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第3話 海辺のマイホーム計画

第3話です!


村を追い出されてしまった伊織ですが、落ち込んではいません。

なぜなら、もともとの目標は「海辺でのんびり暮らすこと」だからです。


今回は記念すべきスローライフ開始回。

異世界生活らしい自給自足と、伊織らしいマイペースな日常をお楽しみください。


それでは、第3話「海辺のマイホーム計画」どうぞ!

 村を追い出された。

 異世界生活二日目にして追放である。

「理不尽じゃない?」

 私は海辺を歩きながらため息を吐いた。

 何度思い返しても納得できない。

 私はただ道を聞きたかっただけだ。

 なのに村人たちは勝手に怯え、勝手に騒ぎ、勝手に追い出した。

「ただの女の子なんだけどなぁ」

 そう呟きながら自分の触角を触る。

 うん。

 普通ではない。

 だが人間部分の方が圧倒的に多い。

 だからセーフだと思う。

 たぶん。

 私は海を見渡した。

 青い空。

 白い砂浜。

 穏やかな波。

 景色だけなら最高である。

「まあいいか」

 私は気持ちを切り替えた。

 村に入れないなら海辺で暮らせばいい。

 元々そのつもりだったのだ。

 むしろ面倒な人付き合いが減ったと思えば悪くない。

「今日の目標は家作り!」

 私は元気よく宣言した。

 もちろん家作りの知識はゼロである。

 だが何とかなるだろう。

 異世界だし。

 たぶん。

 私は浜辺を歩き回った。

 まずは拠点探しである。

 雨風をしのげる場所が欲しい。

 しばらく歩くと小さな崖を発見した。

 その下には浅い洞窟がある。

「おお」

 私は目を輝かせた。

 天然のシェルターだ。

 中へ入る。

 広さは六畳くらい。

 乾いている。

 海も近い。

 最高である。

「ここに住もう」

 異世界生活三日目。

 新居が決定した。

 早い。

 ものすごく早い。

 私は洞窟の中で満足そうに頷いた。

「マイホーム完成!」

 まだ何も作っていない。

 だが細かいことは気にしない。

 家とは気持ちの問題なのだ。

 たぶん。

 次は食料である。

 昨日獲った魚はもう食べてしまった。

 新しい食料を確保しなければならない。

 私は海へ向かった。

 すると触角がぴくぴく動き始める。

「今日も元気だね」

 最近気付いたのだが、この触角は本当に便利だった。

 危険だけでなく、生き物の気配まで何となく分かる。

 魚がどこにいるかも察知できるのだ。

「レーダーみたい」

 私は浅瀬へ足を踏み入れた。

 触角が左を向く。

 私はそちらへ手を伸ばす。

 ばしゃっ。

「いた」

 魚が捕れた。

 一発だった。

「すごい」

 自分でも驚く。

 もう一度やる。

 ばしゃっ。

「また捕れた」

 三回目。

 ばしゃっ。

「まただ」

 私は魚を見つめた。

「もしかして私、漁師向いてる?」

 前世ではパソコンしか触っていなかった。

 それが今では素手で魚を乱獲している。

 人生とは分からないものである。

 十分ほどで大量の魚が集まった。

 夕食には困らない。

 むしろ食べ切れない。

「豊漁だー」

 私は上機嫌で魚を抱えた。

 その頃。

 アクア村では別の意味で大騒ぎになっていた。

「監視はどうなっている!?」

 村長が叫ぶ。

 広場には数人の村人が集まっていた。

 全員顔色が悪い。

「海岸で魚を獲っています」

「何匹だ?」

「二十匹以上です」

 村長の顔が引きつった。

「なんだと……」

 村人たちも震える。

 邪神の眷属。

 あるいは邪神の王族。

 その存在が海を支配している。

 そう考えれば恐ろしい光景だった。

「海の生物を従えているのか」

「恐ろしい」

「やはり災厄だ」

 完全な誤解である。

 実際には素手で捕まえているだけだった。

 一方その頃。

「火が欲しい」

 私は現実的な問題に直面していた。

 魚はある。

 家もある。

 だが火がない。

 生魚ばかりでは飽きる。

「どうしよう」

 私は流木を集めた。

 石も集めた。

 そして挑戦する。

 カン。

 カン。

 カン。

「出ない」

 火花すら出ない。

 知識だけで火起こしは難しかった。

「文明って偉大だったんだなぁ」

 私は遠い目をした。

 その時だった。

 触角がぴくりと反応する。

 危険ではない。

 何か別の感覚だ。

「ん?」

 私は周囲を見回した。

 誰もいない。

 しかし何となく視線を感じる。

 崖の上だ。

 そこに何かいる気がした。

「動物かな?」

 だが見つからない。

 首を傾げながら作業へ戻る。

 もちろん伊織は知らない。

 崖の上でゆのあが震えながら観察していることを。

「やっぱり……」

 ゆのあは青ざめていた。

 邪神の王族は洞窟を根城にした。

 海の魚を大量に捕獲した。

 さらに何かの儀式まで始めている。

 村人目線では完全に危険人物である。

「村長に報告しないと……」

 ゆのあは全力で村へ駆け出した。

 一方。

「うーん」

 私は流木を見つめていた。

「火が欲しい」

 切実だった。

 魚も焼きたい。

 暖も取りたい。

 生活レベルを上げたい。

「誰か火の起こし方教えてくれないかな」

 そう呟いた瞬間。

 触角がぴくりと反応した。

 今までで一番強い反応だった。

「え?」

 私は顔を上げる。

 森の奥。

 何かが近付いてくる。

 人だろうか。

 それとも魔物だろうか。

 触角は警戒を促していた。

 異世界で初めて訪れる本当の危機が、すぐそこまで迫っていた。


第3話を読んでいただきありがとうございます!


邪神扱いされて村を追い出された結果、むしろ理想のスローライフに近付いてしまった伊織でした。


触角レーダーのおかげで魚が簡単に獲れるため、本人はかなり満足しています。

ただし、平穏な生活は長く続かないのがお約束。


次回は第4話「触角レーダー便利すぎ問題」。

伊織自身も知らなかった能力の正体が少しずつ明らかになります。


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