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第29話 村が発展

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回、商人転生者・橘大輔によって「海王ブランド」が誕生しました。


本人の許可はありません。


本人の意思も反映されていません。


ですが市場は大盛況です。


そして今回は、その影響がついに村全体へ広がります。


温泉。

市場。

宿屋。

観光客。


海辺の小さな漁村は、どこまで変わってしまうのでしょうか。


第29話「村が発展」、どうぞお楽しみください!


朝。

私は嫌な予感で目が覚めた。

理由は分からない。

だが分かる。

長い付き合いなのだ。

最近の私の人生は、嫌な予感が大体当たる。

勇者が来た時もそうだった。

賢者が来た時もそうだった。

商人が来た時もそうだった。

そして今回も。

間違いなく何か起きる。

私は布団から出た。

家の扉を開ける。

そして固まった。

「……」

人がいた。

大量に。

ものすごく大量に。

家の前に。

「海王様のお家だ!」

「本物だ!」

「写真描いていいですか!」

「海王様は朝何を食べるんだろう!」

帰りたい。

まだ家の中なのに帰りたかった。

私はそっと扉を閉めた。

現実逃避である。

しかし。

どんどんどん!

「海王様!」

今度は和也だった。

どんどんどん!

「海王様!」

ルナだった。

どんどんどん!

「伊織ちゃん!」

ミナだった。

どんどんどん!

「海老崎さん!」

大輔だった。

全員いた。

逃げ場がない。

私は諦めて外へ出た。

「なに」

すると大輔が満面の笑みで言った。

「成功しました」

嫌な予感。

非常に嫌な予感。

私は周囲を見る。

昨日まで空き地だった場所。

そこに新しい建物が並んでいた。

宿屋。

飲食店。

土産物屋。

露店。

市場。

人。

人。

人。

人。

「なにこれ」

私は呆然と呟いた。

大輔は胸を張った。

「観光都市です」

「誰が許可したの」

「市場が」

意味が分からない。

その後。

私は現状確認のため歩くことになった。

半ば強制だった。

まず。

温泉街。

ここは知っている。

私が掘った温泉だ。

しかし。

知らない。

まったく知らない。

巨大化していた。

「いらっしゃいませ!」

「海王温泉へようこそ!」

看板が見える。

海王温泉本館。

海王温泉別館。

海王温泉露天館。

増えていた。

なぜ。

私は一軒の旅館を見上げた。

三階建てだった。

立派だった。

女将さんが出てくる。

「海王様!」

「違う」

「おかげで大繁盛です!」

感謝された。

複雑だった。

温泉を掘ったのは確かだ。

だが。

ここまで大きくなるとは思わなかった。

ルナは嬉しそうだった。

「海王様すごいです!」

「私じゃない」

「海王様です!」

「違う」

平行線だった。

次に市場。

ここはさらにひどかった。

活気がある。

というか。

活気しかない。

魚。

野菜。

干物。

燻製。

海産物。

人。

声。

熱気。

ものすごい。

私は思わず立ち止まった。

「でかい……」

本当にでかかった。

最初は小さな露店だった。

今は違う。

完全に商業地区だった。

大輔が満足そうに頷く。

「海王ブランド効果です」

「その名前やめよう」

「無理です」

即答だった。

市場の中央には巨大な像まであった。

私だった。

「なんで」

「観光名所です」

「やめて」

誰も聞いてくれなかった。

ミナは笑い転げている。

「伊織ちゃん人気者!」

「なりたくない」

本音だった。

その後。

宿屋街へ向かう。

ここも知らない。

本当に知らない。

いつの間に建てたのだろう。

「満室です!」

「予約半年待ち!」

「海王様人気!」

やめてほしい。

本当にやめてほしい。

私は遠い目になった。

昔を思い出す。

最初は何もなかった。

海だけだった。

洞窟だけだった。

魚を獲って。

昼寝して。

のんびり暮らしていた。

それが。

どうしてこうなった。

その時。

和也が感動した顔で言った。

「海王様」

「なに」

「素晴らしいですね」

私は周囲を見る。

確かに。

人々は笑っていた。

子供たちは走り回っている。

商人たちは忙しそうだ。

漁師たちは景気が良い。

活気があった。

悪い光景ではない。

むしろ良い光景だ。

私は少しだけ苦笑した。

「まあ」

「はい!」

「みんな幸せそうだね」

和也が頷く。

ルナも頷く。

ミナも笑う。

大輔も満足そうだった。

私はため息を吐いた。

発展するのは悪くない。

本当に悪くない。

ただ。

問題があった。

夕方。

私は家へ帰った。

疲れた。

本当に疲れた。

早く休みたい。

そう思った。

そして。

固まった。

「……」

家が見えない。

正確には。

囲まれていた。

周囲を建物に。

旅館。

商店。

市場。

露店。

食堂。

宿屋。

完全包囲だった。

私の家だけがぽつんと残っている。

まるで都市の中心にある遺跡だった。

「なんで」

私は呟いた。

大輔が少し気まずそうな顔をする。

「観光客が増えまして」

「うん」

「立地が良かったので」

「うん」

「気付いたら」

囲まれていた。

私は天を仰いだ。

空だけは変わらなかった。

その時。

家の前に新しい看板を発見した。

嫌な予感。

本当に嫌な予感。

近付く。

読む。

『海王様生誕の地』

「違うぅぅぅぅ!!」

私の叫びが夕暮れの空へ響いた。

だが。

観光客たちは喜んでいた。

「本物だ!」

「海王様だ!」

「写真だ!」

囲まれる。

逃げられない。

私は悟った。

どうやら。

私のスローライフは。

村の発展と引き換えに。

完全に消滅したらしい。

そして翌朝。

家の前には。

『海王様見学ツアー受付所』

が建設されていた。

もう駄目だった。


第29話をお読みいただきありがとうございました!


今回は第三部前半の集大成とも言える「発展回」でした。


物語開始時を振り返ると、


・追放された伊織

・何もない海辺

・小さな漁村


から始まった世界が、ここまで変化しています。


温泉街ができ。


市場が拡大し。


観光客が訪れ。


海王ブランドが流通する。


伊織自身は特に大きな野望を持っていませんが、その行動が結果として地域全体を発展させてしまいました。


そして今回のオチ。


ついに自宅が観光地に囲まれました。


ある意味、この作品らしい結末かもしれません。


本人は静かに暮らしたいだけなのですが、周囲はそうさせてくれません。


また、今回から「海王様見学ツアー」なども登場し、伊織の扱いが完全に観光名所化しています。


この状況が次回さらに加速します。


次回、第30話「スローライフ崩壊」。


海王様人気がついに限界突破。


伊織の平穏な生活は完全に消滅してしまうのでしょうか。


第三部前半の一区切りとなるお話です。


引き続きよろしくお願いいたします!


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