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赤の竜―Dragon of Wrath―  作者: 枯田
「歪む真実の赤の竜」
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10話「少年と緋い少女と語る者たち」

誰も疑問に思わなかった。

聞かれたことのほうが疑問が大きく、皆がそちらに意識がいってしまったからだ。

だから、誰も聞こうとはしなかった。


そもそもどうして諒兵が、丈太郎が『竜の血』を何処で見つけたかを知りたいと思ったのか。



日本、旧東京都、龍機兵団詰所。

いまだ深夜といえる時間帯、竜の襲撃がないなら龍機兵も眠っている。

諒兵とて、同じだ。

自室で寝息を立てていた。

ただ。


眼前に現れたのは真っ赤な大蛇。

百八つの頭を持つ蛇の怪物。

雲海を纏う巨大な龍。

赤く輝く眼に闇色の身体のドラゴン。


それら四匹の竜を見た諒兵はため息をつく。

「またお前らかよ。安眠妨害だぜ?」

諒兵は、自分が眠っていると理解している。

だが、最近は眠るたびに同じ夢を見る。見たこともないはずの四匹の竜と戦う夢だ。

さすがに毎日のように同じ夢を見れば、それが気になるのも当然だろう。

何より、その四匹の後ろにうっすらと見える、両腕が翼になっていて、半身半蛇の身体を持つ女の龍機兵の姿。

ソレが自分の敵であるということが感覚で理解できたために、諒兵は興味を持った。

竜ならば『竜の血』によって出現した存在であるはずだ。

ならば、丈太郎が何処で見つけたのかを知ることで、四匹の竜と女の龍機兵の居場所もわかるだろう。

そう思ったのだ。

「現実であったら叩き潰してやるからよ。眠いときくれえ寝かせろ」

そう告げたものの、四匹の竜は聞く耳を持たず、襲いかかってくる。

その姿を見て、諒兵はまたため息をついた。

「お前らの戦い方のパターンはもう見飽きてんだよッ!」

そう怒鳴った諒兵は右腕だけを竜化させた。

それから数十分後。

四匹の竜の残骸と、消えていく女の龍機兵の影を諒兵はのんびりと眺めていた。

女の龍機兵を見たとき、最初はライラかと思ったが、色が違うことにすぐ気がついた。

うっすらとではあるが、どちらかというと色が茶色というか土色で蛇のほうの身体には模様があった。

あれは……。

「マムシか。ろくなもんじゃねえな。人のことは言えねえけどよ」

マムシ酒でも造るかと肩を竦める諒兵だったが、ふと気づく。

今日は、目覚めている様子がない。

いつもは戦闘が終わったら目が覚めるか、そのまま朝を迎えているのに、今日に限っては夢の中でいまだに意識がある。

「あり?まだ出てくんのか?」

周囲を見回す諒兵だが、特に何が見えるというわけではない。

だだっ広い空間があるだけだ。

「どうすっか……、寝るか」

とりあえず、元々眠っているのだから寝るべきだろうと変わった結論を導き出した諒兵が横になろうと腰を下ろすと、呆れたような声が聞こえてきた。

『この状況で寝るんですか。まったく呆れた胆力ですね』

「何もなきゃ寝るしかねえだろ?」

そう言って声に答える。

龍機兵になってからは、おかしな状況に慣れてしまったため、たいていのことでは驚かない諒兵だった。

「お前は?」

諒兵が声のした方に顔を向けると、其処にいたのは少しばかり年上の女。

だが、容姿が異常だった。

そこにいたのは白い服、古い時代のヨーロッパ辺りの神殿の巫女のような衣装を纏った女だった。

スタイルは普通で顔の造形も悪くないというか、童顔だがかなり可愛い。

ただ髪の色が真っ白で、目は在り得ない色をしている。

眼球の部分が青く、瞳は白、そして瞳孔が黒かった。

これだけで十分以上に普通の存在ではないことが理解できた。

『名乗りたいところですけど、今は……、メーちゃんにしておいてください』

「あ?」

『あの者に勘付かれるわけにはいかないんです。すみません諒兵』

あっさりと頭を下げてくるところを見ると、本当に申し訳ないと思っているのだろう。

別にいいかと諒兵はため息をつく。

「そういや、俺の名前は知ってんのか」

『すみません、あなたの『竜の血』から情報を手に入れました』

なるほど、そうなると間違いなく『竜の血』の関係者、それもかなりの重要人物だ。

それだけでもわかればいいかと諒兵はため息をつく。

「で、俺に何か用か?」

『あなたの敵が動き出したことは気付いていますね?』

当然、先ほど戦った連中のことだろうと理解できる。

一番危険なのは、女の龍機兵なのだろう。

「あのマムシ女は何だ?アレが一番ヤベえ気がするけどよ」

『勘がいいですね。確かに『あの中では』彼女が一番危険です。名前はエキドナ。あなたの言うとおり、古い言葉で『蝮の女』を意味します』

「まんまかよ」

まさか感じたそのままを口にしたら、ビンゴだとは思わなかったと諒兵は呆れてしまう。

それはともかく、何故襲いかかってくるのだろうと思う。

別に、アレの邪魔をしたつもりはないからだ。

『あなたというより、あなた方が『赤の竜』と呼ぶ者を敵視してるんです』

「俺は関係ねえじゃねえか」

『そうですね、関係ありません。かつて彼女の願いを邪魔したのは、諒兵、あなたではありませんから』

この言い方だと、かつて諒兵と同じ力を使い、エキドナを邪魔した存在がいるということになる。

それも、竜ではなく、龍機兵として。

『それは違いますね。彼は竜そのものになってしまいました。ただ……』

「ただ、何だよ?」

『その血に混入されたプログラムと精神が同化し、単なる竜ではなく『竜を滅ぼす竜』になってくれたんです』

それがなければ世界は竜が当たり前に闊歩するようになっていただろうとメーちゃんは語る。

「……難しい話はわかんねえよ」

『簡単に言えば、人を竜の脅威から救ったんですよ』

「おい。それじゃ伝承と逆じゃねえのか?」

『伝承は必ずどこかで捻じ曲げられます。正しく伝わることはほとんどありませんよ?』

余程、運が良くない限りとメーちゃんは説明してきた。

確かに彼女の言うとおり、伝承がそのまま伝わることは少ない。

そこに人の意志が介在するからだ。

伝承を紐解いていくと、神が悪魔にされるなど日常茶飯事である。

言うなれば、神も悪魔も人の意志で造り替えられてしまうということだ。

しかし、今の話が確かなら、『赤の竜』の力を持つ自分も人類を救う竜になるということになる。

「なら、俺もそうなるのか?」

『彼は一パーセントの可能性を引き当てました』

「無理か」

『そこで諦めないでくださいっ!』

ぷりぷりと怒った様子で諒兵の言葉を諌めてくる。

なんと言うか、年上のちょっとヌケてるお姉さんか、マジメなんだけど不マジメな同級生に振り回される優等生のようだと諒兵は感じてしまう。

「ま、諦めはしねえよ。鈴を巻き込んじまったし、ライラも放っとけねえし。兄貴は一人目の女を何とかして救いてえみてえだし」

自分は仮に死んだとしても自業自得だと思っているが、自分のために龍機兵になった鈴がいる以上、せめて彼女が幸せを掴むまでは独りぼっちにしないと誓っている。

その誓いだけは必ず果たすつもりだっだ。

『その意志が、白い火に届いた理由ですから、失くさないでくださいね』

「そうなんか?」

『はい。彼ですら其処までは届きませんでした。何とか伝承には残しましたが、まさか使える人が出てくるとは思っていませんでしたよ』

どうやら、何か特別な力らしいが、そう言えば白い火については丈太郎に聞いていなかったことを思い出す。

「お前は知ってんだろ?」

『完全に使いこなせるようになれば、自然と何なのかは理解できますよ。理解するのを目標にしてください』

「ま、いいけどよ」

答えたくないというのなら無理に聞き出しはしない。

いちいち問答するのが面倒くさい諒兵である。

「話が戻るけどよ。お前が俺に言いてえことは何だ?まさか、大昔に人類を救った力を手にしたから救世主になれってか?」

『無理でしょ?』

「いい性格してんな、お前。合ってるけどよ」

バッサリ断言してきたメーちゃんに思わずジト目で見つめてしまう諒兵である。

確かに言っていることは間違いではない。

諒兵が救世主だなど、どんな冗談だと言えるだろう。

『私はただ、気をつけて欲しいんです』

「そりゃいつものことだぞ?」

そもそも暴走すれば最悪の兵器と呼ばれる『赤の竜』だ。

さすがに諒兵と言えど、気をつけないわけがない。

しかし、メーちゃんが言いたいのはそこではないらしい。

『いえ、あなたの周りにいる龍機兵と呼ばれる方々全員に、です』

「あ?」

『あの方々がエキドナの干渉に何処まで抗えるかわかりません。最悪の場合、龍機兵たちは一人残らずあなたの敵に成る可能性があります』

「待てよ、そりゃあ……」

『はい。これに関してはスズカワリンさんやライラ・バンブリッジさんも同じです。エキドナの干渉に負ければ、あなたを敵と認識して襲いかかってきます』

「ふざけんなッ!」

『ふざけていません。私に出来たのはウィルスプログラムを混入させることだけでした。『竜の血』のプログラムを『修復』するまでには至らなかったんです。エキドナの『願い』が強すぎて』

「いったいどんな迷惑な『願い』なんだよッ!」


『彼女は、すべての人に、自然の一部に戻ってほしいと願っているんです』




諒兵がいまだ日本で夢の中におり、そして智巳がU・S・ドラグナー陸戦隊隊長のウィルフレッドと戦いを始めたころ。

アメリカ某居住区、東堂家屋敷内。

その地下四十メートルに特別な施設が存在した。

此処に関しては一般人はおろか、智巳や凛那も知らない。

麗佳のみが入れるようにしてあった。

其処までの長い階段を、麗佳はゆっくりと下りていく。

「気分が落ち込むわね……」

そう呟く麗佳の足取りは重い。

この先にいるモノについて知っているのは麗佳だけだ。

自分が背負ってしまったものの重さが、なかなか先に進ませてくれなかった。

だが。


……レイ……れいカ……


頭に響いてくるその『声』が、引き返すことを許してくれない。

運命を神が決めたというのなら、神は何処まで自分を嫌っているのだろうと思う。

ただ、普通の人の当たり前の日常が欲しかっただけなのに、かつても、今も、それだけが手に入らないと麗佳は嘆く。


……ハヤく……此処ニ……


其処に近づくほどに『声』は強く、大きくなってくる。

呼びかける力が強いほど、抗いにくくなってくる。

「行くから、おとなしく待ってなさい」

ため息をついて『声』に答える麗佳は、ようやく大きな鉄の扉の前まで辿り着いた。

この先に、自分を普通の人生から断絶してしまった存在がいる。


オロチ型・魔王種、アシュタルテ。


その異常な運命に引きずり込んだ者がいる。

「ふう」と、一つ息をつくと、麗佳は緋色の髪を竜化させ、扉にある巨大なハンドルを回した。

そして、開かれた扉の向こうから。


『れいかぁ~、はやくぅ~、私、お腹が空きましたわぁ~』


随分とまた情けない声が聞こえてきた。

麗佳は思わず頭を抱えてしまう。

「ちゃんと食事は出してるでしょうっ、おやつまであるのにっ、あなた燃費悪すぎるわよっ!」

『仕方ありませんわぁ~、頑張ってトンネル掘ってるんですものぉ~』

「それこそ仕方がないでしょうっ、あなたを地上に出して移動させるわけにはいかないのですからっ!」

『だからおやつぅ~、作ってくださいましぃ~』

「わかったからっ、その情けない声で呼びかけるのを止めなさいっ!気が滅入って仕方がないわっ!」

ようやく黙ったその声の主、上半身は両腕が金属の翼と化しているものの美しい女性の姿で、下半身は金属でできた大蛇の身体を持つ、大変微妙というか、残念な美女の龍機兵の姿を見て、麗佳は再びため息をつく。

「こんな人が地母神と伝わっているのだから、本当に不条理ね、世界というものは」

『そこまで知りませんわぁ~』

「はあ……、それでリクエストは何かしら『エキドナ』?」

『ちょこれーとけーきをお願い致しますわぁ♪』

「わかったわ。今から作ってあげるからおとなしくしてなさい。頼むから他の女性の龍機兵にまで呼びかけないようにしなさいね?」

『了解しましたわぁ♪』

「あと人間体に戻りなさいな。そのサイズだと一口になってしまうもの」

『はぁ~い♪』

エキドナがそう答えると、すぐに金属の鱗が引っ込んでいき、銀髪のロングヘアで白い巫女服を纏ったスレンダーな美女の姿になる。

言動さえ考えなければ、荘厳さすら感じさせるような美女なのだが、あの性格を知っている麗佳としてはため息しか出てこない。

ちなみに、麗佳は料理はできなかった。

だが、エキドナの世話をするはめになってしまってから、仕方なく人並み程度には覚えた。

ただ、お菓子作りだけは違う。

ほとんどパティシエのレベルである。

麗佳曰く。


「お菓子は計量できれば、あとは美術のセンスを磨くだけだもの」


かなり乱暴な言い方ではあるが、そこまで間違ってもいないかもしれない。

実際、家庭料理などと違い、店で売っているお菓子の類は徹底的に分量を計算されている。

その分量を覚え、材料を揃えれば、後は手順どおりにやっていけばいいと麗佳は考えた。

実際それはある意味では正解で、お菓子だけはプロ級のレベルで作れる麗佳である。

だが、家庭料理や、その他の料理はそうはいかないらしい。


「愛情って何グラム入れるの?」

「一口大って誰の口のサイズ?」

「人肌ってことは三十五度くらいでいいのかしら?」


これでは家庭料理は遠かろう。

要するに、キッチリし過ぎているのである。

人が食べられるレベルまで到達できたのが奇跡かもしれなかった。

それはともかく。

『美味しいですわぁ~、やっぱり麗佳のお菓子は最高ですわぁ♪』

「どういたしまして」と、疲れた表情で紅茶を一口含む麗佳である。

一仕事した後に飲むお茶は存外美味しかったが、あまり嬉しくはない。

そもそも。

「此処は神殿にするつもりで創ったのだけれど……」

『私は別に祀られるつもりはありませんわ』

「私もそんなつもりではなくて、あなたの名前でそう考えただけよ。それが今では、ねえ……」

『実用的ですわ♪』

そうエキドナが評するその場所には、お菓子作りの道具と調理道具が置かれた調理場。

さらに大量の食材を収めるパントリーに冷蔵庫。

どう見てもどこかのホテルの厨房である。

これがすべてエキドナの食事とおやつのためにあるのだから、ある意味では神殿といってもいいかもしれない。

エキドナという名前は地母神として、さらには数多の怪物の母として伝わる。

捻じ曲げられ、淫蕩な娼婦の意味すら持たされた。

その現実が、大食らいで世間知らずのわがままお嬢様では、世の不条理を感じるのも仕方のないことだろう。

正直、コレをマジメに敵視している五人の龍機兵が哀れになってくる。

「早く先生たちに真実を伝えたい……っ!」

『悪い人たちではありませんけれど、考え方が悲しすぎますものね』

「あなたの考え方も極端なのよ?まあ、わからないではないけれど」

『人の過剰繁殖を抑制する存在が必要だったという考えを改める気はありませんわ』

「頑固ね……」

『人はやはり自然から離れすぎました。生も死も自然と共にあるべきですわ。自然の連鎖から外れた存在は、いずれ滅びますもの』

エキドナの目的は人を自然の連鎖の中に引き戻すことだった。

そうすることで自然界のバランスを整え、最終的には人も永らえるようにと願っているのだ。

人が増えすぎ、勢力圏が広がるほど、他の生物も絶滅したり、逆に異常繁殖したりしている。

結果として、その現実が人を脅かす。

それは、ある意味では間違いではない。

そうさせないために、他の生物のみならず人の命までをも糧とする存在を創り出したのである。

『その結果、他の人に恨まれることも、私自身が食べられる側になることも納得の上ですわ』

「なら、何故あなたは龍機兵なったのかしら?」

『それは……』

「そろそろ話す気にならない?もう半年近い付き合いよ?出会ってからだと三年は経つけれど」

かつて、龍機兵になった麗佳は一人で旅に出た。

そして先生と呼ぶ人が連れていってくれるといっていた場所にも行ってみた。

其処に彼女はいた。

地母神と呼ばれる大いなる母なる神……。

そう呼ばれるだけで実際にはアホで大食らいで残念な美女の龍機兵エキドナが。

「私たちはあなたの願いに巻き込まれた。そのことを責めるつもりはないわ。特に私は命を救われたし」

『麗佳……』

「ただ、今の状況は、その願いを考慮してもおかしな点があるのよ。それを見抜かないと、私たちは道化のままで死ぬことになる」

だから、真実を見いだすためにも、エキドナが知る限りの情報が欲しいと麗佳は願う。


『わかりましたわ。お話します。私とお姉様のことを』


そう言ってエキドナは語り始める。

『お話しするエネルギーが欲しいので、苺のしょーとけーきを所望致しますわ♪』

「ああもうっ、この大食い女神はっ!」

本当に話が進むのだろうかと麗佳は再び頭を抱えていた。






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