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第20話 私のスローライフどこ行った?

いつもお読みいただきありがとうございます!


人魚王国での豊漁祭も終わり、ようやく海辺へ帰れることになった伊織。


これで温泉に入りながら畑を眺める平和な毎日が戻ってくる――はずでした。


しかし、伊織が留守にしていた間にも周囲は勝手に発展していたようです。


第二部「海辺スローライフ編」最終話。


第20話「私のスローライフどこ行った?」をお楽しみください!

「帰る!」

私は力強く宣言した。

人魚王国での祭りが終わった翌朝。

王城の客室で荷物をまとめながら、心の底からそう思った。

もう十分だ。

十分すぎる。

観光した。

祭りにも参加した。

海底神殿も見た。

これ以上の面倒ごとはごめんである。

私は海辺へ帰るのだ。

そして。

昼寝する。

温泉に入る。

魚を獲る。

畑を眺める。

それこそが理想のスローライフである。

「海王様」

ルナが少し寂しそうな顔をした。

「もうお帰りになるのですか?」

「帰る」

「あと一週間ほど滞在を――」

「帰る」

「あと三日――」

「帰る」

即答だった。

これ以上いると、本当に人魚王国の仕事を押し付けられそうだ。

私は海底神殿の件を思い出した。

あれもまだ終わっていない。

絶対に関わりたくない。

「私は普通の海辺の住人だから」

「海王様ですが?」

「違う」

「海王様です」

「違う」

平行線だった。

結局。

盛大な見送りを受けながら私は帰路についた。

国王。

貴族。

騎士団。

人魚たち。

全員が手を振っている。

「海王様ー!」

「またお越しください!」

「王国はいつでも歓迎します!」

私は苦笑した。

たぶん。

しばらく来ない。

絶対に来ない。

できれば。

海を進む。

青い海。

穏やかな潮流。

久しぶりに心が落ち着いた。

「ああ……」

やっぱり海はいい。

静かだ。

平和だ。

誰も海王様とか言わない。

最高である。

その時。

ミナが笑顔で言った。

「帰ったらびっくりするよ」

「なにが?」

「見れば分かる!」

嫌な予感がした。

非常に嫌な予感がした。

数時間後。

私たちは海辺へ到着した。

そして。

私は固まった。

「……え?」

目の前に広がる光景。

知らない街だった。

いや。

正確には知っている。

ここは私が住んでいた海辺だ。

小さな漁村だった。

はずだった。

だが今は違う。

建物が増えている。

人が増えている。

船が増えている。

煙が上がっている。

活気がある。

どう見ても村ではない。

小さな港町だった。

「なにこれ」

私は震える声で呟いた。

ミナは笑顔だった。

「発展した!」

「発展しすぎじゃない?」

まず目に入ったのは温泉街だった。

私が見つけた温泉。

その周囲に旅館が並んでいる。

露天風呂。

土産物屋。

飲食店。

観光客。

なぜか行列までできていた。

「温泉街……」

私は遠い目になった。

次に見えたのは漁港。

以前より何倍も大きい。

桟橋が増設されている。

大型船まで停泊している。

漁師たちが忙しそうに働いていた。

さらに市場。

巨大な市場だった。

干物。

燻製。

塩漬け魚。

海産物が山のように並んでいる。

商人たちが叫ぶ。

客が集まる。

大繁盛である。

「なんで?」

私は本気で聞いた。

ミナは不思議そうな顔をした。

「伊織ちゃんが教えてくれたから」

「そんなに?」

「そんなに」

そんなにだったらしい。

私は頭を抱えた。

その時だった。

誰かが私を見つけた。

「あっ!」

嫌な予感。

「海王様だ!」

終わった。

次の瞬間。

周囲がざわついた。

「海王様!」

「海王様が帰ってきた!」

「本物だ!」

「温泉の神様だ!」

増えている。

称号が増えている。

なぜ。

観光客まで集まってきた。

「握手してください!」

「サインを!」

「写真を!」

写真はない。

この世界にカメラはない。

なのに雰囲気だけは完全に芸能人だった。

私は逃げた。

全力で。

自宅へ向かう。

せめて家だけは無事であってほしい。

静かな場所であってほしい。

そう願いながら走る。

そして。

家はあった。

ちゃんとあった。

私は安堵した。

「よかった……」

その瞬間。

家の横を見た。

固まった。

「……なにこれ」

そこには。

海王様記念広場。

と書かれた看板が立っていた。

噴水まである。

なぜ。

さらにその横。

海王様像。

私そっくりの石像だった。

触角まで再現されている。

誰が作った。

「伊織ちゃん」

ミナが肩を叩いた。

「人気者だね」

「嫌だ」

心の底から嫌だった。

その時。

ざばぁっ!

海から水柱が上がる。

ルナだった。

なぜいる。

帰ったんじゃないのか。

「海王様!」

「なに?」

「素晴らしいです!」

「なにが?」

ルナは両手を広げた。

「海王様のおかげで海辺が大発展しました!」

「私じゃないよ」

「海王様です!」

聞いていない。

私は周囲を見回した。

温泉街。

漁港。

市場。

観光客。

海王様像。

海王様記念広場。

どこにも静かな海辺はなかった。

私が夢見ていたスローライフは。

どこにもなかった。

私は空へ向かって叫ぶ。

「静かに暮らしたかっただけなのにぃぃぃ!!」

魂の叫びだった。

ルナは笑顔だった。

「海王様大人気ですね!」

ミナも笑った。

「諦めなよ」

私は膝から崩れ落ちた。

完全敗北だった。

だが。

その時。

触角がぴくりと反応する。

海の向こう。

遠い場所。

何かが近付いている。

船だ。

しかも一隻ではない。

複数。

かなり大きな船団だった。

商船ではない。

軍船でもない。

見たことのない旗が掲げられている。

私は首を傾げた。

「今度は何?」

嫌な予感がした。

そしてその予感は。

いつもよく当たるのだった。


第20話をお読みいただきありがとうございました!


これにて第二部「海辺スローライフ編」は終了となります。


振り返ってみると、伊織は畑を作り、温泉を発見し、料理を広め、海賊騒動を解決し、漁村を発展させ、人魚王国で祭りの主役になりました。


……本人は一度もそんなつもりではなかったのですが。


タイトル通り、「私のスローライフどこ行った?」という状況になってしまいましたね。


そしてラストでは、見慣れない船団が登場。


ここから物語は第三部「転生者襲来編」へ突入します。


伊織以外の転生者たちが現れ始め、世界は少しずつ騒がしくなっていきます。


次回、第21話「勇者転生者登場」。


新たな転生者との出会いをお楽しみに!


今後とも応援よろしくお願いいたします!

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