第1話 転生したら触角と尻尾が生えていた
新連載です!
海辺でのんびり暮らしたいだけの主人公が、なぜか「とんでもない存在」と勘違いされていく異世界スローライフコメディです。
転生したら美少女になっていたけど、なぜか触角と伊勢海老の尻尾付き。
本人は人間のつもりです。
よろしくお願いします!
それでは第1話をどうぞ。
そう思った次の瞬間、頬に何か柔らかい感触が触れた。
さらさらとした風。耳に届く波の音。鼻をくすぐる潮の香り。
私はゆっくりと目を開いた。
「……ん?」
真っ青な空が広がっている。
白い雲が流れ、その下にはどこまでも続く海。そして、私が寝転がっている砂浜。
しばらくぼんやりと景色を眺めたあと、私はゆっくりと上半身を起こした。
「ここ……どこ?」
見知らぬ場所だった。
海水浴場でもなさそうだ。人の姿は見えないし、建物も道路もない。聞こえるのは波の音だけ。
私は記憶を辿る。
確か会社帰りだった。
いつも通り仕事を終えて、駅から家へ向かっていた。
そして――。
「あ」
思い出した。
横断歩道。
急ブレーキの音。
目の前に迫る大型トラック。
そこで記憶が途切れている。
「私、死んだ?」
口から自然とそんな言葉が出た。
いや、たぶん死んでいる。
あんな事故で無事なはずがない。
私は恐る恐る自分の体を確認した。
手も足も動く。
痛覚もある。
健康そのものだ。
「夢じゃないよね……?」
腕をつねる。
普通に痛い。
「痛いなぁ……」
ということは夢ではない。
すると、一つの可能性が浮かび上がってくる。
「もしかして……異世界転生?」
口に出してみる。
そして思わず納得してしまった。
事故で死亡。
知らない場所で目覚める。
しかも若返っている気がする。
ネット小説で何度も見た展開そのものだった。
「おお……異世界転生かぁ」
ちょっとテンションが上がる。
前世では平凡な会社員だった。
毎朝起きて仕事へ行き、疲れて帰宅して寝るだけの日々。
特別な才能もなかった。
だからこそ、第二の人生には少し期待してしまう。
「魔法とかあるのかな」
わくわくしながら立ち上がる。
その瞬間だった。
ぶにょん。
「……ん?」
頭の上で何かが揺れた。
私は首を傾げる。
気のせいかと思った。
しかし再び動く。
ぶにょん。
「え?」
恐る恐る頭へ手を伸ばした。
そして固まる。
「なにこれ」
長い。
二本ある。
しかも動いている。
自分の意思とは関係なく、ゆらゆらと揺れている。
「え?」
私は反対の手でも触る。
間違いない。
頭から何かが生えている。
「ちょっと待って」
引っ張ってみた。
「いたっ!」
めちゃくちゃ痛い。
つまり私の体の一部だ。
「いやいやいやいや」
再び触る。
細長い。
赤い。
二本ある。
どう見ても。
「触角じゃん!」
叫んだ。
誰もいない浜辺に私の声が響く。
「なんで!?」
異世界転生はいい。
分かる。
よくある。
でも触角は聞いてない。
私はしばらく頭を抱えた。
その時だった。
触角がぴくりと動く。
妙な違和感が走った。
反射的に一歩横へ飛ぶ。
直後。
ドサッ!
私が立っていた場所に大きなヤシの実が落下した。
「うわっ!?」
心臓が跳ねる。
あと一歩遅れていたら直撃だった。
私はヤシの実と自分の触角を交互に見た。
「今……分かった?」
危険が来ると分かった。
見たわけじゃない。
聞いたわけでもない。
なのに察知できた。
まるでレーダーみたいに。
「え、すごくない?」
さっきまで嫌だった触角の評価が急上昇する。
さらに試してみる。
浜辺を歩く。
すると触角が反応した。
私は反射的に足を止める。
その直後、砂の中から大きなカニが飛び出してきた。
「本当に危険察知だ」
チート能力だった。
私は少し機嫌を直した。
見た目は変だが便利である。
問題は――。
「なんか後ろ重いな」
さっきから気になっていた。
腰の辺りに違和感がある。
私は恐る恐る後ろへ手を回した。
触れた瞬間、嫌な予感しかしなかった。
硬い。
節がある。
しかも大きい。
「まさか……」
確認する。
そして。
「ある」
固まった。
巨大な尻尾が生えていた。
赤い甲殻。
立派な節。
どう見ても。
「伊勢海老じゃん!!」
再び浜辺に絶叫が響いた。
私はその場に崩れ落ちた。
触角だけならまだいい。
でも尻尾まで付いている。
しかも伊勢海老。
なぜだ。
転生担当の神様は何を考えていた。
「いや、人間だよね私」
手を見る。
人間。
足を見る。
人間。
胸を撫で下ろす。
人間。
でも触角と尻尾だけ伊勢海老。
意味が分からない。
「鏡……鏡が欲しい」
私は海辺へ向かった。
波の穏やかな場所を探し、水面を覗き込む。
そこには白髪の少女が映っていた。
赤い瞳。
整った顔立ち。
年齢は十五歳くらいだろうか。
かなり可愛い。
たぶん美少女の部類だと思う。
しかし。
頭には長い触角。
腰には伊勢海老の尻尾。
「ほんとに生えてる……」
現実だった。
私は深いため息を吐いた。
数分ほど悩み続けた結果、一つの結論に達する。
「まあ、いっか」
死んだはずなのに生きている。
それだけでも十分だ。
おまけに若返っているし、危険察知能力まである。
よく考えたら当たり転生かもしれない。
私は立ち上がり、周囲を見回した。
海がある。
森もある。
魚もいそうだ。
食べ物には困らない気がする。
「案外なんとかなるかも」
前世では毎日仕事に追われていた。
でも今は違う。
会社もない。
上司もいない。
会議もない。
締切もない。
自由だ。
「海辺でのんびり暮らすのも悪くないなぁ」
釣りをして。
魚を焼いて。
昼寝をして。
たまに散歩する。
そんな生活ができたら最高じゃないか。
私は青い海を見つめながら小さく笑った。
「よし」
異世界転生。
触角付き。
尻尾付き。
多少変なスタートではある。
でも第二の人生だ。
どうせなら楽しもう。
私は海へ向かって宣言した。
「とりあえず海辺で暮らそう」
その瞬間。
触角がぴくりと反応した。
だが私は気付かない。
遠くの崖の上。
一人の人物がこちらを見つめていたことに。
そして震える声で呟いたことにも。
「まさか……」
その人物の顔は青ざめていた。
「邪神ロブスターの眷属が現れた……?」
風に乗って消えたその言葉を、私は聞いていなかった。
第1話を読んでいただきありがとうございました!
主人公は人間のつもりですが、触角と尻尾は完全に伊勢海老です。
なぜ伊勢海老なのか。
作者にもまだよく分かりません。
次回から少しずつ異世界の住人も登場し、勘違いが加速していきます。
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それではまた次回!




