表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/24

第8話 海辺の共同生活

第8話です!


海辺で念願のスローライフを始めた伊織。

しかし気付けば、人魚姫ルナと漁師娘ミナが毎日のように遊びに来るようになっていました。

一人でのんびり過ごしたい伊織と、そんなことはお構いなしの二人。

今回は賑やかな日常回です。

少しずつ増えていく仲間たちと、遠ざかっていく理想の一人暮らしをお楽しみください!

それでは、第8話「海辺の共同生活」をどうぞ!

 異世界生活七日目。

 私は重大な問題に直面していた。

「静かじゃない……」

 洞窟の前で膝を抱えながら呟く。

 海風は心地良い。

 景色も綺麗だ。

 魚もたくさんいる。

 理想のスローライフ環境である。

 だが。

「海王様ー!」

「伊織ちゃーん!」

 遠くから騒がしい声が聞こえてきた。

 私は頭を抱えた。

 来た。

 今日も来た。

 毎日来る。

 朝から来る。

 昼も来る。

 夕方までいる。

「おはよう!」

 ミナが元気よく走ってくる。

 その後ろからルナが優雅に歩いてくる。

「おはようございます、海王様」

「だから違うって」

 もはや毎朝の挨拶だった。

 私はため息を吐く。

 ミナは勝手に洞窟へ入った。

「おー!」

「勝手に入らない」

「魚増えてる!」

「話聞いて」

 全然聞いていなかった。

 最近のミナは完全に入り浸っている。

 本人曰く。

「伊織ちゃんの家、面白いから!」

 らしい。

 何が面白いのかは分からない。

 ただの洞窟である。

 家具もない。

 装飾もない。

 魚だけはある。

「海王様、本日は何をなさる予定ですか?」

「魚獲る」

「素晴らしいです」

 ルナが感動している。

 魚を獲るだけで感動される人生は初めてだった。

 私は海へ向かう。

 すると当然のようについてくる二人。

「私も行く!」

「私も同行いたします」

「留守番という選択肢は?」

「ない!」

「ありません」

 即答だった。

 仲良くなったのは良いことだ。

 だが距離感が近い。

 近すぎる。

 私は海へ入った。

 触角が魚の位置を知らせる。

「右かな」

 ばしゃっ。

 魚を捕まえる。

「おおー!」

 ミナが拍手した。

「すごい!」

「毎回見てるよね?」

「でもすごい!」

 キラキラした目だった。

 純粋な子である。

 ルナは違った。

「さすが海王様です」

「違う」

「海を支配する御力」

「魚探知だよ」

「御力です」

 駄目だった。

 全然話が通じない。

 その後も二人はずっとついてきた。

 魚を獲れば歓声。

 貝を見つければ歓声。

 昼寝しようとすれば質問攻め。

「前世って何?」

「秘密」

「触角は伸びる?」

「知らない」

「海王様は何歳ですか?」

「だから海王じゃない」

 静かな時間がない。

 全くない。

 私は木陰へ避難した。

 するとミナも来る。

 ルナも来る。

「海王様、お茶です」

「どこから出したの」

「持参しました」

 準備が良すぎた。

 私はお茶を受け取る。

 正直ありがたい。

「ありがとう」

 ルナの顔がぱっと明るくなる。

「光栄です!」

 反応が重い。

 普通のお礼なのに。

 昼過ぎになるとミナが言った。

「そうだ!」

「ん?」

「家を大きくしよう!」

「なんで?」

「みんなで住めるように!」

 私は固まった。

 嫌な予感しかしない。

「みんなって?」

「私!」

 指差す。

「ルナ!」

 指差す。

「あと友達!」

 増えた。

 勝手に増えた。

「待って」

「ん?」

「私の家だよ?」

「うん!」

「なんで増築するの?」

「楽しそう!」

 理由が雑だった。

 ミナは早速流木を運び始める。

 やる気満々である。

 ルナまで協力している。

「海王様のお屋敷計画ですね」

「洞窟だよ」

「海底神殿にも劣りません」

「洞窟だよ?」

 認識がおかしい。

 二人は楽しそうに作業を始めた。

 私は止める。

 また始める。

 止める。

 また始める。

 全く止まらない。

 夕方には。

 洞窟の前に謎の屋根が完成していた。

「できたー!」

 ミナが誇らしげに胸を張る。

「何これ」

「食堂!」

「作ってない」

「集会所!」

「聞いて」

「海王神殿の一部ですね」

「やめて」

 どんどん話が大きくなる。

 私は頭痛を覚えた。

 その時。

 触角がぴくりと反応した。

 人の気配。

 また増えた。

「え?」

 遠くを見る。

 浜辺を数人の子供たちが歩いていた。

 先頭にはミナの姿。

 いや違う。

 ミナが手を振っている。

 後ろに別の子供たちがいた。

「連れてきた!」

 元気な声が響く。

 私は嫌な予感しかしない。

「何を?」

「友達!」

「なんで!?」

 子供たちが次々と集まってくる。

 洞窟前が一気に賑やかになった。

「ここが邪神の家?」

「違うよ!」

「海王様いるの?」

「いるよ!」

「違うよ!」

 誰も話を聞いていなかった。

 洞窟前はお祭り状態だった。

 走り回る子供たち。

 魚を焼くルナ。

 騒ぐミナ。

 私は呆然と立ち尽くす。

 確かに。

 友達ができたのは嬉しい。

 人と話せるのも楽しい。

 でも。

 私が欲しかったのは。

 もっとこう。

 静かで。

 穏やかで。

 のんびりした生活だったはずだ。

「伊織ちゃん!」

「海王様!」

「魚焼けたー!」

「遊ぼう!」

「触角触らせて!」

 四方八方から声が飛んでくる。

 私は天を仰いだ。

 そして。

「帰れーーーっ!!」

 海辺に絶叫が響き渡った。

 だが。

 誰一人帰らなかった。

 むしろ。

「あははは!」

「海王様が照れてます!」

「違うってば!」

 さらに騒がしくなるだけだった。

 こうして私の理想のスローライフは、本人の意思を完全に無視して、どんどん賑やかな方向へ進んでいくのであった。


第8話を読んでいただきありがとうございます!


伊織の海辺の家が、いつの間にかたまり場になってしまいました。

本人は静かなスローライフを望んでいるのですが、ルナとミナは完全に居着く気満々です。

こうして見ると、伊織は面倒ごとを嫌がる割に放っておけない性格なのかもしれません。

そして気付けば、異世界での生活も少しずつ「一人」ではなくなってきました。

次回は第9話「初めての脱皮」。

伊織の体に異変が発生します。

伊勢海老要素がついに本領発揮(?)する回となりますので、お楽しみに!

面白かったらフォローや★評価、応援コメントをいただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ