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第19話 海の祭り

いつもお読みいただきありがとうございます!


前回、海底神殿で邪神ロブスターや海王伝説に関する壁画が発見されました。

世界の歴史に関わる大発見だったのですが、人魚王国の皆さんが注目したのは別の部分だったようです。


今回はお祭り回!


人魚王国最大の豊漁祭が開催されます。


もちろん伊織は目立ちたくありません。

しかし周囲はそう思っていないようで……?


第19話「海の祭り」、どうぞお楽しみください!

「逃げよう」

私は本気でそう思った。

人魚王国に来てからというもの、面倒ごとしか増えていない。

海底神殿。

古代文明。

邪神ロブスター。

そして今。

目の前には巨大な横断幕が掲げられていた。

『第一回 海王様感謝豊漁祭』

「やめてほしい」

心の底からそう思った。

王都の大通りは祭り一色だった。

色鮮やかな珊瑚の飾り。

光る貝殻の提灯。

巨大な魚の山車。

無数の屋台。

人魚たちの歓声。

まるで異世界のテーマパークである。

「海王様!」

ルナが駆け寄ってきた。

今日は青い貝殻の装飾が付いた祭礼服を着ている。

やたら気合いが入っていた。

「祭りですよ!」

「知ってる」

「楽しみですね!」

「私は帰りたい」

「楽しみですね!」

聞いていなかった。

そこへ別の声が響く。

「伊織ちゃーん!」

振り返る。

ミナだった。

「ミナ!?」

私は驚いた。

なぜいる。

人魚王国なのに。

「招待された!」

満面の笑みだった。

聞けば、漁村の代表として呼ばれたらしい。

豊漁祭なので当然といえば当然だ。

「せっかくだから一緒に回ろう!」

「私は部屋に帰る」

「だめ!」

即座に腕を掴まれた。

逃げ道がなくなった。

そのまま祭りへ連行される。

王都は大盛況だった。

魚串。

焼き貝。

海藻麺。

海竜の卵料理。

珍しい食べ物が並んでいる。

「おぉ」

少しだけ興味が湧いた。

食べ歩きは好きだ。

スローライフの一環だから。

「海王様!」

ルナが魚串を差し出す。

「これ美味しいですよ!」

「ありがとう」

一口食べる。

美味しい。

普通に美味しい。

「どうですか!」

「美味しい」

「やはり海王様のお導きが!」

「関係ないよね?」

誰も聞いていない。

祭りは続く。

踊りの広場。

歌の舞台。

魚釣り大会。

宝探し。

ルナとミナは完全に満喫していた。

「海王様!踊りましょう!」

「踊らない」

「伊織ちゃん!こっち!」

「行かない」

「海王様ー!」

「伊織ちゃーん!」

左右から引っ張られる。

私は人形ではない。

その後も大変だった。

なぜか記念撮影。

なぜか握手会。

なぜかサインを求められる。

サインなんてない。

「海王様!」

「海王様だ!」

「握手してください!」

「普通の人なんだけど」

無理だった。

完全に有名人扱いである。

私はぐったりしていた。

そんな中。

祭りはさらに盛り上がっていく。

夕方になると広場に巨大な舞台が設置された。

人魚たちが集まっている。

嫌な予感。

非常に嫌な予感。

国王が現れた。

豪華な王冠。

豪華な祭礼服。

そして無駄に大きな声。

「皆の者!」

歓声が上がる。

「本日は素晴らしい日である!」

さらに歓声。

私はそっと後ろへ下がろうとした。

その瞬間。

ルナに捕まった。

「どこへ?」

「帰る」

「だめです」

終わった。

国王は続ける。

「近年最大の豊漁!」

「おおおお!」

「漁村の発展!」

「おおおお!」

「海底神殿の発見!」

「おおおお!」

嫌な流れ。

本当に嫌な流れ。

そして。

「全ては海王様のおかげである!」

広場が揺れた。

歓声で。

私は頭を抱えた。

違う。

本当に違う。

だが国王は止まらない。

「海王様をお呼びしよう!」

「やめて」

「海王様!」

「やめて」

「海王様!」

「やめてって」

だが。

スポットライトのような魔法の光が私を照らした。

逃げられない。

完全に見つかった。

「海王様ー!」

「海王様ー!」

「海王様ー!」

数万人規模の大合唱。

私は遠い目になった。

どうしてこうなった。

私はただ海辺で魚を獲っていたかっただけなのに。

気付けば祭りの主役である。

ルナは感動していた。

ミナは爆笑していた。

国王は泣いていた。

意味が分からない。

その後。

なぜか表彰された。

なぜか記念像の計画が発表された。

なぜか新しい称号まで増えた。

『海の守護者』

だそうだ。

いらない。

本当にいらない。

夜。

祭りの最後を飾る花火が上がった。

海中に咲く光の花。

色とりどりの魔法の光。

幻想的な景色だった。

「綺麗ですね、海王様」

ルナが微笑む。

「そうだね」

それは認める。

景色は本当に綺麗だった。

「伊織ちゃん!」

ミナも笑っている。

「楽しかった!」

「それはよかった」

二人は幸せそうだった。

それだけは救いだった。

だが。

私は気付いてしまった。

王都へ来てからの出来事を。

海王様認定。

温泉発見。

漁村復興。

海賊騒動。

海賊船獲得。

人魚王国招待。

海底神殿発見。

豊漁祭の主役。

私は空を見上げた。

海底だから本当は空ではない。

それでも見上げた。

そして呟く。

「……私のスローライフどこ行った?」

誰も答えない。

だがその問いに答えるように。

翌朝。

王城の客室の外から大勢の声が聞こえてきた。

「海王様!」

「相談があります!」

「お願いがあります!」

「助けてください!」

私は布団の中で現実逃避した。

嫌な予感しかしない。

どうやら。

私のスローライフは、どこか遠い場所へ旅立ってしまったらしい。


第19話をお読みいただきありがとうございました!


今回は久しぶりにコメディ色強めのお祭り回でした。


ルナとミナは思い切り楽しんでいましたが、伊織だけは最後まで逃げたがっていましたね。

ただ、本人の意思とは関係なく、気付けば祭りの主役になってしまうのがこの作品のいつもの流れです。


海王様。

温泉の発見者。

漁村復興の立役者。

海底神殿の発見者。


本人は何一つ自覚していませんが、周囲から見れば十分すぎるほどの英雄です。


そして次回はいよいよ第二部の締めくくり。


海辺へ帰ってきた伊織を待っていたものとは――。


次回、第20話「私のスローライフどこ行った?」


スローライフを目指し続けた少女の、ちょっとだけ切実なお話です。


引き続きよろしくお願いします!

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