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第22話 賢者転生者登場

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回、勇者転生者・神代和也が登場しました。


同じ日本から転生した仲間との出会いに少し感動した伊織でしたが、なぜか弟子入りを志願されるという謎の展開に。


そして今回は新たな転生者が登場します。


勇者の次は賢者。


……なのですが、どうやら普通の賢者ではないようです。


第22話「賢者転生者登場」、どうぞお楽しみください!

勇者転生者、神代和也が現れてから三日が経った。

私はまだ弟子入りを許可していない。

もちろん今後も許可する予定はない。

だが和也はなぜか毎朝やってくる。

「海王様! おはようございます!」

「帰れ」

「本日も修行をお願いします!」

「帰れ」

「まずは掃除からですね!」

「人の話を聞いて?」

まったく聞いていなかった。

和也は勝手に私の家の周りを掃除し、勝手に薪を割り、勝手に魚を獲ってくる。

便利ではある。

便利ではあるのだが、弟子ではない。

絶対に違う。

「伊織ちゃーん!」

ミナが笑いながらやって来た。

「弟子くん、今日も元気だね」

「弟子じゃない」

「海王様! 弟子ではなく一番弟子とお呼びください!」

「呼ばない」

面倒な人が増えた。

本当に増えた。

私は海辺の椅子に座り、深くため息を吐いた。

せっかく第二部が終わって、のんびりできると思ったのに。

第三部に入った途端これである。

「転生者って、みんなこんな感じなのかな……」

私が呟いた、その時だった。

ぴくっ。

頭の触角が反応した。

海ではない。

森の方だ。

「ん?」

視線を向けると、砂浜の奥にある道から一人の女性が歩いてくるのが見えた。

長い銀髪。

尖った耳。

緑色のローブ。

手には分厚い本。

どう見てもエルフだった。

しかも雰囲気が知的だ。

「エルフだ」

私は思わず呟いた。

和也が目を細める。

「海王様、お気を付けください」

「知り合い?」

「いえ。でもあの魔力量、普通ではありません」

「へぇ」

よく分からないけど、すごいらしい。

エルフの女性はまっすぐこちらへ向かってきた。

そして私の前で立ち止まる。

じっと私を見る。

特に、頭の触角を。

「……」

「……」

沈黙が流れた。

嫌な予感がした。

非常に嫌な予感がした。

そして彼女は、震える声で呟いた。

「本当に……生えてる……」

「え?」

次の瞬間。

彼女の目が輝いた。

「すごい! 本当に甲殻類型魔力感知器官が頭部から直接発生している! しかも神経反応あり! これは天然? 変異? 転生特性? それとも古代海王因子!?」

「早口怖い」

私は一歩下がった。

彼女はさらに一歩近付いてくる。

「失礼しました。私は九条アリサ。エルフ族の賢者であり、魔法研究者です」

「九条?」

その名前に反応した。

エルフなのに九条。

どう考えても日本人名である。

アリサは眼鏡を押し上げた。

「はい。前世は日本人です」

また来た。

転生者である。

私は額を押さえた。

「また転生者……」

「また?」

アリサは首を傾げる。

すると和也が一歩前に出た。

「俺も転生者だ。神代和也。勇者だ」

「勇者転生者ですか。興味深いですが、今は後回しです」

「後回し!?」

和也がショックを受けた。

アリサの視線は完全に私の触角へ固定されている。

「海老崎伊織さんですね?」

「うん」

「元日本人。現在は白髪、赤眼、伊勢海老型触角および尾部を有する特殊転生者」

「言い方」

「さらに人魚族から海王様と呼ばれ、漁村復興、温泉発見、海賊撃退、古代神殿発見に関与」

「誤解が多い」

「噂以上です」

「噂を信じないで」

アリサは聞いていなかった。

彼女は本を開き、何やらメモを取り始める。

「触角の動作は自律反応。周囲の魔力、潮流、生命反応に反応する可能性あり。外見は伊勢海老に近いが、人型との融合率が異常に高い」

「研究しないで」

「少し触っても?」

「嫌」

「少しだけ」

「嫌」

「先端だけ」

「嫌!」

私は両手で触角を押さえた。

怖い。

この人、目が研究者のそれだ。

好奇心で人を解剖しそうなタイプである。

するとルナが海から現れた。

「海王様!」

「ルナ、助けて」

「新たな信奉者ですか?」

「違うと思う」

アリサはルナを見る。

「人魚姫ルナですね。こちらも興味深いですが、今は後回しです」

「後回し!?」

ルナまでショックを受けた。

この賢者、強い。

あらゆる相手を研究対象として順位付けしている。

ミナは横で爆笑していた。

「伊織ちゃん、また濃い人来たね」

「笑いごとじゃない」

「すごい人気」

「人気じゃない。狙われてる」

私は本気でそう思った。

アリサは私の周りをぐるぐる回り始める。

「尻尾も興味深いですね。腰椎から自然接続。重量バランスも安定。可動域はどの程度ですか?」

「知らないよ」

「動かしてみてください」

「やだ」

「一回だけ」

「やだ」

「では記録用にスケッチを」

「勝手に描かないで!」

アリサはすでに描いていた。

速い。

怖い。

私は逃げようとした。

だが和也が前に立つ。

「海王様! お守りします!」

「じゃあ逃げ道を開けて」

「この者を斬ればよろしいですか!」

「やめて!?」

話が物騒になる。

アリサはまったく動じていない。

「勇者の剣術も後で測定しましょう」

「俺も測定対象!?」

「当然です。チート剣術の出力検証は必要です」

「弟子として海王様を守る俺を研究対象にするな!」

「弟子なんだ」

「弟子じゃない」

私は即座に訂正した。

だが誰も聞いていなかった。

この場に会話が成立する人がいない。

つらい。

非常につらい。

私は頭を抱えた。

「アリサさん」

「はい」

「何しに来たの?」

ようやく本題である。

アリサは本を閉じた。

「あなたを調査しに来ました」

「帰って」

「無理です」

「なんで」

「あなたは転生者研究における特異点です」

「嫌な言葉」

「勇者型、賢者型、商人型など、転生者には一定の分類があります。しかしあなたは分類不能です」

「分類しなくていい」

「海老型転生者など前例がありません」

「私も聞いたことない」

それは本当にそうだ。

私だって好きで海老になったわけではない。

アリサは真剣な顔で言った。

「あなたの存在は、この世界の転生システムそのものに関わっている可能性があります」

一瞬だけ空気が変わった。

転生システム。

その言葉は少しだけ気になった。

なぜ私はこの世界に来たのか。

なぜ伊勢海老要素があるのか。

確かに分からないことは多い。

だが。

「でも面倒そうだからいいや」

私は考えるのをやめた。

大事そうな話ほど面倒ごとに繋がる。

経験上、間違いない。

アリサは目を見開いた。

「知りたくないのですか?」

「今の生活で十分だし」

「これほどの謎を前にして?」

「昼寝の方が大事」

アリサは震えた。

感動ではない。

たぶん困惑だ。

「理解不能です」

「よく言われる」

すると和也が感動したように頷いた。

「さすが海王様。世界の真理すら超越しておられる」

「超越してない」

ルナも手を合わせた。

「海王様は既に全てをご存じなのですね」

「知らない」

ミナが笑った。

「伊織ちゃん、すごいね」

「ミナまで雑に乗らないで」

もう収拾がつかなかった。

その時、アリサが一歩踏み込んだ。

目が完全に本気だった。

「では、せめて基礎調査だけでも」

「嫌」

「魔力測定」

「嫌」

「血液採取」

「嫌」

「鱗片採取」

「鱗ないよ」

「尻尾の組織片を少々」

「嫌!」

アリサは少し考えた。

そして、とても真面目な顔で言った。

「では、その触角解剖させてください!」

「嫌ぁぁぁ!!」

私は全力で逃げ出した。

砂浜を走る。

触角を押さえながら走る。

後ろからアリサが追ってくる。

「大丈夫です! 再生魔法も研究中です!」

「余計怖い!」

「海王様! お待ちください!」

「待たない!」

「伊織ちゃん、がんばれー!」

「応援しないで助けて!」

こうして。

勇者転生者に続き、賢者転生者まで現れてしまった。

しかも今度は弟子入りではなく、解剖希望である。

私のスローライフは、もはや静かに壊れるどころか、全力疾走で逃げ出している気がした。


第22話をお読みいただきありがとうございました!


今回は賢者転生者・九条アリサの登場回でした。


勇者の和也が「熱血主人公タイプ」なら、アリサは「研究バカタイプ」です。


魔法理論や転生者の研究に人生を捧げており、海王様だろうが勇者だろうが、彼女にとってはまず研究対象。


そして伊織は見事に最優先研究対象になってしまいました。


本人にとっては災難ですが、触角や尻尾を持つ転生者は確かに気になる存在なのかもしれません。


また、作中ではさらっと流れていますが、「転生システム」という単語も登場しました。


まだ深くは触れませんが、今後の物語に関わる要素の一つになります。


そして次回は第三の転生者。


勇者でも賢者でもない、商人転生者が登場します。


次回、第23話「商人転生者登場」。


伊織の料理と海辺の発展を見た商人が何を考えるのか、お楽しみに!


引き続きよろしくお願いいたします!

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