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第2話 邪神の眷属

第2話です!


異世界転生したものの、海辺でのんびり暮らしたい伊織。

しかし世間はそう簡単に放っておいてくれません。


今回は「邪神ロブスター」という不穏な伝説が登場します。

本人はただの女の子のつもりなのですが、周囲の評価はどんどんおかしな方向へ……。


それでは、第2話「邪神の眷属」をお楽しみください!

 異世界に転生して二日目。

 私は海辺を歩いていた。

 昨日は触角が生えていることが発覚し、さらに伊勢海老の尻尾まで付いていることが判明した。

 正直意味が分からない。

 だが悩んでも仕方ない。

 生きていくしかないのだ。

「まずは人を探そう」

 海で魚は獲れる。

 水も見つかるだろう。

 しかし異世界の常識は分からない。

 このまま一人で暮らすのは不安だった。

 そんなことを考えながら海岸線を歩いていると、遠くに煙が見えた。

「あ」

 思わず声が漏れる。

 人工的な煙だ。

 つまり人がいる。

「村かな?」

 私は少しだけ足を速めた。

 異世界初の人類との遭遇である。

 少しくらい歓迎してくれるだろう。

 そう思っていた。

 その頃。

 近くにある漁村アクア村では大騒ぎになっていた。

「た、大変です!」

 村の広場に飛び込んできたのは、見張り役の少女ゆのあだった。

 息を切らしながら叫ぶ。

「海岸に出ました!」

「何がだ?」

 村長が尋ねる。

 ゆのあは震える指を海へ向けた。

「邪神の眷属です!」

 その瞬間、広場が静まり返った。

 邪神ロブスター。

 それはこの地方に伝わる伝説だった。

 かつて世界を海の底へ沈めかけた災厄の神。

 その眷属には特徴がある。

 赤い触角。

 赤い甲殻。

 血のような瞳。

 それを見た者には不幸が訪れるという。

「見間違いではないのか?」

「違います!」

 ゆのあは即答した。

「赤い触角がありました!」

「尻尾もありました!」

 村人たちの顔が青くなる。

「終わった……」

「村が滅ぶ……」

「せっかく豊漁だったのに……」

 最後だけ妙に現実的だった。

 村長も青ざめる。

 だが村長として逃げるわけにはいかない。

「総員警戒!」

 鐘が鳴る。

 村中が慌ただしく動き始めた。

 一方その頃。

「おおー」

 私は村を発見して感動していた。

 木造の家々。

 港。

 漁船。

 間違いなく人の住む場所だ。

「文明って素晴らしい」

 思わず呟く。

 昨日まで都会にいた人間が言う言葉ではない。

 私は上機嫌で村へ近付いた。

 そして門の近くにいた見張りの男へ手を振る。

「こんにちはー」

 男は固まった。

 数秒後。

 顔面蒼白になる。

「ひっ」

 嫌な反応だった。

 次の瞬間。

「邪神の眷属だぁぁぁぁぁ!!」

 絶叫。

 鐘。

 悲鳴。

 犬の鳴き声。

 村が大混乱になった。

「え?」

 私は立ち尽くした。

 意味が分からない。

 家の窓が閉まる。

 子供が泣く。

 老人が祈る。

 完全に非常事態である。

「え、私そんな怖い?」

 触角を触る。

 尻尾も確認する。

 確かに普通ではない。

 だがそこまでだろうか。

 やがて武器を持った村人たちが集まってきた。

 槍。

 斧。

 弓。

 だが誰も前に出ない。

 全員震えている。

「いやあの」

 私は困った。

「私、道聞きたいだけなんだけど」

 ざわっ。

 村人たちが騒ぎ始める。

「人語を話したぞ」

「知能が高い!」

「上位個体だ!」

 勝手に評価が上がった。

「違う違う違う!」

 私は慌てる。

「普通の人間だから!」

 しかし誰も信じない。

 むしろさらに距離を取られた。

 悲しい。

 かなり悲しい。

 その時、人垣が割れた。

 一人の老人が前へ出てくる。

 白い髭を蓄えた村長だった。

 村長は震えながらも杖を向ける。

「災厄を呼ぶ者よ」

「え?」

「我らの村に何の用だ」

「道聞きたいだけなんだけど」

 村長は険しい顔になる。

「つまり侵略の下見か」

「違うよ!?」

 なんでそうなる。

 私は全力で否定した。

「私は海辺で暮らしたいだけ!」

「戦争とか興味ないから!」

「昼寝したいだけだから!」

 村人たちがざわつく。

「恐ろしい……」

「余裕があるぞ……」

「我々など眼中にないということか」

 全然違う。

 私は頭を抱えたくなった。

 会話が成立していない。

 村長は杖を強く握る。

「災厄を呼ぶ者よ!」

「ただの女の子なんだけど!?」

 私の叫びが村中へ響いた。

 しかし状況は変わらない。

 結局、一時間近く話し合った結果。

 誰も私を信じなかった。

「申し訳ないが」

 村長が言う。

「この村へ入れるわけにはいかん」

「えぇ……」

「立ち去ってくれ」

 私は肩を落とした。

 せっかく人を見つけたのに。

 宿も食事も情報も全部なくなった。

「分かったよ……」

 私は諦めて村を離れる。

 背後では村人たちがほっとした顔をしていた。

 少し傷付いた。

「異世界人冷たくない?」

 そんな愚痴をこぼしながら海辺へ戻る。

 まあいい。

 魚はいる。

 海も綺麗だ。

 スローライフは続けられる。

「よし」

 私は前を向いた。

「海辺生活続行!」

 その頃。

 村長は村の資料庫へ向かっていた。

 古い禁書を取り出す。

 震える手でページをめくる。

 そこには一枚の壁画が描かれていた。

 赤い触角。

 赤い尻尾。

 白い髪。

 そして壁画の下には古代文字が刻まれている。

 村長の顔から血の気が引いた。

「そんな……」

 かすれた声が漏れる。

「眷属ではない……」

 壁画に描かれていた姿は、今日見た少女と完全に一致していた。

 村長は震えながら呟く。

「邪神ロブスターの王族……だと……?」

 アクア村に、新たな恐怖が広がり始めていた。


第2話を読んでいただきありがとうございます!


ついに伊織が村へ向かいましたが、まさかの邪神扱いでした。

本人からすると完全に風評被害です。


この作品は「本人はスローライフしたいのに、周囲だけが勝手に伝説を作っていく」という勘違いコメディを目指しています。


次回は第3話「海辺のマイホーム計画」。

追い出された伊織が、ついに理想のスローライフ実現へ向けて動き出します。


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