表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/34

第26話 勇者が弟子入り

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回、転生者同盟が発足しました。


勇者は世界平和を目指し、

賢者は魔法革命を目指し、

商人は経済発展を目指しています。


そして伊織は昼寝を目指しています。


今回はそんな勇者・神代和也が主役(?)のお話です。


弟子入りを断られ続けている和也ですが、どうやら諦める気はないようで……。


第26話「勇者が弟子入り」、どうぞお楽しみください!

私が朝起きると。

家の前にテントが建っていた。

「……」

私は無言だった。

現実逃避していたとも言う。

目を擦る。

もう一度見る。

やっぱりテントだった。

しかも立派なやつだ。

焚き火跡まである。

誰か住んでいる。

嫌な予感しかしない。

私はゆっくり近付いた。

そしてテントの入口を開く。

中には。

神代和也がいた。

寝袋で寝ていた。

「すぅ……」

気持ちよさそうだった。

私は天を仰いだ。

どうして。

本当にどうして。

「和也」

「はっ!」

勇者は一瞬で起きた。

反応速度がおかしい。

「おはようございます海王様!」

「なんでいるの?」

「弟子入りです!」

「許可してない」

「住み込みです!」

「許可してない」

まったく話が通じなかった。

和也は爽やかな笑顔だった。

たぶん本人は善意しかない。

だから余計に厄介だった。

私は頭を抱えた。

「帰って」

「無理です!」

即答だった。

「なぜ」

「海王様から学ぶためです!」

「教えることないよ」

「あります!」

断言された。

その後。

私は朝食を作ることにした。

焼き魚。

味噌っぽいスープ。

畑で採れた野菜。

最近の定番だ。

和也は真剣な顔で見ていた。

「……」

「なに?」

「勉強になります」

「どこが」

「魚を焼く角度です」

「普通だけど」

「なるほど……」

和也はメモを取り始めた。

怖い。

非常に怖い。

私はただ魚を焼いているだけなのだ。

「火力を均一に」

「いや、適当だよ」

「適当……!」

和也は衝撃を受けていた。

なぜ。

朝食を食べる。

普通に美味しい。

だが和也は違った。

一口食べる。

目を閉じる。

感動する。

「深い……」

「魚だよ」

「これが海王流……」

「違う」

誰も聞いていなかった。

その後。

私は畑へ向かった。

野菜の様子を見る。

雑草を抜く。

水をやる。

平和だった。

理想的だった。

しかし。

後ろから。

「なるほど」

和也がいた。

「なに?」

「大地と向き合う修行ですね」

「違う」

「自然との対話」

「雑草抜いてるだけ」

「さすが海王様」

話が通じなかった。

私は黙って作業を続けた。

和也も真似を始めた。

数分後。

「海王様!」

「なに?」

「雑草を全て抜きました!」

畑ごとだった。

野菜まで抜かれていた。

私は膝から崩れ落ちた。

「なんでぇぇぇぇ!」

「え?」

「それ野菜!」

和也が青ざめた。

勇者は強い。

だが農業適性はゼロだった。

昼。

私は海へ向かった。

気分転換である。

魚釣りをするためだ。

最近は色々ありすぎた。

こういう時間が必要だった。

私は岩場へ座る。

糸を垂らす。

波の音。

潮風。

最高。

すると。

後ろから。

「なるほど」

またいた。

「なに?」

「精神統一ですね」

「魚釣りだよ」

「集中力を鍛える修行」

「魚釣り」

「雑念を捨てる」

「魚釣り」

平行線だった。

私は諦めた。

好きにさせよう。

しばらく沈黙。

穏やかな時間が流れる。

そして。

ぴくり。

竿が動いた。

「お」

私は引き上げる。

魚が釣れた。

今日の夕飯確保である。

その時だった。

和也が立ち上がった。

「今のです!」

「なにが?」

「分かりました!」

目が輝いていた。

嫌な予感しかしない。

「海王様の極意が!」

「ないよ」

「魚釣りです!」

「魚釣りだね」

「違います!」

違うらしい。

和也は熱弁を始めた。

「魚がかかるまで待つ!」

「うん」

「焦らない!」

「うん」

「自然を読む!」

「うん」

「相手の動きを感じる!」

「魚だし」

「これです!」

和也は感動していた。

「剣術も同じです!」

「そうなの?」

「敵を読む!」

「へぇ」

「気配を読む!」

「うん」

「一撃を見極める!」

「なるほど」

なんか納得してしまった。

魚釣りと剣術。

意外と共通点があるのかもしれない。

だが。

私は別にそこまで考えていない。

「魚食べたいだけなんだけど」

「深い……」

深くなかった。

夕方。

和也は岩場に座っていた。

真剣な顔で。

竿を持って。

「……」

動かない。

集中している。

私は少し離れた場所で眺めていた。

すると。

ぴくり。

竿が動く。

和也が目を開く。

「今だ!」

引き上げる。

魚が釣れた。

「おおおお!」

感動している。

すごく感動している。

魚なのに。

「海王様!」

和也が走ってくる。

魚を掲げながら。

「できました!」

「よかったね」

「極意を掴みました!」

「魚釣りの?」

「海王流剣術です!」

「違うと思う」

しかし和也は聞いていなかった。

その夜。

温泉街で妙な噂が広まった。

海王流奥義。

海釣一閃。

というらしい。

知らない。

本当に知らない。

私はそんな技を作った覚えはない。

翌朝。

家の前。

和也が木刀を振っていた。

「海釣一閃!」

ぶんっ!

「海釣二閃!」

ぶんっ!

「海釣三閃!」

ぶんっ!

増えていた。

技が増えていた。

私は遠い目になった。

どうしてこうなった。

ただ魚釣りをしていただけなのに。

そして。

和也は完全に住み着いていた。

もう追い出せる気がしない。

私のスローライフは。

また一歩遠ざかった気がした。


第26話をお読みいただきありがとうございました!


今回は和也回でした。


勇者としては非常に優秀で真面目なのですが、海王様への尊敬が暴走しているため、だいたい話がややこしくなります。


畑仕事も修行。


魚を焼くのも修行。


魚釣りも修行。


海王様がやることは全部修行。


そんな思考回路になっています。


一方の伊織は本当に普通の生活をしているだけなので、両者の認識はまったく噛み合っていません。


そしてラストでは、魚釣りから謎の剣術「海釣一閃」が誕生してしまいました。


もちろん伊織は知りません。


本人が知らないところで伝説が増えていくのは、この作品のお約束かもしれません。


また今回から、和也が事実上の居候になりました。


これで伊織の周囲には、


・勇者(居候)

・賢者(研究者)

・商人(事業家)


という問題児たちが揃ったことになります。


次回、第27話「賢者が研究対象にする」。


今度はアリサによる本格的な海王様研究が始まります。


触角の運命やいかに――。


引き続きよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ