第31話 新たな転生者
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回、第30話ではついに伊織のスローライフが完全崩壊しました。
家の前には行列。
サイン会は開催。
観光地化は止まらず。
本人は静かに暮らしたいだけなのに、周囲の盛り上がりは加速する一方です。
そして今回から、第三部後半へ入ります。
新たに登場する転生者の名は、黒崎レオン。
元ゲーマーで、超合理主義者。
勇者、賢者、商人とはまた違った価値観を持つ彼が、伊織たちの前に現れます。
第31話「新たな転生者」、どうぞお楽しみください!
朝。
私は家の窓を開けた。
「今日こそ静かだといいな……」
そんな淡い期待は、一秒で砕け散った。
「海王様ー!」
「おはようございます!」
「サインお願いします!」
「触角が動いたぞ!」
今日も家の前には長蛇の列。
観光客たちが朝から元気だった。
私は静かに窓を閉める。
「引っ越そうかな……」
本気だった。
その時。
どんどんどん!
「海王様!」
和也だった。
「今開けるよ……」
扉を開く。
和也は珍しく真剣な顔をしていた。
「転生者同盟に連絡が入りました」
「また?」
「新しい転生者が見つかったそうです」
私はため息をつく。
「また増えるの?」
「はい!」
全然嬉しくなかった。
その頃。
王都。
巨大な商業都市の中央。
一人の青年が市場を歩いていた。
黒髪。
黒いロングコート。
鋭い目。
年齢は二十歳前後。
彼は露店の前で足を止める。
そこに並んでいたのは。
『海王ブランド干物』
『海王ブランド燻製』
『海王ブランド塩』
そして。
大きく描かれた白髪の少女。
青年は商品を手に取った。
「海王様……?」
小さく呟く。
店主が笑顔で話しかけた。
「お客さん、知らないのかい?」
「有名なのか?」
「今一番有名さ!」
店主は身振り手振りを交えながら話す。
「海を豊かにして!」
「温泉を掘って!」
「村を大発展させた英雄だ!」
青年は黙って聞いていた。
そして包装紙を見つめる。
「……転生者か」
誰にも聞こえない声だった。
店主は気付かない。
青年だけが静かに笑った。
「ようやく見つけた」
場面は戻る。
海辺。
転生者同盟本部。
勇者、賢者、商人。
そして私。
また集められていた。
「新しい転生者についてです」
大輔が資料を広げる。
私は眠い。
非常に眠い。
「王都で目撃情報がありました」
アリサが地図へ印を付ける。
「複数の商会を利用しています」
和也が腕を組む。
「敵なのか?」
「まだ分かりません」
私は手を挙げた。
「帰っていい?」
「駄目です」
全員に止められた。
どうして。
大輔が続ける。
「名前だけ判明しています」
紙を一枚めくる。
そこには。
黒崎レオン
そう書かれていた。
「元転生者の可能性が高いです」
アリサが頷く。
「能力は不明」
「目的も不明」
和也は拳を握った。
「会ってみたいですね」
私は思った。
会いたくない。
絶対に面倒だから。
その日の夕方。
海辺の村。
一隻の船が港へ入る。
豪華でもない。
質素でもない。
目立たない船だった。
そこから一人の青年が降りる。
黒崎レオン。
彼は村を見回した。
温泉街。
市場。
宿屋。
観光客。
海王ブランド。
全てを一瞥する。
「予想以上だ」
誰にも聞こえない声。
彼は市場を歩く。
露店を見る。
商品を見る。
価格を見る。
人の流れを見る。
宿屋の稼働率を見る。
まるでゲーム画面でも分析するように。
無駄なく。
正確に。
そして。
「効率が良い」
ぽつりと呟く。
「だが、まだ甘い」
そのまま歩く。
誰も彼を止めない。
誰も気付かない。
やがて。
彼は私の家の前までやって来た。
そこでは今日も観光客が列を作っていた。
「海王様ー!」
「サインください!」
私はぐったりしていた。
机に突っ伏している。
「次の方どうぞー」
完全に流れ作業だった。
レオンはその様子を静かに眺める。
「なるほど」
小さく笑う。
「象徴を利用しているのか」
私は気付かない。
観光客も気付かない。
レオンは一枚の紙を取り出した。
そこには世界地図。
各地に細かな印が付いている。
王都。
魔族領。
エルフの森。
人魚王国。
海辺の村。
全てが線で結ばれていた。
「まず一人」
レオンは海辺の村を丸で囲む。
「次に勇者」
さらに印を付ける。
「賢者」
「商人」
そして。
最後に私の家を見つめた。
「海王か」
口元がゆっくりと歪む。
「利用価値はある」
その目には。
和也のような熱意も。
アリサのような好奇心も。
大輔のような商売人の笑顔もなかった。
ただ。
勝利だけを目指す。
ゲームプレイヤーのような冷たい視線だった。
彼は静かに背を向ける。
そして誰にも聞こえない声で呟く。
「この世界はゲームと同じだ」
「勝つために必要なのは」
「効率だけ」
夕日が黒い影を長く伸ばす。
新たな転生者。
黒崎レオン。
彼の目的は。
勇者とも。
賢者とも。
商人とも違っていた。
「世界を支配する」
静かなその一言だけが。
夕暮れの海へ溶けていった。
第31話をお読みいただきありがとうございました!
今回は新たな転生者、黒崎レオンの登場回でした。
これまで登場した転生者たちは、
勇者・神代和也。
賢者・九条アリサ。
商人・橘大輔。
それぞれ目的や価値観は違っていても、どこか伊織の周囲に巻き込まれていく存在でした。
しかし今回のレオンは、少し雰囲気が違います。
元ゲーマー。
超合理主義。
そして「世界を支配する」という目的。
彼はこの世界を、人々が生きる場所というより、攻略すべき盤面として見ているようです。
海王ブランドをきっかけに伊織の存在を知ったレオンが、今後どのように転生者たちと関わっていくのか。
そして伊織の平穏な生活は、さらに遠のいていくのか。
次回、第32話「転生者同士の対立」。
レオンが各転生者に接触し、それぞれの価値観がぶつかり始めます。
引き続きよろしくお願いいたします!




