第28話 商人が海鮮ブランド化
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回は賢者・九条アリサによる海王様研究回でした。
触角レーダーや海流感知など、伊織の能力が少しずつ明らかになってきましたが、本人は相変わらずマイペースです。
そして今回は商人・橘大輔回。
勇者は修行を求め、
賢者は研究を求め、
商人は利益を求めます。
果たして大輔は海王様から何を見出すのでしょうか。
第28話「商人が海鮮ブランド化」、どうぞお楽しみください!
最近。
私の周囲がおかしい。
いや。
正確には前からおかしい。
だが最近は特におかしい。
勇者が住み着いた。
賢者が研究所を建てた。
そして今日は。
商人が来た。
「海老崎さん」
橘大輔だった。
朝から爽やかな笑顔だった。
私は嫌な予感しかしなかった。
「なに?」
「相談があります」
「嫌な予感」
「大丈夫です」
大丈夫じゃなかった。
絶対に大丈夫じゃない。
大輔は大量の書類を机へ並べた。
分厚い。
嫌な予感しかしない。
「海鮮ブランドを立ち上げます」
「帰って」
即答だった。
だが大輔は止まらない。
「既に準備は終わっています」
「聞いてない」
「商標も取得済みです」
「聞いてない」
「販路も確保しました」
「聞いてない」
どんどん話が進んでいた。
私の知らないところで。
怖い。
商人怖い。
非常に怖い。
大輔は一枚の紙を差し出した。
そこには大きく書かれていた。
『海王ブランド』
私は固まった。
「なにこれ」
「ブランド名です」
「なんで」
「売れるからです」
即答だった。
商人らしい。
非常に商人らしい。
私は頭を抱えた。
「海王じゃない」
「市場はそう思っていません」
「やめよう」
「無理です」
大輔は真顔だった。
本気だった。
その時。
和也が現れた。
「海王ブランド!」
目を輝かせている。
嫌な予感。
「素晴らしいです!」
「よくない」
「海王様の偉業を後世に!」
「いらない」
誰も聞いてくれない。
さらに。
アリサも来た。
「興味深いですね」
「止めて」
「経済現象として研究価値があります」
「研究しないで」
味方がいなかった。
ミナだけが笑っている。
「伊織ちゃん有名人だね」
「なりたくない」
本当に。
心の底から。
なりたくなかった。
しかし。
大輔は仕事が早かった。
翌日。
市場へ行った私は。
異変に気付いた。
人が多い。
いつも以上に多い。
そして。
看板。
巨大な看板。
そこには。
『海王ブランド認定干物』
と書いてあった。
「認定してない」
私が呟く。
店員が振り向く。
「あっ!」
嫌な予感。
「本物だ!」
広場が騒ぎ始めた。
やめてほしい。
本当にやめてほしい。
私は逃げようとした。
しかし。
次の店。
『海王ブランド燻製』
その次。
『海王ブランド海鮮鍋』
その次。
『海王ブランド温泉まんじゅう』
「温泉まんじゅう?」
海鮮関係なくなっていた。
なぜ。
大輔が胸を張る。
「事業拡大です」
「拡大しなくていい」
「需要があります」
「知らない」
私は市場を歩く。
どこも海王ブランド。
干物。
燻製。
魚醤。
塩。
野菜。
お茶。
なぜか帽子。
なぜかタオル。
なぜか木刀。
なんでもありだった。
そして。
私は見つけてしまった。
最悪のものを。
店の中央。
特等席。
そこに並んでいた。
商品だった。
包装紙だった。
大きく描かれていた。
白髪。
赤い瞳。
赤い触角。
伊勢海老尻尾。
満面の笑み。
私だった。
「なんでぇぇぇぇ!?」
市場中に響いた。
大輔が振り向く。
「ああ」
軽い。
反応が軽い。
「新商品です」
「新商品じゃない!」
私は包装紙を掴む。
どこからどう見ても私だった。
「勝手に使わないで!」
「人気なんです」
「聞いてない!」
周囲の客が集まる。
「あ、本物だ」
「包装紙と同じだ」
「触角かわいい」
帰りたい。
本気で帰りたい。
私は包装紙を確認する。
もっとひどかった。
裏面。
そこには。
海王様公認!
と書いてあった。
「公認してない!」
大輔が咳払いする。
「細かいことは」
「細かくない」
非常に重要だった。
その時。
ルナがやってきた。
商品を見た。
そして。
「海王様!」
目が輝いた。
嫌な予感。
「素敵です!」
「素敵じゃない」
「欲しいです!」
「買わないで」
ルナは十個買った。
裏切りだった。
ミナも来た。
商品を見る。
爆笑した。
「似てる!」
「本人だからね!?」
「これは売れるわ」
やめてほしい。
本当にやめてほしい。
その日の夕方。
私は海辺へ逃げた。
静かな場所。
落ち着く。
ようやく平和だった。
そう思った。
しかし。
遠くから船がやってくる。
商船だった。
側面に文字が見えた。
『海王ブランド公式輸送船』
私は膝をついた。
もう駄目だった。
完全に駄目だった。
その時。
大輔が隣へ座った。
珍しく真面目な顔だった。
「海老崎さん」
「なに」
「村は豊かになります」
私は黙った。
確かにそうだった。
漁師たちの暮らしは良くなった。
市場も賑わっている。
温泉街も繁盛している。
悪いことばかりではない。
「それは分かる」
「ありがとうございます」
「でも」
私はため息を吐いた。
「顔はやめて」
大輔は少し考えた。
そして。
「善処します」
信用できなかった。
全く信用できなかった。
その翌日。
私は王都行きの商隊が出発するのを見送った。
大量の商品。
大量の荷車。
大量の海王ブランド。
そして。
荷車の側面。
巨大な私の顔。
増えていた。
むしろ大きくなっていた。
「善処とは」
私は遠い目になった。
どうやら。
海王ブランドは。
私の知らないところで。
世界へ進出し始めたらしい。
そして王都では。
その商品を見た新たな転生者が。
興味を持ち始めていた。
第28話をお読みいただきありがとうございました!
今回は第三の転生者、橘大輔が本気を出した回でした。
温泉。
干物。
燻製。
海鮮料理。
伊織にとっては日常の延長でも、大輔にとっては巨大なビジネスチャンスです。
商人らしく、価値を見つけた瞬間に全力で事業化へ走り出しました。
そして誕生したのが――
「海王ブランド」。
本人は一切認めていません。
また今回は、伊織の顔が勝手に商品化されるという新たな被害も発生しました。
海王様公認。
海王様推薦。
海王様認定。
本人が知らないところで肩書きだけが増えていくのは、この作品のお約束になりつつあります。
そしてラストでは、海王ブランドの商品が王都へ向けて出荷されました。
これは単なるギャグではなく、今後の物語にも少しずつ影響していきます。
海辺の小さな村だったはずの場所は、すでに周辺地域でも有名な観光地になり始めています。
次回、第29話「村が発展」。
海王ブランドと温泉街の影響で、村はさらに大きく変化していきます。
もちろん伊織の平穏な生活は守られません。
引き続きよろしくお願いいたします!




