を上げていると、既に諒兵は「いたっきやす」と言って一つ目を頬張りだしていた。
本当に腹が減っていたらしい。
案内してきたウィルフレッドも、そんな反応が嬉しいのか、笑いながら自分の注文品を食べ始める。
「Hey!こういうのはHotなうちに食べようぜ!」
「はいっ!ていうか諒兵、『いただきます』は?」
「ちゃんと言ってる」
ほとんど聞こえないような小声ではあったが、しっかりと口に出していたようである。
そんな諒兵に苦笑いしながら、ライラも「いただきます」と告げてから頬張った。
バンズにミートパティと野菜、そして好みでチーズなどを挟んで食べるハンバーガーは日本ではチェーン店が一番馴染み深い。
しかし、何処でも『本場』というものは違うもので、ドラゴンズ・ネストのショップのハンバーガーは単に挟んだだけではなく、バンズやパティにも工夫が施されていた。
「うわお、これ日本のと全然違う。食べ応え合って美味しい」
「That's right!それが本場の味ってヤツさ」
と、ウィルフレッドは鈴の感想を聞き、嬉しそうに笑う。
日本は、日本料理の存在から食に関して歴史ある国ということができるだろう。
だが、実のところ食の歴史は人類の文化の歴史ということもできる。
人がいる場所なら、それぞれ独自に歴史を持っているものだ。
「確かに構造はシンプルだが、それだけにヴァリエーションに富んでいるのだな。侮れん」
そうライラも感想を述べた。
イギリスの出なので、実は一番驚いているのかもしれない。
一方、諒兵は注文した品のニ品目に手をつけていた。
ひたすら食っているあたり、腹が減っていただけかと思われがちだが。
「あんた、相当気に入ったわね?」
「美味えからな。食堂の人にゃ悪いが、こっちのほうがいいかもしんねえ」
鈴の言葉に、諒兵はそう返す。
実際、諒兵の性格を考えても、こちらのほうが合っているかもしれない。
まあ、三食これでは少々胃もたれしてしまうかもしれないが、龍機兵である以上、その心配はほとんどなかった。
「気に入ってもらえて何よりだ。飯は俺たちの一番の楽しみだからな」
「その点には同意する」と、ライラは食べながらもしっかり通訳して諒兵と鈴にも伝える。
そうすると、二人とも肯いた。
そこに。
「何だ、おめぇらこっち来てたんか?」
丈太郎の声が聞こえてきた。
今は一人のようで、いつもの白衣姿のままだ。
「蛮兄、どしたの?」
「食事だ。あと仕事中にも食うからテイク・アウトも頼むんだよ。サンクス、ウィル」
鈴の言葉に答えつつ、丈太郎はウィルフレッドに振り向いて、礼を言う。
四人の様子から、案内してくれたのがウィルフレッドだと悟ったのだろう。
「No problem!なかなかいい子たちだな、ドクター」
「捻くれてんのもいるが、悪ぃ連中じゃぁねぇかんな」
ウィルフレッドは陽気な笑顔を見せると、丈太郎は苦笑いしつつ、英語でそう答えた。
それを見て驚いたのは鈴である。
「蛮兄、英語できたんだ?」
「俺ぁこれでも研究者だぞ。英語とドイツ語くれぇ喋れらぁな」
そう答えて、丈太郎はあることに気づく。
そう言えば、さっきからやたらとライラの声が聞こえていた。
「あぁ。すまねぇなライラ。面倒な役やらせちまって」
「気にしていない。言葉が通じないのではコミュニケーションも何もあったものではないからな」
「おめぇみてぇにマジメならいいんだが、鈴はともかく諒兵はなぁ」
鈴は時間さえあれば英会話を覚えるくらいはしてくれそうだが、如何せん諒兵はそういうことに興味を持たない。
面倒の一言で片付けてしまうだろう。
しかし、言葉が通じないとトラブルの元になってしまうのは、どの国でも同じだ。
「しゃぁねぇ、ちぃと裏技教えとく」
「裏技?」と鈴が首を捻る。
「ライラみてぇにマジメなヤツにゃぁ必要ねぇんだがな。諒兵、鈴、龍玉に意識を集中しろ」
有無を言わせぬ雰囲気だったので、仕方なく、諒兵と鈴は龍玉に意識を集中する。
そして。
「簡単に言やぁチューニングだ。今から英語で喋っから、日本語で聞こえるまでイメージでダイヤルを回せ」
そう言うなり、丈太郎も英語で話し始める。
いわれたとおりにするしかないと感じた二人は、素直にダイヤルを回すことをイメージし、日本語で聞こえるようになるまで回し続けた。
すると。
「そろそろ聞こえっか?」
「はれ?」
「日本語に戻したか?」
「Noだな。ちゃんと英語で喋ってるぜ」
「あれっ?ウィルフレッドさんの言葉もわかるっ?!」
「いや、二人が普通に英語を話しているんだ、リン」
驚くべきことに、鈴も諒兵も普通に英語を話していた。
そしてウィルフレッドやライラの英語も普通に聞こえてきている。
もっとも丈太郎は呆れたように突っ込んできたが。
「てか、諒兵。ナチュラルにスラングに合わせんなど阿呆」
「んあ?そうなのか。話し易い気がしてここにしたんだけどよ」
「お前にはぴったりかもな、ブラット(くそがき)」
「おう、あんたの言ってることもよくわかるぜ。これでケンカしやすくなった」
「そこぁ問題じゃぁねぇよ」
そう突っ込む丈太郎に、さらにライラが突っ込んでくる。
実のところ、丈太郎もさっきから話している英語はイギリス英語ではなかった。
「というか、ドクターもスラングでは?」
「いや、ちゃんとクィーンズから覚えたんだが、雰囲気に合わねぇって言われてな……」
たそがれる丈太郎に思わず苦笑いする一同であった。
「でも、これって何?どうなってんの?」
「あぁ『竜の血』にゃぁ古代から現代までのあらゆる言語がある。発音を口からじゃなく龍玉から行えば簡単に言語変換ができんだよ」
イメージとして口を動かしてしまうのはどうしようもないが、今の諒兵と鈴は発音自体を龍玉から行っている。
そして発生する音を日本語ではなく英語に変換しているので、英語を喋っているように聞こえるのだ。
さらに言語変換で意識したことで、聞き取りも龍玉で行える。
結果として英語を日本語に変換して会話ができるということだ。
実は慣れれば口を動かさなくても話ができるようになるので、大変便利なのだ。
しかし。
「便利ぁ便利だが、口ぁ今後も動かせ」
「何でだよ?」
「そっちでの会話に慣れ過ぎっと竜に近づくぞ。龍玉に頼らねぇでてめぇの身体動かせや」
竜の力を使いすぎれば、竜に近づくことになる。
今回教えた裏技も突き詰めて言えば竜の力だ。
ゆえに頼らせたくはなかったのだが、勝手にアメリカまで来てしまったので仕方なく教えたのである。
「鈴、あとでライラに英会話教えてもらっとけ」
「少しは覚えたんだけど」
「それでいい。諒兵……は、やらねぇやな?」
「やると思うか?」
はあ、と、丈太郎は諒兵の言葉にため息をつく。
『こんな小技、私知りませんでした』
(どうりで何も言ってこねえと思ったぜ)
わりと使えないメーちゃんの感心したような言葉に、丈太郎以上にため息をつきたくなった諒兵であった。
注文したハンバーガーを食べながら、丈太郎は諒兵たちがウィルフレッドと一緒にいる理由を聞く。
納得はしたものの、丈太郎は頭を抱えていた。
「おとなしくしてろってアラステアに言われただろうがよ……」
「ケンカ売ってきたのはウィルの旦那のほうだぜ?」
「ハッハー、どうせなら一度手合わせしてみたくってな。Sorry、ドクター」
諒兵とウィルフレッドに悪びれる様子はない。
単なるコミュニケーションの一環だと思っているらしい。
決して間違いではないが、ドラゴンズ・ネストで諒兵が戦うということ自体が問題を引き起こしかねない。
「でも、私たちじゃ止められそうにないんだもん」
「せめて、ドラゴンズ・ネスト側の龍機兵にも立会ってもらえれば、誤解される心配は少ないと考えているのだが……」
と、鈴とライラが心配そうに言ってくるのを見た丈太郎はまた一つため息をつく。
「俺らぁ今ぁ暇がねぇかんなぁ。しゃぁねぇな。ロッドやルイス呼ぶか」
「Oh!ロッドなら審判もしてくれそうだな」
「審判か。……ならルールは俺が決めんが文句ねぇな?」
「ああ」
「All right!」
ケンカを止められない以上、できるだけ問題がないようにするルールを決めるということでその場は決まったのだった。
それから三十分後。
ドラゴンズ・ネスト内の訓練場にて。
「空戦隊隊長、ロドニー・セルピネス・ジョンソンだ。よろしく頼む」
「海戦隊隊長、ルイス・リヴァイアサン・レクターです。今後ともよろしくお願いします」
諒兵、鈴、ライラはウィルフレッドの紹介で、U・S・ドラグナーの残る二人の隊長であるロドニー、そしてルイスと会うことになった。
空を守るロドニーと、海を守るルイス。
どちらも実力は一線級だ。
そんな二人だが、常に冷静なロドニーに対し、ルイスは意外と物腰柔らかに接してくれた。
「ドクターから話は聞いている。俺が審判を務める。異論は?」
「ねえ」
「No problem!」
諒兵とウィルフレッドがそう答えたことで、ロドニーは納得したように肯いた。
「なら確認だ。仕合いは人間体で行う。先に鱗が生えてしまったほうが負けとなる」
「ドクターは人間体で、かつ、全力で戦えと言っていたのだが、それは我々にとって矛盾にならないのか?」
ライラが疑問を呈すると、しっかりと説明を受けていたのだろう、ロドニーは淀みなく答えた。
「矛盾しない。実は隠された意味がある。戦闘中に其処まで気づければ、勝利は確実となるだろう」
「へー、何だろ?」
「君たちも考えるといい。君たちは実戦経験が少ない。人の戦いから学ぶことは多いはずだ」
「感謝する」
「あ、ありがとうございます」
シンプルに礼を述べるライラに対し、ぺこりと頭を下げる鈴の姿を見てロドニーは苦笑し、ルイスは微笑んだ。
どうやら好感を持ってくれたらしい。
「一応、被害を考えてルイスにシールドを張ってもらうがかまわないか?」
「Yes」
「デスマッチやるわけじゃねえし、問題ねえよ」
「それも面白そうだな、ブラット」
「悪くねえが、兄貴をあんま困らせんのもな」
「ハハッ、Sorry!」
デスマッチとはいっても、ウィルフレッドの性格を考えれば死力を尽くして戦うという意味で、憎しみで殺し合うようなことにはならないだろう。
そう考えれば、アメリカで初の手合わせの相手としては理想的なのがウィルフレッドだと言えた。
「ではルイス」
「了解です」と、そう答えたルイスは額から鱗を生やすと、諒兵とウィルフレッドを囲むように水を呼び出す。
それは薄い膜のドームとなって二人を覆った。
「すご……」
「見事だな。リヴァイアサンの力を持ちながら、方術型の龍機兵なのか」
「へっ、何それ?」
「ああ、リンは知らなかったのか。龍機兵は戦い方で種類が分けられるんだ」
わかりやすく説明すると、日本なら誠吾や義隆、そして今この場にいる龍機兵なら諒兵やウィルフレッドのように竜の力で格闘や武器戦闘するタイプを戦士型。
逆に今のルイスのように、竜の力を使い、シールドを張ったり、遠隔攻撃や範囲攻撃といった魔法のような使い方ができるものを方術型と言う。
「分けるなら私は戦士型、リンは方術型だ」
鈴は後者に属するが、より正確にいうと異能型となる。
竜の持つ特殊能力を駆使するタイプだ。
同じことがヒュドラ型の丈太郎にも言える。
「あっ、そうなんだ。ドラゴン・フェイス使った策敵がメインだから?」
「それもあるが、リンはたぶん方術を使うほうが向いてるぞ。兵団に方術型はほとんどいないというか、セイゴ隊長が少し使える程度だったからな。此処なら学ぶこともできるかもしれない」
「そか。今後のことを考えても学んでいかないと」
今の諒兵についていくためには、もっと強くなる必要がある。
ライラの言葉は、自分が次のステージに上がるためのきっかけになると鈴は感じていた。
そして、改めて中の二人に目を向けると。
「周りを気にしねえで戦えるのはありがてえ」
「That's right!龍機兵の悩みだよなあ。ちょっと暴れただけでも被害がでかい」
「だな。あんたもたまには暴れてえタイプか?」
「思いっきり暴れて、思いっきり食う。龍機兵になったのは正解だったと思うぜ」
「気が合うな」
「まったくだ」
そういって笑った諒兵とウィルフレッドは、今度は互いに獣のような獰猛な笑みを見せる。
そして。
「「Show no mercy!」」
容赦しないと叫んだ二人は、互いに拳をぶつけ合うのだった。




