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第10話 海王伝説の始まり

第10話です!


第一部「転生したら伊勢海老だった」もいよいよクライマックス。

前回の脱皮によってパワーアップした伊織ですが、本人は相変わらず海辺でのんびり暮らしたいだけです。

しかし、そんな願いとは裏腹に、大きな事件が彼女のもとへやって来ます。

そしてついに始まる――海王伝説。

本人の知らないところで積み重なってきた勘違いが、一気に爆発する回となっています。

それでは、第10話「海王伝説の始まり」をお楽しみください!

 脱皮から一日。

 私は砂浜で頭を抱えていた。

「なんか嫌な予感する……」

 触角が朝から落ち着かない。

 ぴくぴく。

 ぴくぴく。

 ずっと反応している。

 しかもかなり強い。

「魚?」

 違う。

「嵐?」

 それも違う。

 もっと大きい。

 もっと危険な何かだった。

 隣ではミナが魚を焼いている。

「伊織ちゃん食べる?」

「あとで」

「珍しいね」

 確かに珍しかった。

 私が魚を後回しにするのはかなり珍しい。

 ルナも異変に気付いたらしい。

「海王様」

「違う」

「何か感じるのですか?」

「うん」

 私は海を見た。

 水平線の向こう。

 そこから巨大な気配が近付いてくる。

「嫌な感じ」

 その瞬間。

 海面が大きく揺れた。

 どごぉんっ!

 爆発のような音。

 巨大な水柱が上がる。

「えっ」

 ミナが立ち上がる。

 ルナも顔色を変えた。

 海の中から。

 巨大な影が現れた。

 全長二十メートルはある。

 黒い鱗。

 鋭い牙。

 六本の足。

 巨大な魚とトカゲを混ぜたような怪物だった。

「なにあれ!?」

 ミナが叫ぶ。

 怪物は咆哮を上げる。

 海鳥たちが一斉に飛び立った。

 私は触角の反応を思い出した。

「これか……」

 嫌な予感の正体。

 間違いなくあれだった。

 怪物は海岸沿いを進む。

 そして。

 近くの村へ向かっていた。

「あ」

 私は固まった。

 村。

 私を追い出した村である。

「放っておけば?」

 少しだけ考える。

 正直。

 かなり追い出された。

 石も投げられた。

 邪神扱いもされた。

 助ける義理はない。

 全然ない。

 しかし。

 ミナが青ざめていた。

「村が……」

 そこには彼女の家族がいる。

 友達もいる。

 私はため息を吐いた。

「面倒だなぁ……」

 ルナが頷く。

「海王様らしいお言葉です」

「違う」

 もう訂正する気力もなかった。

「行くよ」

 私は立ち上がった。

 村では既に大騒ぎになっていた。

「魔物だ!」

「逃げろ!」

「海魔獣だ!」

 鐘が鳴り響く。

 村人たちは必死に逃げていた。

 しかし。

 海魔獣は大きすぎる。

 木造の建物など簡単に踏み潰せる。

 村長も絶望していた。

「終わりだ……」

 その時だった。

 村の入口に一人の少女が現れる。

 白髪。

 赤い瞳。

 赤い触角。

 赤い尻尾。

「邪神の娘だ!」

 誰かが叫ぶ。

 相変わらずだった。

 私は少し傷付いた。

「だから違うって」

 海魔獣がこちらを見る。

 巨大な目。

 鋭い牙。

 怖い。

 普通に怖い。

「帰りたい」

 本音だった。

 しかし。

 逃げたら村が壊れる。

 私は仕方なく前へ出る。

「一発だけだからね」

 その瞬間。

 触角が大きく光った。

 脱皮後に得た新しい感覚。

 海流。

 魔力。

 生物の位置。

 全てが分かる。

「そこか」

 海魔獣の弱点が見えた。

 首の付け根。

 魔力が集中している。

 私は地面を蹴る。

 どんっ!

 砂が爆発した。

「え?」

 自分で驚く。

 速すぎた。

 一瞬で海魔獣の目の前まで到達している。

 村人たちが目を見開いた。

「消えた!?」

「速い!」

 海魔獣が牙を振るう。

 私は避ける。

 簡単だった。

 動きが手に取るように分かる。

「よいしょ」

 軽く跳ぶ。

 そのまま首の上へ着地。

 海魔獣が暴れる。

「暴れないで」

 私は拳を握る。

 そして。

 ごんっ。

 本当に軽く殴った。

 そのつもりだった。

 しかし。

 次の瞬間。

 どがぁぁぁぁんっ!!

 衝撃波が発生した。

 海魔獣の体が吹き飛ぶ。

 巨大な体が空を舞う。

 そして。

 遥か沖へ消えた。

 ざばぁぁぁんっ!!

 遠くで水柱が上がる。

 静寂。

 誰も動かない。

 私も動かない。

「……」

「……」

「……」

 気まずかった。

「えっと」

 私は頭を掻く。

「終わった?」

 村人全員が固まっていた。

 やがて。

 一人の老人が震えながら呟く。

「海王様……」

「違う」

 即答した。

 しかし遅かった。

「海王様だ!」

「海王様がおられるぞ!」

「海王様万歳!」

 村人たちが一斉に叫ぶ。

 大歓声だった。

 拍手。

 歓声。

 感謝。

 祭り状態である。

 村長まで土下座した。

「海王様! どうかお許しください!」

「いやだから違う」

「今までの無礼を!」

「聞いて」

「海王様万歳!」

「聞いてって!」

 誰も聞かない。

 ミナも混ざっている。

「海王様すごーい!」

「ミナまで!?」

 ルナは当然のように胸を張っていた。

「最初からそう言っていました」

 確かに言っていた。

 ずっと言っていた。

 だが違う。

 本当に違う。

 私はただの転生者だ。

 少し触角が生えているだけの。

 少し尻尾があるだけの。

 少し脱皮するだけの。

 少し怪物を吹き飛ばせるだけの。

「普通の女の子なのに……」

 誰も信じてくれなかった。

 こうして。

 海辺の少女・海老崎伊織は。

 本人の意思とは無関係に。

 海王様として語られるようになる。

 後に世界中へ広まる海王伝説。

 その始まりは。

 本人の悲痛な叫びからだった。

「違うんだってぇぇぇ!!」


第10話を読んでいただきありがとうございます!


こうして第一部「転生したら伊勢海老だった」は一区切りとなります。

海辺で静かに暮らしたかっただけの伊織でしたが、気付けば邪神扱いされたり、人魚姫に海王様認定されたり、巨大な海魔獣を吹き飛ばしたりと大変なことになってしまいました。

そして最後は村人総出の――

「海王様万歳!」

もちろん本人は全力で否定しています。

ですが残念ながら、勘違いはもう止まりません。

ここから伊織の噂は少しずつ広がり、やがて世界中を巻き込む大騒動へ発展していきます。

次回からは第二部「海辺スローライフ編」へ突入!

新しい仲間、新しい勘違い、そして伊織が目指す理想のスローライフ。

果たして平和な日常は手に入るのでしょうか。


これからも『転生したら伊勢海老だった件 ~人間のつもりなんだけど触角と尻尾が生えてます~』をよろしくお願いします!


面白かったらフォローや★評価、応援コメントをいただけるととても励みになります!

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