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第32話 転生者同士の対立

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回、新たな転生者・黒崎レオンが登場しました。


元ゲーマーで、超合理主義者。


海王ブランドをきっかけに伊織の存在を知った彼は、この世界を「攻略すべき盤面」のように見ているようです。


そして今回は、そんなレオンが転生者たちに接触します。


勇者・和也。

賢者・アリサ。

商人・大輔。


それぞれの価値観と、レオンの「この世界は管理されるべきだ」という思想がぶつかり始めます。


第32話「転生者同士の対立」、どうぞお楽しみください!


黒崎レオン。

その名前を初めて聞いた時、私は正直あまり興味がなかった。

新しい転生者。

元ゲーマー。

超合理主義。

世界を支配するとか何とか言っているらしい。

普通なら大問題なのかもしれない。

でも私にとっては、朝ごはんの焼き魚が焦げるかどうかの方が大事だった。

「伊織ちゃーん!」

家の外からミナの声が聞こえた。

私は焼き魚を皿に乗せながら返事をする。

「なにー?」

「なんか転生者同盟が騒がしいよ!」

「いつも騒がしいよ」

「今日はいつもより騒がしい!」

それは困る。

いつもより騒がしいということは、かなり騒がしいということだ。

私は朝ごはんを持ったまま外へ出た。

すると、温泉街の方から人々の声が聞こえてくる。

商人たちが慌ただしく走り回り、観光客も何事かと集まっていた。

「何があったの?」

「黒崎レオンって人が来てるんだって」

「へぇ」

「反応うすっ」

ミナが笑った。

だって知らない人だし。

私は焼き魚を食べる。

うん。

今日は焦げていない。

勝ちである。

その頃、転生者同盟本部では大変なことになっていた。

私が行った時には、すでに和也、アリサ、大輔が揃っていた。

そしてその向かいに、黒い服を着た青年が座っている。

黒髪。

鋭い目。

落ち着いた表情。

彼が黒崎レオンらしい。

見た目だけなら静かな人に見える。

ただ、その目が少し怖かった。

人を見るというより、盤面を見ているような目だった。

「君が海老崎伊織か」

レオンは私を見た。

「うん」

「海王と呼ばれている転生者」

「呼ばれてるだけ」

「海老型転生者」

「言い方」

「面白い存在だ」

面白くない。

全然面白くない。

私は焼き魚の残りを食べながら席に座った。

するとルナもやってくる。

「海王様!」

「おはよう」

「この方が新たな転生者ですか?」

「たぶん」

ルナはレオンを見た。

レオンもルナを見る。

そして一言。

「人魚王国の姫か。利用価値がある」

「初対面で言うことじゃないよ?」

私は思わず突っ込んだ。

ルナはきょとんとしている。

たぶん意味が分かっていない。

和也が立ち上がった。

「黒崎レオン」

声が低い。

珍しく勇者っぽい。

「お前は何をしに来た?」

レオンは静かに答えた。

「確認だ」

「確認?」

「転生者たちが、この世界をどう扱うつもりなのか」

会議室が静まり返った。

大輔は腕を組む。

アリサは眼鏡を押し上げる。

私は帰りたくなった。

こういう空気は苦手だ。

「この世界は非効率だ」

レオンは淡々と言った。

「国家間の争い。魔物の被害。貧困。流通の遅れ。技術格差。無駄が多すぎる」

「だから?」

和也が聞く。

「管理されるべきだ」

レオンは言った。

「強い者が正しく管理すれば、世界はもっと効率的になる」

その言葉に、和也の表情が険しくなった。

「管理って何だ」

「統治だ」

「支配じゃないのか?」

「言葉の違いだ」

「違う」

和也ははっきり言った。

「人は誰かに管理されるために生きているわけじゃない」

レオンは少しだけ笑う。

「勇者らしい理想論だな」

「理想でいい」

和也は拳を握った。

「俺は、この世界の人たちが自分で選べる未来を守る」

「非効率だ」

「効率だけで人を語るな」

おお。

勇者だ。

ちゃんと勇者している。

魚釣りを海王流剣術とか言い出す人と同一人物とは思えない。

しかしレオンはまったく動じなかった。

「君の魔王討伐も同じだ。世界平和という名の力による介入だろう」

「違う!」

「違わない。君も力で世界を変えようとしている」

和也が黙った。

会議室の空気が重くなる。

私はそっと焼き魚の骨を皿に置いた。

帰りたい。

次にレオンはアリサを見た。

「九条アリサ」

「はい」

「君は魔法革命を目指しているそうだな」

「その通りです」

アリサは冷静に答えた。

「この世界の魔法体系は未整理です。研究によって文明は進歩します」

「研究は管理下に置くべきだ」

レオンが言った。

アリサの眉がぴくりと動く。

「どういう意味ですか?」

「危険な研究は制限する。魔法技術は中央管理し、許可制にする。知識は選ばれた者だけが扱うべきだ」

「最悪ですね」

アリサが即答した。

早かった。

とても早かった。

「知識を独占すれば進歩は止まります」

「無秩序な知識は混乱を生む」

「管理された研究は腐ります」

「暴走した研究は世界を壊す」

二人の視線がぶつかった。

静かな対立だった。

剣を抜いていないのに、和也の時より怖い。

アリサは本を閉じた。

「私は研究者です」

「知っている」

「未知を調べるために生きています」

「だから危険だ」

「危険だからこそ調べるんです」

アリサは珍しく強い口調だった。

「分からないものを分からないまま封じる方が危険です」

「君は好奇心を正義だと思っている」

「あなたは管理を正義だと思っている」

「そうだ」

「では相容れませんね」

アリサの眼鏡が光った。

怖い。

すごく怖い。

レオンは次に大輔を見た。

「橘大輔」

「はい」

大輔は穏やかな笑みを浮かべている。

だが、目は笑っていなかった。

商人の顔だ。

「君の商会は急速に成長している」

「おかげさまで」

「海王ブランド。温泉街。保存食。物流網。よくできている」

「ありがとうございます」

「だが無駄が多い」

大輔の笑顔が少し固まった。

「ほう」

「市場に任せるから無駄が出る。価格差、競争、交渉、在庫、輸送。その全てを統一管理すれば利益率は上がる」

「なるほど」

大輔は静かに頷いた。

「つまりあなたは、商業を一つの意思で支配したいと」

「そうだ」

「それは商売ではありません」

大輔は笑顔のまま言った。

「それはただの独占です」

「独占は悪ではない。効率的だ」

「短期的には、ですね」

「長期的にもだ」

「違います」

大輔は机に指を置く。

「商売は人の欲望で動きます」

「だから管理する」

「いいえ。欲望があるから市場は広がる」

大輔の声は落ち着いていた。

しかし、いつもの軽さはない。

「誰か一人の計算で全てを決めれば、一時的には整うでしょう」

「その方が安定する」

「ですが、人は予想外のものを欲しがります」

大輔は私の方をちらりと見た。

なぜ見る。

「例えば、海老の触角を持った少女の顔が描かれた干物が売れるなんて、普通は誰も予想しません」

「それは例としてどうなの?」

私は突っ込んだ。

大輔は無視した。

「市場は不合理だからこそ面白い。そして不合理だからこそ伸びる」

レオンは表情を変えない。

「感情論だな」

「商売とは感情を扱う仕事です」

大輔は笑った。

「あなたとは相性が悪そうだ」

「同感だ」

三人との話が終わり、最後にレオンは私を見た。

嫌だ。

すごく嫌だ。

絶対に面倒なことを言われる。

「海老崎伊織」

「はい」

「君の目的は何だ?」

「昼寝」

即答だった。

沈黙。

レオンは少しだけ目を細めた。

「冗談か?」

「本気」

「世界を変える力を持っているのに?」

「持ってないよ」

「君は既に変えている」

嫌な言い方だった。

私は首を傾げる。

「変えたつもりないんだけど」

「温泉街を作り、村を発展させ、海王ブランドを生み、人魚王国と繋がり、転生者たちを集めた」

「ほとんど勝手にそうなったんだけど」

「結果が全てだ」

結果が全て。

その言葉は少し嫌だった。

確かに、私が何を思っていたとしても、周囲は変わった。

村は発展した。

人が増えた。

転生者も集まった。

でも。

「私は静かに暮らしたいだけだよ」

そう言うと、レオンは少し笑った。

「それが一番危険だ」

「え?」

「自覚なく世界を変える者が、一番予測不能だ」

褒められている気はしなかった。

むしろ、警戒されている。

そんな感じだった。

「君は管理不能だ」

「管理されたくないし」

「だから厄介だ」

「こっちのセリフなんだけど」

私はため息を吐いた。

周りを見る。

和也は怒っている。

アリサは警戒している。

大輔は計算している。

ルナはよく分かっていない。

ミナは入口で見物している。

全員、方向性がばらばらだった。

レオンは立ち上がった。

「結論は出た」

「何の?」

和也が聞く。

「君たちは世界を正しく導けない」

会議室の空気が冷えた。

「勇者は理想に走る」

和也が睨む。

「賢者は知識に溺れる」

アリサの目が細くなる。

「商人は利益に流される」

大輔の笑顔が消える。

「そして海王は無自覚に世界を乱す」

「乱してない」

私は一応否定した。

でも誰も聞いていない。

レオンは扉へ向かって歩き出す。

「ならば俺が管理する」

「待て!」

和也が叫んだ。

レオンは振り返る。

「勇者」

「そんなことはさせない」

「止められるなら止めてみろ」

一瞬。

空気が張り詰めた。

和也の手が剣に伸びる。

アリサの周囲に魔力が集まる。

大輔が護衛に目配せする。

まずい。

これはまずい。

私は慌てて立ち上がった。

「待って待って!」

全員が私を見る。

「ここで暴れたら建物壊れるから!」

理由はそこだった。

大事である。

この会議室、温泉街の中にある。

壊れたら面倒だ。

修理とか、謝罪とか、また私のせいになる。

絶対に嫌だ。

レオンは私を見て、少しだけ笑った。

「やはり面白い」

「面白くない」

「今日はここまでにしておく」

そう言って、彼は去っていった。

残された会議室は静かだった。

和也が拳を握る。

「海王様」

「なに?」

「あいつは危険です」

アリサも頷く。

「思想が危険ですね」

大輔も腕を組む。

「放置すれば商圏にも影響が出るでしょう」

私は椅子に座り直した。

疲れた。

ものすごく疲れた。

「みんなで仲良くすればいいのに」

本音だった。

しかし三人は真剣だった。

「それができない相手もいます」

和也が言った。

アリサも続ける。

「彼は他者を駒として見ています」

大輔も頷く。

「合理的すぎる人間は、時に非合理な人間を切り捨てます」

私は黙った。

何となく分かる。

レオンの目は、たしかにそういう目だった。

人ではなく。

配置。

効率。

勝利条件。

そういうものを見ている目。

その日の夜。

私は家へ帰った。

相変わらず家の周りは観光地だった。

でも、いつもより少し静かに感じた。

たぶん私の気分の問題だ。

布団に入る。

触角がぴくりと動いた。

海の向こう。

遠くで何かが動いている気がする。

船。

人。

それから、もっと大きな流れ。

私は布団を被った。

「面倒なことにならないといいなぁ……」

しかし。

嫌な予感は当たる。

翌朝。

王都から知らせが届いた。

黒崎レオンが、複数の貴族と商会を取り込み始めたという。

そして彼は宣言したらしい。

『非効率な転生者同盟に、世界の未来は任せられない』

それは。

転生者同士の対立が、はっきり形になった瞬間だった。


第32話をお読みいただきありがとうございました!


今回は黒崎レオンが本格的に転生者たちと接触する回でした。


勇者・和也は、自由と人々の意思を守ろうとする立場。


賢者・アリサは、知識と研究の自由を重視する立場。


商人・大輔は、市場や商売の自由を大切にする立場。


そしてレオンは、世界を効率よく管理すべきだと考える立場です。


同じ転生者でありながら、目指す未来はまったく違います。


これまで伊織の周囲では、勘違いや暴走はあっても、どこかコメディとしてまとまっていました。


しかしレオンの登場によって、転生者同士の価値観のズレがはっきり表に出てきました。


もちろん伊織本人は、相変わらず「帰りたい」「昼寝したい」「関わりたくない」だけです。


ただ、その無自覚さこそがレオンにとっては一番読めない存在なのかもしれません。


ラストでは、レオンが貴族や商会を取り込み始め、対立がいよいよ形になってきました。


次回、第33話「転生者戦争勃発」。


各勢力の衝突が始まり、海辺の村にも大きな混乱が押し寄せます。


引き続きよろしくお願いいたします!

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