第15話 海賊船をもらった
海賊襲来編後編です!
前回、何もしていないのに海賊たちから「海王様の怒りだ!」と恐れられてしまった伊織。
事件は解決しましたが、海辺には海賊船がそのまま残されていました。
今回はその後始末回……のはずだったのですが、当然そんな簡単には終わりません。
第15話「海賊船をもらった」、どうぞお楽しみください。
海賊襲来事件から三日後。
私は海辺の岩場に座っていた。
潮風が気持ちいい。
波も穏やかだ。
ようやく平和が戻ってきた。
……と思いたかった。
「海王様!」
思えなかった。
「伊織ちゃーん!」
思えなかった。
左右から聞こえてくる聞き慣れた声。
右には人魚姫ルナ。
左には漁師娘ミナ。
最近では朝の挨拶みたいな頻度で現れる。
「おはよう」
私は諦めたように返事をした。
「おはようございます、海王様!」
「おはよー!」
二人は元気だった。
私だけが疲れている。
理不尽である。
「で、今日は何?」
嫌な予感がしたので先に聞いておく。
するとミナが海を指差した。
「船!」
「船?」
私は視線を向けた。
そして思い出す。
海賊船だった。
座礁したままの大型船が何隻も残っている。
海賊たちは逃げた。
荷物も置いていった。
結果として船だけが海辺に取り残されている状態だった。
「まだあったんだ」
「あるよ!」
「片付けないの?」
「誰も近寄りたがらないんだって」
ミナは肩をすくめた。
海賊船。
縁起が悪い。
呪われていそう。
確かにそう思う人は多そうだ。
するとルナが頷いた。
「海王様が撃退なされた船ですから」
「撃退してない」
「海王様以外に触れられるはずがありません」
「そんなことないと思う」
だが村人たちは本気らしい。
その証拠に誰も近付かない。
放置状態である。
私はしばらく船を眺めた。
大きい。
かなり大きい。
漁船より何倍も大きい。
帆もある。
貨物室もある。
居住区もある。
そして。
「もったいなくない?」
思わず呟いた。
ミナが反応した。
「そう?」
「使えそうだし」
「確かに」
私は少し興味が湧いてきた。
前世でも船なんて持ったことがない。
むしろ普通の人間は持たない。
せっかくだ。
見に行ってみよう。
「ちょっと乗ってみる」
「えっ」
ミナが目を丸くした。
「本当に?」
「うん」
「怖くない?」
「別に」
海賊はもういない。
船だけならただの乗り物だ。
私は海辺へ向かった。
すると村人たちがざわつき始める。
「海王様が動いたぞ」
「何か始まる」
「きっと神託だ」
違う。
本当に違う。
私は流すことにした。
海賊船へ乗り込む。
ぎしっ。
甲板が軋んだ。
意外と状態は悪くない。
むしろかなり立派だった。
「おぉ」
思わず感心する。
船内も広い。
食料庫。
倉庫。
寝室。
船長室。
なんでも揃っている。
海賊船というより大型帆船だ。
私は船長室へ入った。
地図がある。
航海日誌もある。
机もある。
椅子もある。
「普通にすごいな」
前世なら高額だろう。
異世界でも相当な価値があるはずだ。
その時だった。
「海王様!」
ルナが入ってきた。
「この船はいかがですか?」
「結構いい船だね」
「では献上いたします」
「ん?」
私は固まった。
「献上?」
「はい」
ルナは当然のように頷く。
「海王様が沈めた船ですので」
「沈めてない」
「海王様の戦利品です」
「違う」
だがルナは聞いていなかった。
その頃には村長までやって来ていた。
「おお!」
嫌な予感。
「まさに海王様の御船ですな!」
「違う」
「当然、所有者は海王様です」
「違うって」
しかし満場一致だった。
村人たち。
人魚族。
全員が頷いている。
私だけ反対している。
民主主義なら負けていた。
「いやでも私、船なんて使わないし」
そう言った瞬間。
ミナが首を傾げた。
「そうかな?」
「そうだよ」
「海の向こう行けるよ?」
「うん」
「遠くまで行けるよ?」
「うん」
「新しい魚も獲れるよ?」
「……」
少しだけ心が揺れた。
いや。
かなり揺れた。
前世から海は好きだった。
未知の海域も気になる。
異世界の魚なんてもっと気になる。
私は船を見た。
船もこちらを見ている気がした。
もちろん気のせいだ。
「まあ……」
少し考える。
「持ってるだけならいいか」
その瞬間だった。
「おおおおおお!」
歓声が上がった。
「海王様が御船を受け取られた!」
「伝説の始まりだ!」
「海王艦隊だ!」
「まだ一隻だよ!?」
なぜ艦隊になるのか。
理解できない。
だがもう止まらなかった。
その日のうちに村人たちは船の修理を始めた。
帆を張り替える。
船底を補強する。
壊れた部分を直す。
全員やる気満々だった。
私はぼんやり眺める。
「みんな元気だなぁ」
するとミナが笑った。
「伊織ちゃんの船だもん」
「私の船かぁ」
改めて言われると不思議な感じだった。
前世では車すら持っていなかった。
それが今では大型帆船の持ち主である。
人生は分からない。
転生はもっと分からない。
夕方。
修理はほぼ終わった。
海賊旗も外された。
代わりに白い旗が掲げられている。
なぜか中央には海老の絵まで描かれていた。
「誰が描いたの?」
「村の子供たち!」
ミナが胸を張る。
「かわいいでしょ!」
「うん」
少しだけ嬉しかった。
少しだけだ。
その時。
ぴくっ。
触角が反応した。
私は海の方を向く。
遠く。
ずっと遠く。
水平線の彼方。
何かがある。
知らない場所。
知らない海。
まだ見たことのない世界。
「……」
少しだけ。
ほんの少しだけ。
気になった。
するとルナが微笑む。
「海王様」
「なに?」
「いつか一緒に旅をしましょう」
私は笑った。
「その予定はないかな」
スローライフが目標なのだ。
旅なんて面倒そうだし。
危険そうだし。
疲れそうだし。
絶対に行かない。
そう思っていた。
だが。
その時の私はまだ知らなかった。
この船が。
後に世界中を巡ることになることを。
そして私のスローライフを、さらに遠くへ連れ去ることになることを。
第15話を読んでいただきありがとうございました!
海賊退治の報酬として財宝をもらう――というのはよくある展開ですが、この作品の場合は船そのものをもらうことになりました。
しかも本人は特に欲しがっていません。
ただ「もったいないなぁ」と思っただけです。
とはいえ、この海賊船は今後の物語で意外と重要な役割を持つことになります。
海辺中心だった伊織の世界が、少しずつ広がり始める最初の一歩かもしれません。
もちろん本人はまだスローライフする気満々ですが。
次回は第16話「漁村復興計画」。
海賊騒動をきっかけに、村がさらに発展していきます。
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