表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/25

第9話 初めての脱皮

第9話です!


順調にスローライフを送っていた伊織ですが、今回は体に大きな異変が発生します。


突然の体調不良。

原因不明のだるさ。

そしてルナが口にした「脱皮」という不穏な単語。


人間のつもりで生活している伊織ですが、どうやら体はそう思っていないようです。


海老人族という新たなキーワードも登場する重要回となります。


それでは、第9話「初めての脱皮」をお楽しみください!

 異世界生活八日目。

 私は洞窟の床で倒れていた。

「だるい……」

 体が重い。

 頭もぼんやりする。

 朝から何もやる気が出なかった。

 魚を獲りに行く気力すらない。

「風邪かな……」

 異世界にも風邪があるのだろうか。

 私は毛布代わりの布にくるまった。

 すると。

「海王様ー!」

「伊織ちゃーん!」

 いつもの声が聞こえる。

 毎日元気だなぁ。

 私は少しだけ羨ましくなった。

 数秒後。

 二人が洞窟へ飛び込んでくる。

「海王様!」

「伊織ちゃん!」

 そして。

「顔色悪い!」

「大丈夫ですか!?」

 一瞬で異変に気付いた。

 私は弱々しく手を振る。

「ちょっと体調悪いだけ」

「全然ちょっとじゃないよ!」

 ミナが慌てる。

 ルナも真剣な顔になった。

「熱がありますね」

「あるかも」

 体が妙に熱い。

 それなのに寒気もする。

 よく分からない状態だった。

「お医者さん呼ぶ!?」

「村に入れないよ」

「あ」

 ミナが固まる。

 忘れていたらしい。

 私は苦笑した。

 相変わらず村では邪神扱いである。

「少し寝れば治ると思う」

 そう言った瞬間。

 触角がぴくりと震えた。

 いつもと違う。

 内側から何かが動いているような感覚だった。

「いたっ」

「どうしました!?」

「触角が変」

 私は頭を押さえる。

 違和感がどんどん強くなる。

 体中がむずむずする。

 皮膚が張っているような。

 窮屈なような。

 不思議な感覚だった。

「なんだろう……」

 その日はずっと寝込んだ。

 翌日。

 症状はさらに悪化していた。

「無理……」

 立ち上がるだけで疲れる。

 ミナとルナは完全に看病モードだった。

「魚スープ作ったよ!」

「海王様、お水です」

「ありがとう……」

 二人がいて本当に助かる。

 もし一人だったら大変だった。

 その時だった。

 ルナが突然真顔になった。

「もしかして」

「ん?」

「脱皮では?」

 私は固まった。

「だっぴ?」

「はい」

 ルナは頷く。

「海老人族ならあり得ます」

「海老人族?」

 聞き慣れない言葉だった。

 ミナも首を傾げている。

 ルナは少し考えながら説明した。

「海に住む伝説の種族です」

「へぇ」

「非常に珍しく、長い寿命と強い力を持っています」

「へぇー」

「成長の際に脱皮を行うとされています」

 私は嫌な予感がした。

「その脱皮って」

「文字通りです」

「え」

「脱ぎます」

「何を?」

「皮を」

「えぇ……」

 完全にエビだった。

 私は頭を抱える。

 確かに伊勢海老モチーフではある。

 だが本当に脱皮するとは思わなかった。

「嫌なんだけど」

「止められないと思います」

「そんなぁ」

 理不尽だった。

 転生しただけでも大変なのに。

 今度は脱皮である。

 人生何が起こるか分からない。

 そしてその日の夜。

 事件は起きた。

「うわっ!?」

 私は飛び起きた。

 全身が光っている。

 赤い光だ。

 触角から溢れている。

「なになになに!?」

 慌てる私。

 ミナも飛び起きる。

 ルナも起きる。

「始まりました!」

「何が!?」

「脱皮です!」

 全然嬉しくない。

 体中が熱い。

 そして。

 ぱきっ。

 何かが割れる音がした。

「え?」

 腕を見る。

 薄い赤い殻のようなものが剥がれていた。

「本当に脱皮してる!」

 私は叫んだ。

 ぱきぱきぱきっ。

 音が続く。

 殻が剥がれる。

 光が強くなる。

 そして。

 ばきんっ!

 大きな音と共に光が弾けた。

 洞窟の中が静かになる。

 私は呆然としていた。

「終わった?」

 体を見下ろす。

 見た目はほとんど変わらない。

 白髪。

 赤い瞳。

 触角。

 尻尾。

 いつも通りだった。

「成功です!」

 ルナが喜ぶ。

 ミナも拍手している。

「おめでとう!」

「いや何が?」

 実感がない。

 だが。

 立ち上がった瞬間。

「軽い」

 驚いた。

 体が信じられないほど軽い。

 私は外へ飛び出した。

 軽く跳ぶ。

 そのつもりだった。

 しかし。

「え?」

 気付けば十メートル近く跳んでいた。

 着地する。

 砂浜が少し抉れる。

「え?」

 もう一度やる。

 今度は走る。

 景色が一瞬で流れる。

「速っ!?」

 自分で驚いた。

 身体能力が明らかに上がっている。

 しかも。

 触角がぴくぴく動く。

 今までとは違う感覚だった。

 魚。

 人。

 波。

 風。

 海流。

 周囲の情報が一気に頭へ流れ込んでくる。

「何これ……」

 視界が広がったような感覚。

 世界そのものが鮮明になった。

 新しい能力。

 そんな気がした。

 ルナが興奮気味に言う。

「進化です!」

「進化?」

「海老人族の成長ですよ!」

 私は呆然と海を見る。

 海老人族。

 初めて聞く名前だった。

 だが。

 なぜか心の奥がざわついた。

 この体の正体に関わる言葉。

 そんな予感がする。

 その時だった。

 触角が強く反応する。

 今までで最大級だった。

「え?」

 私は遠くの海を見る。

 何かいる。

 とてつもなく巨大な何かが。

 海の底で動いている。

 そしてその存在もまた。

 こちらへ気付いたようだった。

 深海の闇の中で。

 巨大な瞳がゆっくりと開いた。


第9話を読んでいただきありがとうございます!


ついに伊織が脱皮しました。


本人は全力で嫌がっていましたが、海老人族にとっては立派な成長イベントです。


今回の脱皮によって身体能力や触角の能力も大きく強化されました。

ただ魚を獲ってのんびり暮らしたいだけなのに、どんどん伝説の存在に近付いている気がします。


そして作中で初めて登場した「海老人族」という言葉。

伊織の正体や、この世界の歴史にも関わる重要な伏線となっています。


さらにラストでは、深海から謎の巨大な存在が反応を示しました。


果たしてその正体とは――。


次回、第10話「海王伝説の始まり」。


伊織の勘違い伝説が、ついに村全体を巻き込んで動き出します。


面白かったらフォローや★評価、応援コメントをいただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ