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第21話 勇者転生者登場

いつもお読みいただきありがとうございます!


第二部「海辺スローライフ編」が終わり、今回から第三部「転生者襲来編」がスタートします!


温泉街や市場ができてしまい、もはやスローライフとは何だったのか分からなくなってきた伊織。

そんな彼女の前に現れたのは、なんと同じ日本から転生してきた人物でした。


勇者。

チート能力。

異世界転生。


いかにも主人公らしい転生者と、海老になった転生者が出会う時――。


第21話「勇者転生者登場」、どうぞお楽しみください!

私のスローライフは終わった。

たぶん。

温泉街。

漁港。

市場。

観光客。

海王様記念広場。

海王様像。

家の周囲だけでも十分おかしい。

それなのに最近は観光客まで増えていた。

「海王様だ!」

「本物だ!」

「ありがたやー!」

「帰って」

私は本気で言った。

しかし誰も帰らない。

むしろ増えている気がする。

どうしてこうなった。

私は家の前に置いた椅子へ座り、遠い目で海を眺めた。

平和だった頃が懐かしい。

まだ畑しかなかった頃。

まだ温泉街じゃなかった頃。

あの頃に戻りたい。

「伊織ちゃーん!」

ミナがやってきた。

今日も元気だった。

「おはよう」

「おはよー!」

彼女は市場で買ったらしい串焼きを頬張っている。

完全に地元民である。

「なんか港が騒がしいよ」

「へぇ」

私は興味がなかった。

最近は毎日騒がしい。

今さら一つ増えても変わらない。

だがミナは違った。

「見たことない船が来てる!」

「商船じゃない?」

「違うと思う」

少しだけ気になった。

私は立ち上がる。

港へ向かう。

すると。

確かに見慣れない船が停泊していた。

白い帆。

立派な船体。

しかもかなり高級そうだ。

周囲には人だかりまでできている。

「何だろうね」

「さぁ?」

私とミナは野次馬の後ろから眺めた。

その時だった。

船から誰かが降りてきた。

若い男だった。

十代後半くらい。

金髪。

青い瞳。

整った顔立ち。

白いマント。

腰には剣。

どう見ても勇者だった。

「勇者っぽい」

私は率直な感想を述べた。

すると。

男がこちらを見た。

目が合う。

数秒間の沈黙。

次の瞬間。

男の顔色が変わった。

「えっ」

なぜか感動している。

そして。

走った。

全力で。

こちらへ。

「え?」

私は嫌な予感しかしなかった。

最近このパターンばかりである。

男は私の前まで来た。

そして。

どげぇぇぇぇぇん!

盛大に土下座した。

港中に響く勢いだった。

「海王様ぁぁぁぁ!」

「違う」

即答だった。

だが男は顔を上げない。

むしろ感動で震えている。

「本物だ……」

「違う」

「海王様だ……」

「違う」

「会えた……」

聞いていなかった。

完全に聞いていなかった。

周囲がざわつく。

「知り合い?」

「海王様の部下か?」

「弟子かな?」

違う。

初対面である。

私は男を見下ろした。

「誰?」

ようやく男は顔を上げた。

そして胸を張る。

「神代和也です!」

聞き覚えがなかった。

当然である。

初対面だから。

しかし次の言葉で固まった。

「元日本人です!」

「え?」

私の思考が停止した。

日本人。

今なんて言った?

「日本?」

「はい!」

男は勢いよく頷く。

「東京生まれです!」

私は目を見開いた。

ミナとルナは首を傾げている。

何の話か分かっていない。

だが私には分かった。

転生者だ。

同じだ。

この世界へ来た人間だ。

「……コンビニ」

「え?」

「コンビニある?」

男は即答した。

「ないです!」

「ファミレス」

「ないです!」

「スマホ」

「恋しいです!」

私は確信した。

本物だ。

転生者だった。

和也は感動していた。

私も少し感動していた。

初めてだ。

この世界で同じ転生者に会うのは。

「何年目?」

「三年目です!」

「私は一年ちょっと」

「先輩!」

「何の?」

分からなかった。

すると和也は語り始めた。

元高校生。

事故死。

異世界転生。

女神。

チート能力。

テンプレだった。

びっくりするほどテンプレだった。

「能力は?」

「剣術です!」

和也は剣を抜いた。

一瞬だった。

ひゅん。

次の瞬間。

遠くの岩が真っ二つになった。

「おお」

私は素直に感心した。

すごい。

本当に勇者っぽい。

「勇者って呼ばれてます!」

「そのまんまだね」

「はい!」

良い笑顔だった。

その後。

私たちは少し話した。

日本の話。

学校の話。

コンビニの話。

久しぶりだった。

前世の話ができる相手は。

少しだけ懐かしかった。

しかし。

和也の様子がおかしい。

妙に私を見ている。

尊敬の眼差しで。

嫌な予感がした。

非常に嫌な予感がした。

「どうしたの?」

私が聞く。

すると和也は震え始めた。

「実は……」

「うん」

「海王様の噂は聞いていました」

「聞かなくていい」

「海を支配し!」

「してない」

「温泉を生み!」

「偶然」

「海賊を討伐し!」

「してない」

「古代神殿を発見した!」

「勝手に見つかった」

だが和也は止まらない。

目が輝いている。

まずい。

非常にまずい。

そして。

彼は再び土下座した。

どげぇぇぇぇん!

二回目である。

港中が静まり返った。

和也は叫ぶ。

「海王様!」

「なに?」

「弟子にしてください!」

「帰れ」

即答だった。

しかし和也は諦めなかった。

「お願いします!」

「帰れ」

「弟子に!」

「帰れ」

「修行を!」

「帰れ」

平行線だった。

ミナは笑い転げている。

ルナは感動している。

観光客は盛り上がっている。

私は頭を抱えた。

やっと同じ転生者に会えたと思ったら。

なぜ弟子入り志願されているのだろう。

その時。

和也が顔を上げた。

「なら証明します!」

「なにを?」

「海王様に相応しい弟子だと!」

嫌な予感。

本当に嫌な予感しかしない。

そして私はまだ知らなかった。

この勇者転生者が。

今後、私のスローライフをさらに破壊する存在になることを。


第21話をお読みいただきありがとうございました!


ついに登場した第三部最初の新キャラクター、神代和也です。


異世界転生作品の王道とも言える「勇者タイプ」の転生者であり、チート剣術を持つ正統派主人公枠となります。


……ただし、本人はなぜか伊織を師匠認定しています。


勇者として世界を救おうとする和也と、昼寝したいだけの伊織。


価値観がまったく噛み合わない二人ですが、今後も賑やかに物語を引っかき回してくれる予定です。


そしてラストでは、和也が弟子入りを志願。


当然のように断る伊織ですが、この程度で諦める勇者ではありません。


次回、第22話「賢者転生者登場」。


今度は勇者とは別方向に危険な転生者が現れます。


引き続きよろしくお願いいたします!

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