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第23話 商人転生者登場

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回は賢者転生者・九条アリサが登場しました。


勇者に弟子入りされ、賢者には研究対象にされるという、伊織にとってはなかなか大変な状況になっています。


そして今回は第三の転生者が登場。


勇者でも賢者でもない、商人タイプの転生者です。


果たして今度はどんな面倒ごとが増えるのでしょうか。


第23話「商人転生者登場」、どうぞお楽しみください!

私は逃げていた。

全力で。

砂浜を。

「待ってください!」

後ろから賢者転生者、九条アリサが追いかけてくる。

「触角だけです!」

「その言い方が怖い!」

「一本だけ!」

「一本も嫌!」

本当に嫌だった。

私は海辺の自宅へ飛び込む。

勢いよく扉を閉める。

鍵を掛ける。

机を押し付ける。

完璧な防御だ。

「はぁ……」

ようやく落ち着いた。

最近の転生者は怖い。

弟子入りしたがる勇者。

解剖したがる賢者。

どうして普通の人がいないのだろう。

私は温かいお茶を飲んだ。

落ち着く。

やはり家は最高だ。

スローライフである。

その時。

どんどんどん!

扉が叩かれた。

私は現実逃避した。

聞こえない。

何も聞こえない。

どんどんどん!

「海王様!」

和也だった。

どんどんどん!

「研究にご協力ください!」

アリサだった。

帰ってほしい。

本当に帰ってほしい。

その時だった。

さらに別の声が聞こえた。

「失礼します」

落ち着いた男性の声だった。

今までの二人とは違う。

妙に社会人っぽい。

私は少し警戒しながら扉を開けた。

そこにいたのは三十代くらいの男性だった。

黒髪。

眼鏡。

高級そうな服。

落ち着いた雰囲気。

そして。

後ろには大量の護衛。

商人だった。

どう見ても。

「こんにちは」

男性は笑顔だった。

営業スマイルだった。

私は前世を思い出した。

会社員時代を。

「誰?」

私が聞く。

すると男性は一礼した。

「橘大輔です」

「へぇ」

「元日本人です」

またか。

また転生者だった。

私は天を仰いだ。

最近の海辺は転生者の集合場所なのだろうか。

大輔は苦笑する。

「その反応、他にも会いましたね?」

「二人ほど」

「勇者と賢者ですね」

知っているらしい。

さすが商人。

情報が早い。

大輔は肩をすくめた。

「彼らよりは話が通じると思います」

「本当に?」

「たぶん」

少しだけ安心した。

本当に少しだけ。

私たちは家の前のテーブルに座った。

和也とアリサも勝手に参加している。

帰ってほしい。

「まず自己紹介を」

大輔は紅茶を飲む。

優雅だった。

完全にできるビジネスマンである。

「前世では商社勤務でした」

「商社」

「転生後は商会を立ち上げまして」

「へぇ」

「今では王都最大級です」

成功していた。

すごい。

私は温泉を掘ったり魚を干したりしていただけなのに。

大輔は完全に事業家だった。

和也が感心する。

「すげぇ」

「勇者殿も有名ですよ」

「え?」

「魔王軍を三つ壊滅させたとか」

「そんなこともありましたね」

さらっと言った。

勇者怖い。

アリサも頷く。

「私も研究都市の学会で名前が通っています」

「そうなの?」

「魔法論文を三十七本ほど」

「論文あるんだ」

異世界すごい。

私は改めて思った。

みんな活躍している。

私だけ海辺で魚を焼いている。

その時。

大輔が私を見た。

「海王様」

「違う」

「失礼」

言い直した。

「海老崎さん」

久しぶりだった。

まともな呼び方。

少し感動した。

「今日はお願いがあって来ました」

嫌な予感。

本当に嫌な予感しかしない。

「お願い?」

「まず料理を食べさせてください」

「料理?」

予想外だった。

私は首を傾げる。

大輔は真剣な顔だった。

「噂を聞きました」

「どんな」

「海王様の料理は世界を変えると」

「変えてない」

「ぜひ食べたい」

なるほど。

研究ではない。

弟子入りでもない。

料理目当てだった。

それならまだマシかもしれない。

私は魚を取り出した。

ちょうど昼食の時間だった。

焼き魚。

干物。

燻製。

それに海鮮スープ。

最近の定番メニューである。

「どうぞ」

大輔は一口食べた。

そして固まった。

私は嫌な予感がした。

最近このパターンが多い。

和也も固まった。

アリサも固まった。

静寂。

数秒。

そして。

「うまい」

大輔が呟いた。

「でしょう!」

なぜかミナが胸を張った。

お前が作ったわけじゃない。

大輔は次々と料理を食べる。

焼き魚。

干物。

燻製。

スープ。

全部。

その顔が徐々に変わっていく。

商人の顔になっていた。

私は知っている。

前世で何度も見た。

利益の匂いを嗅いだ営業マンの顔だ。

怖い。

非常に怖い。

大輔は静かに立ち上がった。

「なるほど」

「どうしたの?」

「理解しました」

嫌な予感。

「海王様」

「違う」

「これは金になります」

終わった。

私は直感した。

完全に終わった。

大輔は目を輝かせている。

「干物」

指を一本立てる。

「大量生産可能」

二本目。

「燻製」

三本目。

「海鮮料理」

四本目。

「観光資源」

五本目。

「温泉」

そして。

「全部組み合わせれば巨大市場が作れます」

嫌な予感が現実になった。

私は頭を抱えた。

「やめよう?」

「無理です」

即答だった。

大輔は紙を広げる。

設計図だった。

いつ用意した。

「海鮮ブランドを立ち上げます」

「立ち上げない」

「王都へ進出します」

「しない」

「商会も出資します」

「帰って」

誰も聞いていなかった。

和也は感動している。

「さすが海王様!」

アリサも頷く。

「経済まで支配するのですね」

「支配してない!」

ミナは笑っていた。

「伊織ちゃん人気者だね」

「そういう問題じゃない」

私は深くため息を吐く。

勇者。

賢者。

商人。

転生者が三人に増えた。

そして全員が面倒だった。

その時。

大輔が真剣な顔になる。

「ところで」

「なに?」

「他にも転生者がいるかもしれません」

私は顔を上げた。

「え?」

「最近、各地で異常な発展が起きています」

アリサも反応する。

「私も調査中です」

和也も頷いた。

「噂は聞いてます」

大輔は言った。

「そろそろ一度、転生者同士で集まるべきかもしれません」

転生者会議。

そんな言葉が頭をよぎった。

嫌な予感しかしなかった。

そして私はまだ知らない。

その会議が。

私のスローライフをさらに破壊することになるのを。


第23話をお読みいただきありがとうございました!


今回は商人転生者・橘大輔の登場回でした。


勇者の和也は戦闘担当。

賢者のアリサは研究担当。

そして大輔は経済担当です。


前世ではサラリーマンだった経験を活かし、この世界で巨大商会を築き上げています。


そしてそんな彼が伊織の料理や海辺の発展を見た結果――


「これは金になる」


という、とても商人らしい結論に至りました。


本人は静かに暮らしたいだけなのですが、周囲から見ると温泉、保存食、海鮮料理、観光資源を次々と生み出す天才に見えているのが伊織の不幸(?)なところです。


また、ラストでは「他にも転生者がいるかもしれない」という話も出てきました。


勇者、賢者、商人。


そして海老。


少しずつ転生者たちが集まり始めています。


次回、第24話「転生者会議」。


個性が強すぎる転生者たちによる会議が開幕します。


もちろん伊織はやる気ゼロです。


引き続きよろしくお願いいたします!

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